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二十五幕 凶事



 (ちゅう)(へい)二年(西暦一八五年)二月十五日。

 ()(じょう)を包囲していた(じょう)(らく)(ぐん)が姿を消した。

 その報告が洛陽に入ったのは五日後の二月二十日であった。

 事ここに至って、(かん)(りょう)(しゅう)の騒乱を重く受け止め、対処のための軍を編成することを表明した。

 その情報は各地に広まり、特に渦中の地である涼州にはあっという間に知らぬ者のいない情報となった。

 その情報のために、様々な人間が動き出した。



 「さて、では、(らく)(よう)軍を出迎えるとしよう」

 ()(らい)(けん)(けん)(ちょう)(りゅう)(しゅん)が静かに言う。

 県長府の執務室には(けん)(じょう)(県長の副官)の(らい)(じょ)(けん)()(県の警察長官)の(ちょう)(せん)、官吏見習いの(ちょう)(しゅう)とコウ・シャーチィがいた。

 「(ぜつ)()。張繍とシャーチィを連れて、(ろう)(けん)に向かってくれ。二週間ほど前に上洛軍は冀城から撤退した。彼らの目的を考えれば、そのまま洛陽に向かうため、隴県を通るはず。隴県を抜かれなければ、彼らの(さん)()侵入は叶わない」

 「わかった」

 室内で、人が少ないからこそ辛うじて聞き取れるような返事を張先はする。(きょう)(しゅ)もせずに。

 「絶無殿。せめて(きょう)(しゅ)されよ」

 雷叙が口を挟むが、張先はゆるゆると首を振った。

 「無駄な問答だ。俺は県長に依頼を受けた。その依頼を遂行する。関係は対等だ」

 「対等なわけがあるか。(えい)(しゅん)殿は上司だぞ!」

 雷叙が顔を真っ赤にして怒鳴るが、劉雋は困ったように眉根を寄せながら「まあまあ」というだけだった。

 「とにかく、僕と()(げん)はここに残る。全員で出て政庁を空にするわけにもいかないからね。絶無は隴県の守備に入って洛陽の官軍とうまく連携を取ってほしい。現場の判断は任せるからね」

 「わかった。しかし、こちらは大丈夫か。上洛軍に触発されて各地の賊も活発になっている。まさか、政庁を襲うような輩もいないとは思うが」

 「それに関しても警戒を厳にするように城内に残った守備兵に伝えてあるよ」

 「何かあったら知らせろ。すぐに戻る」

 「うん。そこは頼らせてもらうね。それじゃあ、三人とも。出発は明日。途中で(ちょう)()(ほう)殿と合流して編成を終えたら、隴まで向かってくれ。張輝抱殿との合流地点は、身内の張繍が調整してくれている」

 劉雋が張繍に目を向けると、張繍は胸を張って頷いた。

 「お任せください。()()()で合流する手筈です」

 張繍が拱手をしながら答えると、劉雋は満足そうに目を細めた。

 「うん。さすが。心配していなかったけど、疎漏はないね」

 久利里は租厲県の県城から隴県の県城に向かうまでの直線上にある租厲県所属の()(村のこと)だ。

 豪族である(ちょう)(さい)を租厲軍の進路上まで動かした形だ。

 正規軍に豪族が合流する、という名目がしっかりと立っている。

 これが逆に張済を迎えに行くような姿勢を見せれば、官軍が一部の豪族と癒着しているように見えてしまう。それは他の豪族の反感も買いかねない。

 張繍のやり方であれば、他の豪族も参加がしやすくなる。

 「戦場では万が一も起こりうる。シャーチィ。君も張繍と共に絶無を支えてやってほしい。あまり二人を危険な目に合わせたくはないのだけど、せっかく危地に飛び込むのならば、しっかりと得るものを持って帰っておいでね」

