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侑磨のインスピレティア

 インスピレティアとは先進者の能力の総称。

 その力に目覚めた者を先進者、そうではない者は旧人類(オールダー)と呼ばれている。

 先進者であるかないかは脳波の違いによって判明され、現在では生まれてきた際、脳波検査を行い、先進者であるかないかを調べることが義務付けられている。

 先進者として判明したからと言ってすぐにインスピレティアが発動するわけではない。

 インスピレティアとは第六感が具現化した力。

 心に強い印象が残った事柄が反映されて具現化される、と言われているが詳しい事はまだ判明されていない。

 この分野はまだまだ謎が多く残されているのだ。

 生後すぐからインスピレティアに目覚める者もいれば、目覚めぬままこの世を去る者もいる。

 覚醒条件も人によってまちまちでインスピレティアの内容もそれぞれ違う。

 冠木姉妹みたいに物心つく前からインスピレティアに目覚める者はほんの一握り。

 明光寺学園に入学してから覚醒する者が殆どなのだ。

 


 さて生徒会一同は探求心が刺激されての満場一致で侑磨探しへ。

「でも、そのセンパイはどこにいるのでしょう?確か部活には所属していないのですよね。」

「今日は水曜日ね。なら今日は中庭付近で優雅に居眠りしているわ。」

 淀みなく答えたのは先頭を歩く麗泉。

「すごいですね。センパイの行動を把握しているなんて。」

「えっ!ち、違うわよ。それはその・・・。アイツの行動が単純過ぎるだけで。」

 慌てて誤魔化す麗泉の横で「ふふふ。」と意味深な笑みを浮かべる舞風。

 それを見て無言になる麗泉。

 双子の姉に自分の内心が筒抜けなのではないかと疑心暗鬼になる。

「ちっ。」と小さく舌打ちしたのは少し離れた位置を歩く立川。

 前を歩く女子3人には聞こえていなかった。

「そう言えば一つ気になったのですが、マイカセンパイ?」

「何かしら、メリッサ。」

「その、侑磨センパイの定期診断の担当者って誰なのですか?私達生徒は定期的に学園所属の研究職員の診断を基にインスピレティアの成長を促しているはずです。その人に聞けば・・・。それに授業で披露する機会も―――」

「それがねメリッサ。侑磨は先進者関係の授業を全てサボっているの。」

「でもでも、定期診断をサボっていたら担当者から呼び出されるはずでは・・・。」

「そう言えばそうね・・・。」

 メリッサの指摘は最も。

 実は麗泉も過去、定期診断の日時を間違えたことがあり、その時担当者から呼び出し受けた経験がある。

「誰なのお姉ちゃん。」

「彼の担当はシルフィア教授よ。」

 シルフィア=デュナミス。

 冠木姉妹が高等部進学時に保健医兼研究職員としてこの学園に赴任、今年から生徒会の顧問に就任した20代後半のドイツ人女性である。

「だったらシルフィア先生に奴の能力について教えてもらえば――。」

「残念ながら教えてくれなかったの。個人情報の保護を盾に、ね。」

(お姉ちゃん、いつの間に‥‥。)

「だから本人に聞くしかないの。―――、あ、いたわね。」

 侑磨はベンチにのんびりと座っていた。

 彼の視線の先には汗を流してスマッシュの素振りをしている女子テニス部員達の姿が。

「侑磨!!」

「やぁ、麗ちゃん・・・・て、何でそんなに怒っているの?」

「アンタはここで何しているのよ!」

「何ってのんびり休憩。」

「嘘おっしゃい!女子のテニス部員を覗き見していたでしょ!このヘンタイ!」

「言いがかりはよしてくれよ~~、麗ちゃん。もう眉間に皺を寄せて。美しい顔が台無しだぞ。」

「うるさいわよ!」

「まあまあ麗泉ちゃん。落ち着いて。」と姉が笑顔で仲介に入る。

「こんにちは侑磨君。」

「あら~~、舞風ちゃん。」

 眼がハートマーク。

 麗泉とは対応が全く違い、そのことに麗泉と立川がイラッ。

「どうしたのかな?もしかして俺に会いに来た?」

(自意識過剰になるものいい加減にしろよ。)←立川の心の声。

「ええ、ちょっと侑磨君に聞きたいことがあってね。」

「へぇ~、可愛らしい舞楓ちゃんの質問なら俺、何でも答えちゃうよ。」

 侑磨の猫撫で声に怒りが膨れる麗泉と立川。

 そして2人の怒りに怯え、少し離れた木の裏に避難するメリッサ。

 一方の舞風はごく自然体のいつも通り。

 侑磨の態度を楽しんでいる節がある。

「じゃあ、教えて。侑磨君のインスピレティアを。」

 その瞬間、侑磨の表情が一変。

 険しくそして畏れているような複雑な表情をみせるが、それも一瞬。

「仕方がないな~~。」といつも通りの緩んだ顔で答える。

(・・・。)

