アシュクラの魔法
地面に、セイレーンたちの骨が乾いた音を立てて散らばった。
それを呆然と見下ろしていたアシュクラは、ふいに顔を伏せ――次の瞬間、肩を震わせて笑い出した。
「……クッククク……アッハハハハ!」
笑い声は次第に大きくなり、愉悦を隠そうともしない。
「いやあ、予想以上だよシラセちゃん! とても……楽しませてもらったねぇ!」
シラセは眉をひそめた。
耳には何も届かない。それでも、歪んだ笑顔と誇張された身振りだけで、言葉の内容は嫌というほど伝わってくる。
「……この状況で、まだ笑うかよ……」
低く吐き捨てるように呟き、視線を鋭く向ける。
「言っとくけどな……おまえ自身も包囲されてるんだぜ!?」
その瞬間――
木々を這っていた白い蔦がまたものすごい勢いで急成長し、アシュクラの両足に瞬時に絡みついた。
「少しでも妙なそぶりを見せたら……セイレーンと同じだ。棘で足を貫く!」
こいつが、一連の事件に関わっていることは明白だ。
捕らえて、情報を吐かせる。
そのためには、こいつに傷を負わせることも、いとわない。
シラセはそう自分に言い聞かせていた。
だがその胸の奥では、別の感情が蠢いている。
――人を、傷つける恐怖。
人々を喰らい、苦しめる魔獣なら、迷いはない。
だが、同じ人間相手に攻撃をすることは、シラセにとっては初めてだった。
どうしてもーー躊躇してしまう自分がいた。
シラセ自身、その怯えを自覚してはいなかった。
それでも無意識のうちに、彼は致命傷にならない“両足”だけを拘束していた。
そんな内情を知ってか知らずか。
両足を封じられたままのアシュクラは、貼りついたような笑みを崩さない。
「……ふふ……すごいねえ。一瞬で捕まっちゃった」
視線を揺らし、試すように続ける。
「でも、シラセちゃんもだいぶ……お疲れみたいだね。大丈夫かな?
……って、聞こえてないか」
事実、シラセは急激な具現化を繰り返して、マナを激しく消耗していた。
視界がわずかに揺れる。体が、ふらついていた。
「まあ……ここで捕まるのも面倒だし」
アシュクラは軽い調子で肩をすくめる。
「悪いけど、今日はここでおいとましようかな。いや~楽しかったよ、ありがとうね」
そう言って、ローブの内側に手を差し入れる。
取り出したのは――白い骨から削りだされた、一振りの剣だった。
「ッ!」
その挙動を見た瞬間、シラセの背筋に冷たいものが走る。
この状況でも、なお何かを仕掛けてくる。
一瞬、人を傷つけることへのためらいがよぎった。
だが――次の瞬間、エイムの顔が脳裏をよぎる。
下手をすれば、自分だけじゃない。エイムまで命が危なくなる!
シラセは歯を食いしばり、決断した。
蔦に絡みつく両足から、電光石火の速さで棘を具現化する。
しかし――
ギィン!!
鈍く、異様な音。
突き出した棘は肉を貫くことなく、硬質な何かに弾かれ、欠けていた。
(なんだ……!? 刺さらねえ!!)
その一瞬の隙を逃さず、アシュクラは骨の剣を振るう。
刹那、剣身から業火が噴き上がり――
蔦は、一瞬のうちに焼き払われた。
(こいつ……!!
魔獣を召喚するだけじゃねえのかよ……!?)
「シラセ!! いったん下がって!! 危険だよ!!」
叫びと同時に、エイムがマナブーストで距離を詰める。
シラセの体を引き寄せ、強引にアシュクラから引き離した。
二人は距離を取り、警戒の眼差しで敵をにらみつける。
対してアシュクラは、相変わらずの薄笑いを浮かべたまま、またローブの中を探っていた。
取り出されたのは、拳ほどの大きさの骨。
そこにマナが注がれた瞬間――
骨は深い紫色に輝き、空間が歪む。
そして現れたのは、大人一人を悠々と乗せられる、巨大な翼竜だった。
「な……こいつは……ワイバーンか……!?」
思わず漏れたシラセの呟きに、アシュクラは楽しげに目を細めた。
「ふふ、ご名答。ずいぶん詳しいんだね♪」
軽やかにワイバーンの背へとまたがり、言葉を続ける。
「じゃあ、もうわかるだろう? 今日はこれで、ばいばいってこと」
強靭な両翼が地面を薙ぎ払う。
砂と風が舞い上がり、次の瞬間――彼らの姿は一気に上空へと舞い上がっていた。
「……おい、待て……!」
駆け出そうとしたシラセの体が、ぐらりと揺れる。
エイムがすぐに支え、何も言わず首を横に振った。
「いやー、今日は楽しかったよ! ありがとう、また遊ぼうね~♪」
どこまでものんきな声を残し、アシュクラたちは空を駆け、遠ざかっていく。
その背が完全に見えなくなったあと――
森に残されたのは、エイムとシラセだけだった。
戦いが終わった。
そんな安堵は確かにあった。
だがそれ以上に、予想を遥かに超える敵の存在が、二人の胸に重くのしかかっていた。
言葉を交わすこともできず、
ただ立ち尽くしたまま――二人は、沈黙の中にいた。
【※読者の皆様への大切なお願い】
「面白い!」「続きが楽しみ!」「応援したい!」と思ってくださった方は、この作品の『ブックマーク』と、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして、ぜひ『ポイント評価』をお願いします!
今後の作品更新をしていくうえで、大変大きな励みになりますので、是非ともよろしくお願い致します…!
↓広告の下あたりに【☆☆☆☆☆】欄があります!