 「………わかりました」

 シャーチィは照れたように視線を逸らし、唇を尖らせながら返事をした。

 そんな様子に、劉雋は頬を緩ませながら二人の頭に手を置く。

 「いってらっしゃい。気をつけてね。お土産は君たちの活躍話がいいな。楽しみにしているよ」

 そんな劉雋に、張繍は満面の笑みで、シャーチィは視線を泳がせながら、(きょう)(しゅ)で「はい」と答えた。



 雷叙と劉雋は洛陽より来たる討伐軍に合流するべく進発した租厲軍を見送った。

 城内の治安維持のために五百ほど兵を残し、残りの千五百が隴県の()(しょ)である(ろう)(じょう)に向かった。

 途中で豪族張輝抱の騎馬隊三千と合流し、四千五百の軍容で堂々と進軍する予定だ。

 道々の各県でも声をかけ、兵の一部を借り受ける算段も付けてある。

 しかし、途上にある()(よう)(せい)()(らん)(かん)などは既に(がい)(くん)が兵を纏めて動いているという。そちらの部隊とも連携を取り、蓋勲が徴募しきれなかった他の県の兵を纏め洛陽軍に合流するのだ。

 隴に着く頃には各県の県城兵や豪族の私兵が合流し、万を超す軍勢となるだろう。

 上洛軍が兵を募っている間、劉雋も(ろう)西(せい)(ぐん)(たい)(しゅ)()(さん)(かん)(よう)(ぐん)太守・(はん)(しん)を通じて隴西・漢陽両郡からも兵を求めている。

 事は既に、上洛軍と各郡太守のどちらがより人心を集められるかという戦いになってきていた。

 (まだ、わずかながら、こちらには分があるだろう)

 劉雋はそう心中で断じる。

 確かに、上洛軍の標榜とする旗は魅力的である。

 腐敗した政治を断罪し、国家の中枢を清めるであろう蛮行だ。

 民の支持は得やすいだろう。

 賊の支持も得るだろう。

 しかし、結果として前年の(こう)(きん)の乱のように上洛軍の規模がすぐに膨れ上がるとは思えなかった。

 というのも、反乱を起こすことは、犯罪なのである。

 当たり前すぎることだ。

 すでに罪を犯している賊や、覚悟を決めた官吏たち、兵たちは上洛軍に参加する。

 しかし、民たちはどうか。

 上洛軍に賛同するかもしれない。

 上洛軍に希望を託すかもしれない。

 心の内を罰することができない以上、それは民たちの自由だ。

 しかし、一度行動に移してしまえば、罪人となる。謀反人と、なるのだ。

 その覚悟を背負って、上洛軍に参入する者がどれだけいるか。

 (かん)についていれば、上洛軍からも(かん)からも罪に問われることはない。

 上洛軍につけば、少なくとも、(かん)の中では犯罪者として扱われ、本人だけでなく、その家族すらも罪を負うことになってしまうのだ。

 リスクが高すぎる。

 そう、劉雋は予想し、そして動いている。今も、各(けん)(れい)たちと連携を取るために書簡の作成を行っていた。

 しかし、劉雋は失念している。

 利害がかみ合っていなくても、人は動くということを。

 理性的に判断する人間だけではないということを。



 張先が租厲の兵を連れて城を進発して三日が経った。

 (張繍はそろそろ、家族と合流する頃かな)