(・・・・。)

 視線を交わし合う冠木姉妹。

(やっぱり侑磨は隠してる。)

(本心を見せないわね。)

「それじゃあ二人とも、よく見てくださいね。ここに普通の500円玉があります。」

 ポケットから取り出したのは表に黒のマジックでYと書かれた500円玉。

 その500円玉を渡された麗泉はじっくり観察。細工がないごく普通の500円玉である事を確認して侑磨に返す。

「では、注意深く見ていてくださいね。」

 500円玉を右親指の上に乗せて弾く。

ピーン!と心地良い音と共に500円玉は真っ直ぐ上へ勢いよく上がる。

 回転する500円玉に導かれるように冠木姉妹と立川の視線も上空へ。

 重力によって下に落ちてくる500円玉を胸辺りで手をクロスして掴む。

 どちらの手に入ったかは早過ぎて見えなかった。

「どっちだ?各々が答えてもいいよ。」

 侑磨の言葉に舞風は左手、麗泉は右手を指さす。(メリッサは遠くに避難中、立川は睨み付けたまま回答しなかった。)

「では正解は・・・。」

 と開かれたのは右手。

 掌には何もなかった。

「左手にあるのね。」

 残念そう呟くのは麗泉。

「それがそうでもないのだよね。」

 と開かれた左手は右手同様、何もなかった。

「嘘。」

 驚愕する冠木姉妹。

「ちょっと侑磨、あの500円玉はどこに行ったのよ。」

「ここだよ、麗ちゃん。」

 侑磨が指さすのは麗泉の胸元。

 恐る恐る自分の胸ポケットに手を入れる麗泉。

「ええ!!噓!?」

 黒のマジックで「Y」と書かれた500円玉が入っていた。

「ま、こんな感じかな。」

 やり終えた表情で芝居かかったお辞儀を見せる侑磨。

「凄いわね侑磨君。手品みたいね。」

「みたいも何も手品そのものさ。」

「物を移動させる力、面白いわね。」

「そう解釈してくれて構わないよ。所で・・・・。」

 侑磨の眼が笑う。

「舞風ちゃんのお願いを聞いたからさ。今度はこっちのお願い、聞いてもらいたいね。」

「ちょっと侑磨!アンタね―――「いいわよ。」お姉ちゃん!」

 麗泉よりも先に侑磨の前に立つ舞風。

「お願いって何?何ならデートでもいいわよ。」

 姉の発言に度肝を抜かされる麗泉。

 生まれてからずっと傍にいたからこそわかる。

 舞風は一度も男性の誘いを受けた事がない。

 そんな姉がデートを受けるという事に驚くと同時に絶対に止めなければ、と躍起に。

「ダメダメダメ、絶対にダメ!」

「ですって侑磨君。麗泉ちゃんは自分とじゃないとダメみたい。」

「お姉ちゃん!私そんな事一言も言っていないわよ!」

「だったら3人でデートする?侑磨君はどうかな?」

「それは最高だね。両手に花。いつデートする麗ちゃん。」

「私に尋ねないでよ!」

「おい、いい加減にしろよ。」

 とここで割り込んできたのは立川。

「何?」

「お前、本当にインスピレティアを使ったのか?」

「なんでそう思った?」

「お前は過去数回、学生と決闘を行っている。インスピレティアを使わずに勝つなんて不可能だ。」

「そんな事ないさ。相手が弱すぎたから使わずに勝てただけさ。」

「つまりお前は今の手品みたいなのがインスピレティアだと言い張るのだな。」

「そうだけど。」

 視線の火花がぶつかる。

「立川君、そこまでよ。」

「そうよ。侑磨も落ち着いて。」

 仲介に入る冠木姉妹。

 二人は正直、今の手品が侑磨のインスピレティアだとは思っていなかった。

 誤魔化しているのには何か事情があると考えた二人。

 それは手品を行う前に見せた複雑な表情からそう読み取り、敢えて騙されていたのだ。

(立川君を連れてきたのは失敗だったわね。)

(とにかくここは一旦退きましょう。麗泉ちゃんは侑磨君をお願い。)

 一瞬のアイコンタクト。

 しかしその一瞬、立川から目を離したのが失敗であった。

「そうか。そこまで言い張るのなら仕方がねえな。」

 懐から電子学園手帳を取り出し、操作。

「立川君!それはダメ。」

 舞風の制止も虚しく

―――決闘、承認―――

 という電子音声のコールが鳴らされてしまった。


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