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研究棟

「ごめんねお姉ちゃん。巻き込んじゃって。」

「気にしないで。麗泉ちゃんと気持ちは同じよ。私も声を挙げるつもりだったから。」

 臨時定例会が終わり、一目散で円卓の間を後にした冠木姉妹が向かっているのは研究棟。

 生徒会顧問のシルフィア先生から定例会後に自身の研究室へ来るよう呼び出されていたのだ。

 5階建ての商業施設みたいな外装の研究棟には数多くの実験施設と先進者の研究資料が多く保管されており、中には国家機密もある。

 その為、セキュリティーは物凄く厳重で学園の生徒でも容易に入室することができない場所となっている。

 生徒会会長と副会長、そしてナンバーズの地位を持つ冠木姉妹は入室する事は許可されており、円卓の間で使用した手帳型の学生証明書をセンサー部に提示した事でオートロックが解除、扉が開く。

 エレベーターに乗り、5階まで移動。少し歩き、シルフィアの研究室まで辿り着く。

コンコン。

「シルフィア教授、冠木舞風です。」

「・・・・、返事がない。」

 再びノック。

 しかし応答はない。

「留守・・・?」

「いいえ、入口の出退勤表には在室になっていたわ。いるはずよ。」

 徐に扉のノブに手を伸ばす舞風。

 鍵はかかっていない。

「失礼―――うっ。」

 扉を数㎝だけ開けた瞬間、舞風と麗泉の鼻孔を襲う強烈な匂い。

 慌てて口と鼻を塞ぎ、大急ぎで反対側の窓を全開。

 半身を乗り出して外の空気を吸い込む。

「酷いお酒の匂い!」

「匂いだけで悪酔いしそう。」

 外の空気のお陰で胃から訪れた気持ち悪さが収まった二人。

 背後の部屋をチラリ。

 長時間密閉状態であったのだろう。

 僅かな扉の隙間からアルコール臭が存在感をみせつける。

 互いに目配せした冠木姉妹。

 肺に空気を大きく吸い込んだ状態で息を止め、研究室へ突入。

 中は二人の想像を超える光景だった。

 カーテンの隙間から僅かに差し込む太陽の光。

 薄暗い部屋の床には散乱する大量の空き缶と空き瓶。

 それは足を踏み入れることが出来ない程で所々には空き缶達の山が出来上がっていた。

 ビール、ワイン、チューハイ、焼酎、日本酒など。

 酒類全てが揃っている、と言っても過言ではないラインナップ。

「うう~~~ん、ムニャムニャ・・・。」

 そんな悲惨な部屋の中で机にうつ伏せ状態で熟睡するシルフィア。

 顔の殆どは壮大な髪のせいで隠れているが、少量残った一升瓶を頬摺りして眠る彼女はとても幸せそうだ。

(麗泉ちゃん。)

(うん。)

 一瞬の目配せで即座行動開始。

 麗泉は部屋内の全ての窓を素早く全開、舞風はそよ風を発生させて室内の空気を一層。

 換気が終えたところでようやく呼吸を再開。

 床に転がっていたゴミ袋を掴み、地面を埋め尽くす空き缶・空き瓶を放り込む麗泉の横で舞風はこの部屋の主を起こす。

「シルフィア教授、起きてください。朝ですよ。」

「Zzzz。うぅ~~、もう少し飲ませてよ~~。」

「教授。起きてください。」

 激しく揺さぶるが起きる兆しはなし。

「起こすの手伝う?」

「ううん、麗泉ちゃんは片付けの方をお願い。」

「わかった。それにしても、凄い散らかり方。」

 アレがいたらどうしよう、と嫌なことを想像した時だった。

ガサガサ。

「っ!」

 部屋の隅、潰された段ボールと空き缶達のコラボによる瓦礫の山から微かな音が聞こえたのだ。

 息を呑む麗泉。

 空き缶を捨てる手が止まる。

「・・・・・・・。」

 部屋に流れる静寂。

 聞こえるのは後ろで寝ているシルフィアの寝言と起こそうとする舞風の声のみ。

「気のせい、よね。」

 彼女の脳裏には自分が一番苦手なガサゴソ動くGの姿が過る。

「そうよ、気のせいよ。風が吹いて空き缶が揺れただけよ。」

 自身に強く言い聞かせてゴミ捨てを再開しようとした、その時だった。

ガサガサガサ。

「!!!」

 動いた!