 そんなことを考えながら執務室で職務に励む劉雋のもとに、(しょ)()の男が顔を出した。

 書佐とは主に文書の作成を行う役職であり、現代のように電子機器のない時代、発布するための文書などは彼らが作成していた。

 「県長様。お客様です」

 「客?」

 言われて劉雋は頭の中で予定を確認するが、覚えがない。

 「誰だい?」

 「(ばく)()の者だ、と」

 問われた書佐の男はそう困ったように返した。

 「曝里の(きく)(しょう)という者が、訪ねておいでです」

 その言葉に、劉雋は満面の笑顔で答えた。

 「ああ、来てくれたのか。いいよ、通して」



 曝里。

 劉雋が造り上げた特殊な()だ。

 人の輪に溶け込めない者。

 和を尊しと思えない者。

 他者を貶めなければ充足できない者。

 そういった者たちを集め、落伍しないように仕事を与えるために作った()だった。

 そうやって、社会生活を送るうちに大切な物ができて、

 人の輪に溶け込めないまでも混ざれるように。

 和を尊しと思えないまでも重視できるように。

 充足をせずとも小さな幸せを積み重ねていけるように。

 そんな願いと共に造り上げた理想郷だった。

 麹勝はそんな曝里の中でもかなりのはねっかえりで有名だった。

 他に混ざることも、他を重視することも、小さな幸せを積むことも。

 全てが彼にとっては否定対象であり、憎悪の矛先であった。

 今回の件でも、曝里に従軍要請は出したものの強要はしていない。

 本人たちがやりたいと思わないのであれば、思えないのであれば、まだ、曝里の者は更生していないということだ。

 そう思っていたのだが、曝里の中でも特に社会復帰までが遠いと思っていた麹勝が、この地に駆けつけてくれたのだ。

 まるで、反抗期の息子が照れ臭そうにしながら父の日の贈り物を用意してくれた日の父親のように喜びながら劉雋は麹勝を迎えに行った。



 「曝里・麹勝です。ご無沙汰しており申し訳ありません。県長様におかれましては、ご壮健のようで何よりです」

 応対のために広間に来た劉雋を見て、麹勝は即座に膝を折り、丁寧な挨拶を送った。

 「麹勝殿。こちらこそなかなか曝里に様子を見に行けず申し訳なかった。それで、今日はいったいどんな用事だい? 生憎だけど、今はちょっとした作戦行動中でね。要望があっても十全には叶えられないかもしれない。それでも、できる限りのことはするよ」

 そう言ってくる劉雋に、麹勝は柔らかな笑みを浮かべて頭を振った。

 「いえ。租厲県が県を上げて上洛軍を討伐するために軍を興したことは承知しています。租厲の守りを少しでも担えれば幸いと、曝里の者を五百人連れてきています。彼らを城内に入れる許可をもらいたいのです」

 麹勝の言葉は劉雋にとって望外の知らせだった。

 租厲城に残った兵は五百名。

 城内だけに意識を向けるのであればなんとか治安は維持できる。

 しかし、城外にも民は暮らしている。

 そして、城外に点在する()の方が、賊に襲われる確率は高いのだ。

 城外を巡回するにしても、今度は城内の目が足りなくなる。

 劉雋は十全に治安を維持できないことを覚悟のうえで、外征の部隊を編成することを決めた。その上で少しでも治安を悪化させないよう、城内と城外の巡回部隊も編成し、残った兵たちで回しているのだ。

 当然、手が足りない。

 普段、二千人を用いて行っている作業を五百人の兵で行わなければならない。

 戦力になる兵も指揮官もすべて隴に向かわせてしまった。

 城内に残っているのは、劉雋も含めて皆が荒事に向かない連中ばかりだ。

 数も、質も、全てが今の租厲は平時に比べて心許ない。

 そこに、荒事に長けた曝里の者が五百名も集まった。

 これは数字以上の価値がある出来事なのだ。

 「本当かい!? 助かるよ、麹勝。もちろん、全員城内に入れていい。その上で警邏部隊の編成をしよう」

 嬉しそうに声を弾ませる劉雋に、麹勝は内心の嘲笑を押し隠して(きょう)(しゅ)をした。



 「まったく、バカバカしいにも程がある」

 あっさりと、拍子抜けすら感じるほどに、曝里兵五百名が租厲県の県城に侵入することができた。

 「で、麹勝。これからどう動くんだ」

 「混乱を。混沌を。破壊を。殺戮を。一番は俺についてこい。それ以外は、城内に散って、四半刻(約三十分)後、散った先で火をつけろ」

 (さい)(ちゅう)が頷くと、それぞれに指示を出し始める。

 「上から目線で施してくるお大臣様に、目に物見せてやろうぜ」

 麹勝の言葉に、男たちが楽しそうな声を上げた。



 曝里兵が入場して四半刻後。

 麹勝は再び政庁に赴き県長執務室を訪ねていた。

 劉雋に招かれたのだ。

 招かれた理由は、

 「では、やはり上洛軍の誘いは君たちにも来ていたんだね」

 「ええ。手あたり次第に送っている。そんな印象を受けました。有力者や豪族、果ては県令や県長、太守に至るまで無秩序に送っていることでしょう」

 「そうか。まあ、でも、大丈夫だ。現に君たちはこうして上洛軍に靡かずこちらに付いてくれた。洛陽より来る軍と、涼州の諸侯たちの軍が合わされば、上洛軍を蹴散らすのもわけないだろう」

