生かされた命
アシュクラはワイバーンの背に身を預け、空気を裂くようにして上空を飛んでいた。
風に揺れる雲の切れ間から、地上の風景が遠く覗いている。
「いや~、思った以上だったね。エイムちゃんにシラセちゃん」
弾む声でそう言い、彼は満足げに目を細めた。
「最高に楽しかったな~♪ 次はどの子で遊ぼうか!」
ワイバーンが翼を打つたび、骨ばった背中が微かに軋む。
その振動すら心地よいのか、アシュクラは独り言を続けた。
「それにしても、最後は結構危なかったね!
試してた魔法がうまくいってよかったよかった♪
やっぱりさ、僕もまだまだ魔法を深めていかなきゃいけないってことかな~?」
一瞬だけ、考え込むような間が落ちる。
「ちょっとめんどいけど……でも、楽しそうだな!」
その視線には、何かを期待するような無邪気さが宿る。
だが次の瞬間、その表情はわずかに曇った。
「……あー……あいつへの報告、どうしようか。
……まあ、今は考えないようにしよ!」
自分に言い聞かせるように明るく言い切り、笑顔を作って見せた。
「せっかく気分がいいんだしね~♪」
アシュクラにとって、あれは激闘でも死線でもなかった。
ただの――遊び。
その無邪気な笑顔は、まるで面白いおもちゃを手に入れた子どものように、屈託がなかった。
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エイムとシラセは、ただ立ち尽くしていた。
今、自分たちがこの場所に立っているのは――勝ったからではない。
単なる、あいつの気まぐれ。
その事実が重く胸にのしかかるのを、シラセは痛感していた。
そして、次の瞬間――耳を裂くような激痛が、遅れて意識を貫いた。
興奮状態が解け、ようやく身体が悲鳴を上げ始めたのだ。
「――ッ、ぐぁぁ……!」
反射的に両耳を押さえ、その場に膝をつく。
視界が揺れ、音が遠ざかる。
「シラセ! 大丈夫!? すぐ手当てしないと!!」
エイムは慌ててリュックを開き、いくつもの粉末を取り出した。
「とにかく、今は痛み止めと……回復を促す薬を――!」
手際よく調合された薬が、ゆっくりとシラセの耳へと流し込まれる。
苦悶に歪んでいた表情は、わずかに和らいだ。
だが、消耗はあまりにも激しい。
このまま森を進むのは危険――
エイムは迷わず判断し、引き返す決断を下した。
彼女はシラセを背負い、マナブーストで脚力を高める。
宿屋へと向かう道すがら、二人の背後には、言葉にできない後味の悪い静寂だけが残されていた。
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数日後。
シラセは、宿屋のベッドに腰掛けていた。
エイムの薬のおかげで、聴力は回復傾向にある。
「よかったね、シラセ。鼓膜は破れてたけど、耳の奥までは傷ついてなかったみたい」
エイムの声はまだ少しくぐもって聞こえるが、それでも、意味ははっきりと理解できた。
「……ああ」
返事は短い。
シラセの表情は、依然として晴れなかった。
敵の強さを、はっきりと認識してしまった今――
浮かれた気持ちになれるはずがなかった。
沈黙するシラセを、エイムは黙って見つめていた。
やがて、何かを決めたように背筋を伸ばし、力強く口を開く。
「シラセ。確かに私も、不安だよ。
あのアシュクラって人……とても強かった。きっと、本当はもっと強いと思う。」
一瞬、言葉を選ぶように間を置き、続ける。
「私たち、たまたま生かされたんだと思う。
でもね――だったらさ。」
エイムは、まっすぐと前を見据えて、言う。
「私たちだって、もっと強くなればいいんだよ!」
「……」
シラセは、床を見つめたまま黙っていた。
「……私ね、あの戦いの中で、うれしいことがあったの」
「……え?」
思わず、顔を上げる。
「シラセ、すごく精巧に蔦を作ってたでしょ。それに、フラッシュバインドまで。
あれって、私が一生懸命伝えてきた植物のこと……ちゃんと受け止めてくれてたってことだよね」
エイムは少し照れくさそうに、けれど真っ直ぐに笑った。
「だから、戦いの最中なのに……なんだか、うれしくなっちゃったんだ」
大きな瞳が、真正面からシラセを捉える。
その視線に、思わず頬が熱くなるのを感じた。
「大丈夫だよ。シラセは、ちゃんと強くなってる。
本当に……驚くくらい。きっと、あの守護英雄も、すぐに追い越しちゃうよ!」
――守護英雄様。
そうだ、俺が憧れた存在。
圧倒的な力を持ちながら、それを惜しみなく人々を守るために振るった者。
だからこそ、その名は今も『守護英雄』として語り継がれている。
俺は、どうなりたかった?
どう、生きたかった――?
シラセは黙って、自分に問いかける。
そしてーー前を向いた。
シラセを見つめていたエイムは、ふっと頬を緩めた。
その瞳の奥に、確かな「意志」が、再び灯っているのを見たからだった。
「ああ、そうだな。
俺は、もっと強くなる。そして、絶対に…」
「守護英雄様を、超えてみせるぜ!」
シラセの声は、熱を取り戻していたようだった。
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