 確実に何かがいる。

 背中に走る悪寒。

 無意識に床に転がっている一升瓶を掴んだ時、山が崩れ、中から何かが!

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」

「ふあ~~~(ガシャン!)ぎゃふん!」

 渾身の一振りはゴミの山から出てきた侑磨の頭部に直撃。

 粉々に砕ける一升瓶の音と侑磨の悲鳴が青空の彼方まで響き届いた。


「酷いよ麗ちゃん。いきなり寝込みを一升瓶で襲うなんて・・・・。」

「侑磨、本当にごめんなさい。」

「私からも謝るわ。ごめんね侑磨君。はい、これでおしまい。」

 舞風が侑磨の頭に包帯を巻く横で何度も謝罪する麗泉。

 幸い侑磨の怪我は軽傷、簡単な治療で済む程度の傷だった。

「侑磨、大丈夫??」

「だ、大丈夫だ。」

 歯切れが悪く少しぶっきらぼうな答え方になったのは心配そうに見つめる麗泉が新鮮で物珍しく、目を潤ませて覗き込んでくる仕草にドキッとしたから。

 それを隠すために敢えていつも以上にお道化て誤魔化す。

「でも、麗ちゃんからキスをしてくれたら早く治るかもね。」

「バ、バカ!何言っているのよ!」

 顔を真っ赤にしてそっぽを向く麗泉。

 口調もいつも通りに戻り、ほっと一安心。

「ふふふふ・・・・。」

「な、何かな舞風ちゃん。」

「ううん、別に~~。(してあげればいいのに。)」

(お姉ちゃん!)

 双子の視線での会話を交わしていると奥の方からこちらの方へ向かう足音が。

「ユーマも情けないわね。あんなのも避けれないなんて。」

「ちょっとシルフィア教授?!」

「先生!何ですかその恰好は!?」

 冠木姉妹が驚愕するのも無理もない。

 眠気覚ましのシャワーを浴び終えたシルフィアはあられもない恰好で侑磨達の前に姿を現したのだ。

 胸の中心部は肩にかけたバスタオルと無駄に長い髪で、下は黒のレースのセクシーなショーツを履いているお陰で隠れているが、それ以外はほぼ全裸。

 拭き取りが甘かったのか、まだシャワーの水滴が残っていて髪も半乾き。

 20代後半の若々しいモデル体型を惜しみなく曝け出す。

「別に、何か問題でもある?」

「侑磨がいるでしょう!!」

「彼なら問題ないわ。ねえユーマ。」

「そうだな。いつもの事――――っ。」

 途中で言葉が止まったのは冠木姉妹からのとてつもないプレッシャーで身の危険を感じたから。

「シルフィア教授、その恰好は教育上よろしくありませんのでお着替えしましょうね。」

「え?舞風会長。ど、どうしたの?ちょっと待って。」

 般若の笑みに気負いしたシルフィアは再び奥へと引き摺り込まれる。

「さあ侑磨は私とお話ししましょう。シルフィア先生とはどういうご関係?」

「い、いや、ちょっと待って麗泉さん。笑顔が凄く怖いのですけど・・・。」

「あら、可愛くて有名な美少女双子姉妹の私の笑顔が怖いなんて、面白い冗談を言うのね・・・。」

 いつもとは違い、静かな怒りを見せる麗泉に侑磨はガクブル。

「裸が見慣れる関係なんて中々ないとは思うのだけど・・・。どういう事かな?」

「あ、あのですね、こ、これには深い事情が・・・。」

「へぇ~~、深い事情ね・・・。」

「ちょっと麗泉さん、右手から出している痛そうな水の塊は何?」

「さぁ、何でしょう?侑磨には関係ないと思うわ。ちゃんと、正直に話せば、ね。」

「ひぃいいいいいいい!」

 本日2度目の悲鳴が青空の彼方へと飛んで行った。


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