 そう言って、劉雋が麹勝を安心させるために笑いかけた、その時。


 ―――カンカンカンカン。


 甲高い鐘の音が、城内に響き渡った。

 「この音は、火事か」

 劉雋が責任者として対応をするために立ち上がった。

 しかし。


 ―――カンカンカンカン。


 別の方角からも火事を知らせる鐘が鳴り、更にそれに連動するかのように他の方角からも鳴り始める。

 「な」

 劉雋は余りの事態に眩暈がした。

 よりにもよって、曝里の人間が来たその日に、複数個所で火事が起きるとは。

 これではまた、曝里の人間の心証が悪くなりかねない。

 「失礼いたします! 劉県長! 城内で火災発生です! 四方で何者かが火をつけており」

 伝令の兵が県長室に入ってそう報告をした。しようとした。

 しかし、彼の言葉は最後まで続くことはなかった。

 「な、に」

 麹勝が、

 「何を、して」

 伝令兵の喉を。

 「何をしているんだ、麹勝!!」

 懐に忍ばせていた短刀で掻き切ったからだ。

 短刀を振って、血を払うと、麹勝は劉雋に近づく。

 「どういうつもりだ、麹勝」

 問われても、麹勝は何も答えず、そのまま歩みを進める。

 「そこで止まれ。麹勝。止まらなければ、斬る」

 「っ」

 そこで初めて、麹勝が反応らしい反応を見せた。

 「っくっくっく」

 笑ったのだ。

 「ああ、ダメだ。あまりにあんまりで堪えきれなかったよ、県長殿。この城はいただく。上から目線で、俺に話しかけるな」

 「―――――――」

 劉雋が目を見開き、そして、覚悟を決めたようにその眦に力を籠める。

 そして、剣を抜いて、麹勝に斬りかかった。

 「目の前で部下を殺されて。そんな人間に対して即座に動かず対話を選ぶ。なにもかもが、悪手だなぁ」

 慣れない荒事。

 それでも、責任者として、最低限の訓練は受けていた。

 しかし、そんな付け焼刃では。

 全てを『暴』に捧げている人間には傷ひとつつけられず。

 「ご、ぶ」

 逆に、劉雋の命に、ぞぶり、と。

 深く、傷を、つけられた。

 「な、なぜ、なんだ、麹勝。何が、不満、で」

 剣を振り上げた劉雋。隙だらけのその姿とすれ違いざまに麹勝は短刀を深々と劉雋の胸に突き立てていた。

 そして、短刀を引き抜きがてら、劉雋の身体を麹勝の方に向けさせる。

 たたらを踏んで不格好なコマのように、劉雋はよたよたと麹勝に向き直った。

 「不満? なぜ? 理由が必要かよ。お偉いさまは言うことがちげえな。目障り。耳障り。気障り。もう死ね、無能が」

 傷ついたように顔を強張らせた劉雋を、それ以上喋らせないように、麹勝は短刀で首を刎ねて殺した。

 血が、吹き出し、床を、壁を朱に染める。

 執務室から城内を見下ろすと、あちこちで火が、煙が、そして悲鳴が上がっていた。

 そんな混乱の合唱に、麹勝はニタニタと笑いながら聞き惚れていた。



 「っ、っ、っ、っ、っ」

 口を両手で覆って必死に声が漏れないようにしていた。

 雷叙。(あざな)を始元。

 租厲県の県丞の地位を担っている男だ。

 県長である劉雋が曝里の若者を執務室に招いたことに不満を持ち、勝手ながら様子を見に来た。

 曝里はそもそも、こちらの常識の埒外にある()だ。

 そこに住まう者を劉雋はうまく使おうとしていた。しかし、雷叙は疑問だった。

 果たして、そんなに都合よく使われてくれるような存在なのだろうかと。

 しかし、その疑問も張繍やコウ・シャーチィを見て段々と薄れていった。

 やはり、県長の考えは間違っていなかったのだ。

 しかしそれはそれとして、曝里の若者・麹勝と一対一で会うのはさすがに危険ではないかと考えた。

