舞風の考え
「お姉ちゃん、どういう事よ!」
麗泉の大声と会長席の机を叩きつける音に少し離れた席に座っていたメリッサが敏感に反応、肉食獣に囲まれ震える小動物と化す。
「どうしたの麗泉ちゃん。そんなに怒って。」
怒りの矛先を向けられている当人は何処吹く風。
「どうしたの?じゃないわよ。何でアイツにあんなこと言ったのよ!」
この話を聞くだけでは何のことだかさっぱり。
しかし、舞風は妹が何を訴えているのかちゃんと理解していた。
「侑磨君に興味がある、って言ったこと?」
「そうよ!」
「何ですと!!どういうことですか会長!!」と反応したのは昼間に返された書類の修正に悪戦苦闘していた立川。
「お姉ちゃんがあんなこと言ったおかげで午後の授業は大変だっただから。事あるごとに私にお姉ちゃんのことを聞いてきて・・・・。ああ~、思い出しただけでもイライラする~~。」
侑磨の席は麗泉の隣。(共に最後尾。)
麗泉は侑磨からずっと姉のことに対して質問攻めを受けていたのだ。
そのおかげで午後の授業中はずっとイライラ。
そして放課後の今、生徒会室で溜め込んだ怒りを爆発させた次第である。
二人の問い詰めに対して、舞風はニコニコ。
いつもと変わらない態度で対応。
「だって本当のことよ。私、侑磨君に興味があるもん。」
「あの男のどこに・・・?」
信じられず眩暈を起す立川。
メリッサも会計処理で忙しそうにしているフリをして盗み聞き。
「なんでお姉ちゃんが侑磨の事を・・・?」
「それは彼の話はよく耳にしたからよ。」
「生徒会で散々議題に上がりましたからね・・・。学内でナンパしている不届き者だと。」
「違うわ立川君。その前からよ。」
「え?」
「ここで議題に上がる前からよく耳にしていたわ。麗泉ちゃんの口からね。」
「私?」
「そうよ。侑磨君が転入した初日から。夕食時によく侑磨君の名前を口にしていたじゃない。」
「そ、それは・・・・、その、アイツが私の席の隣で、第一声にナンパしてきたから。」
始業式が終わり新たな学年と変わったその日、転校してきた侑磨は席に着いてすぐ、
『ねえ、君の名前は?可愛いね~。俺、君に一目惚れしちゃった!ねぇ、今からお茶しない?授業サボってさ。』と馴れ馴れしく話しかけてきたのだ。
その一言で麗泉の侑磨に対する印象は一変してマイナスに。
その後、見かける女子生徒に次々と声をかけるわ、授業をサボるなど、彼に対する好感度はドンドン下落する一方。
席が近い+生徒会副会長という立場で彼と話すことが多く、その度にからかわれ(ナンパされ)怒りに任せて制裁、というのが最近の流れとなっていた。
「麗泉ちゃんの口から男の子の話が、それも頻繁に出るなんて今までなかったから。それに麗泉ちゃん自身は気付いていないみたいだけど、最初は『忍久保君』呼びがすぐに『侑磨君』に変わって。今では呼び捨てだもの。気があるのよね~。」
「そ、そんなんじゃないから。」
「顔を真っ赤にして否定しているのはどっちの意味?」
「お姉ちゃん!」
「はいはいごめんね。ま、それがきっかけで、そこから色々と調べてみたの。そしたら―――。」
そう言って書類の山から一枚のプリントを取り出し、麗泉に見せる。
「何これ?」
「侑磨君の履歴書。」
「何ですかこれ。空欄ばっかじゃないですか!」
横から覗き込む立川がプリントの中身を見て叫ぶ。
「記載されているのは名前と生年月日のみ。後は殆ど空白。不思議でしょう。」
「不思議所の話じゃないわよお姉ちゃん。」
本来であれば最終学歴である中学名や先進者の能力―――インスピレティアについての記載が必須。
しかし侑磨の履歴書にはそれらが一切記載されていないのだ。
「こんな事って・・・。」
メリッサも驚き、自前のノートパソコンを起動。
明光寺学園のサーバーにアクセスして侑磨の事を調べ始める。
「あ!でも、インスピレティアの記載がないのは奴が先進予備者なのでは?」
「その場合はこの欄には未覚醒と記載されているの。だから立川君の考えは完全否定されるわ。それにね・・・。」
「何?まだ何かあるの?お姉ちゃん。」
「それにね、これは公になってはいないけど侑磨君、何度か学園の生徒と暴力沙汰になっているのよ。」
「え?そうなの!」
「やっぱり麗泉ちゃんも初耳だったわね。」
「先進者同士のトラブルは生徒会に届くはずなのにどうして・・・・。あ、本当だ。センパイに関しての情報、殆ど空白ばっかり。」
パソコンで再確認するメリッサ。
「その理由はね、彼が勝利しているから。私が知っているだけで8度。その全てが侑磨君に軍配が上がっているの。」
「暴力沙汰の原因は?」
「彼氏持ちの女子にナンパしたとか気になる女子生徒に声をかけた等、些細な事ばかりね。」
眩暈に陥る麗泉。
「でも、それならどうして我々の耳にその情報が入ってこなかったのですか会長?」
「そこよ!それが私の一番興味が持ったところ。戦った相手曰く、彼はインスピレティアを一切使っていないそうよ。」
「インスピレティアを、使っていない・・・。」と眉を顰めるは立川。
すぐさま相手の情報を確認。
この学園では決闘制度があり、先進者同士であれば、武力で優劣を決めるシステムが存在するのだ。
「ええ。負けた人達は恥ずかしくて公に出来なかったみたい。だからこそこの事が私達の耳に入ってこなかったのよ。」
「成程ね・・・。」
俄かには信じがたい話だが、侑磨について何も知らない事もまた事実。
「ねぇ、ちょっと興味が沸くでしょう?」
舞風の言葉に三人はコクリと頷いた。