 だから、官吏の一人から話を聞いた雷叙は念のために執務室を訪れようとした。

 扉の前に立ち、室内に声をかけようとして、足元からぴちゃり、と音がした。

 視線を下に送り、雷叙は腰から下の力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。

 扉の隙間から廊下に向けて液体が流れている。

 赤黒いその液体は、室内から外に向けて流れており、僅かな水たまりを作っていた。

 そして、それを認識したとたんに遅れてやってくる鉄錆のような強烈な臭い。

 悲鳴を上げそうになり、咄嗟に口を押さえた自分を褒めてやりたいほどだった。

 室内にいたはずなのは、劉雋と麹勝。

 仮に何らかの事情があって劉雋が麹勝を斬ったというのならば、劉雋はすぐに人を呼んだはずだ。しかし、未だ政庁内で動く人々は城内の火事による混乱に対処する者ばかりだ。

 ならば、害されたのは。

 確認する必要がある。

 雷叙は、執務室の扉から目を離さないようにしながら、少しずつ執務室から距離を取った。

 県長の執務室から少し離れた場所に書佐の集まる執務室がある。

 その執務室の中に、雷叙は声をかけた。

 「至急だ。県長室の様子を見てきてくれ。何人かで行け」

 書佐の若者たちは訝しげに眉をしかめたが、すぐに三人の書佐が県長室に向かった。

 そして悲鳴を上げた。「劉県長!?」と。

 しかし、悲鳴を上げた三人は県長室から出てくる様子がない。

 ぴちゃり、と水音を響かせて、誰かが出てこようとしているのがわかった。

 その背格好が劉雋のものでないとわかった瞬間。

 雷叙は下手人に見られるより早く、その場から逃げ出した。

 政庁の裏にある馬場を目掛けて一目散に走る。

 走りながら考えた。

 他の者に知らせるべきか。

 否だ。

 現在多発している火事。そして県長室で起こった凶行。

 これは計画された犯行だ。

 城内で火事を起こして城内の警備兵を分散させ、最高司令官である劉雋を殺害し、命令系統が混乱した状態の警備兵を強襲し、防衛力のなくなった政庁を占拠する。

 これは、そういう絵図だ。

 下手に騒ぎを大きくしてしまえば、城外に脱出することは不可能になる。城内に散っている曝里兵たちは現在、まだことが露見していないとして城内を混乱させるために動いている。しかし、ことが露見してしまえば、まず城門を抑え、外と連絡が取れないようにしてからゆっくりと城内を制圧する方針に変えるだろう。

 城は外からの攻撃には防御力を持つが、内に敵を抱えた際の防御力は皆無に等しい。

 城内にいる兵も民も犠牲になるだろうが、それでも外に出て張先に知らせなければ被害はもっと大きくなってしまう。

 「開門せよ! 開門せよ! (らい)()(げん)だ! 開門せよ!!」

 城門にいる兵に告げて門を開けさせる。

 門は夜になると閉まる。すでに陽が落ちかけていた。

 雷叙は駆け抜けつつ門兵に告げる。

 「曝里の謀反だ。すぐに、火事の消火活動に当たっている守備兵と合流し防衛を行え。私が県尉を連れて戻るまで耐えてくれ!」

 そう言って、雷叙は租厲城の外に飛び出した。

 門兵たちは顔を見合わせると、泡を食ったように門を閉じ、火事が起こっている方へ走っていった。

 雷叙は一人、馬を駆る。

 十里(約4㎞)ほど無心で駆けた。

 そして、馬を駆りながら、ここで初めて、涙を流した。


史実でも麹勝は租厲県県長の劉雋を殺害していますが、いったいどうやったのでしょうね。

とりあえず、佐久彦はこのようにして麹勝に暴れさせました。

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