逃亡
「麗泉ちゃん、手を出して。」
物陰に身を隠した二人。
拾ったナイフを使い、麗泉の手首を縛るロープを切断。
その後、麗泉が舞風を縛るロープを切る。
「どうするお姉ちゃん?」
「一刻も早く逃げましょう。そしてその事を侑磨君達に―――っ!」
突然、舞風が立ち上がる。
麗泉の背後から敵が見えたのだ。
「やっ!」
素早く襟袖を掴み、地面に叩き付けてそのまま首固め。
相手を瞬時に失神させる。
「逃げるわよ、麗泉ちゃん。」
「逃がしはせん。捕えよ。」
続々と姿を現すタキシード姿の敵。
逃げ道を封じられた舞風と麗泉。
インスピレティアが封じられている中でも抗う。
(厳しいかもしれないけど・・・。)
(まだ戦える!)
互いをフォローし合い、敵の攻撃を躱し続け、確実に一人一人を倒してゆく。
「ほほう、能力を封じられている中でこれほどとは・・・。」
冷や汗をみせる山崎道弘の横、不利な状況にもかかわらずJPは涼しげな顔。
彼にはまだ切り札が残されていたのだ。
「やむを得ん。アレの使用を許可する。」
JPの指示にタキシード姿の敵がポケットから取り出したのは鉛筆型の金属棒。
それを自分の素肌に押し付ける。
すると男達の全身に電流が走り、次の瞬間、身体が膨張。
筋肉溢れる巨漢へと成り変わる。
「これって、『振動強化』!?」
「そうだ冠木舞風に麗泉よ。入院している立川装のデータから作り出された道具だ。」
「持続時間が30分程度しかない、不良品だがね。しかし君達を捕まえるには十分だ。捕まえろ。」
力を得た敵の動きは先程とは全く違う。
強力な力と圧倒的な速度。
インスピレティアを封じられている二人には苦しい相手。
「この!」
麗泉の得意の蹴りは簡単に防がれ、舞風の投げ技や関節技は効かない。
瞬く間に捕まり、狂暴な腕により地面にねじ伏せられる。
「冷や汗をかかせやがって。余計な事をしてくれたな冠木麗泉!」
山崎道弘が髪を乱暴に掴んだので痛みで声が籠る。
「そこまでだヤマザキ。それ以上私の商品を乱暴に扱うのは止めてもらおう。」
JPの言葉でようやく髪を手放した山崎道弘。
彼が立ち去るのと入れ替わりに麗泉へと近づき、言葉を吐く。
「ふふふ、見事だ。能力を封印されていて尚、ここまで抗えるとは・・・。これで4億は安い、気に入ったぞ。」
「な、何がよ・・・。」
「私の本来の目的はキサマ達の能力だけ。その後は、何処かに慰め物として売りつける予定だった。が、気が変わった。キサマ達は俺専属のボディーガードとして手元に置いてやろう。」
「だ、誰がアンタなんかに従うものですか!」
「フフフ、気の強いオンナだ。俺は好きだぞ。オマエみたいな気が強いオンナは。」
喉を鳴らすJPを精一杯睨み付ける麗泉。
「さて、姉の方随分大人しいじゃないか。観念したのか。」
麗泉同様にねじ伏せられている舞風。
ただ彼女は麗泉とは違い、顔を地面に伏せて大人しかった。
「姉は随分、物分かりはいいようだ。」
JPが舞風の顔に手を触れようとした瞬間だった。
「(今っ!)」
抵抗を見せていなかったので押さえつけている力が弱まっていた隙をついたのだ。
隠し持っていたナイフをJPに向ける。
が、後一歩の所で届かなかった。
押さえつけていた男の反応が良く、またJPが最低限の護身術を身に着けていた事で失敗。
再び地面へ叩き潰される。
「ほう、一瞬を狙っていたか。これは油断ならぬオンナだ益々気に入った。」
「あらそう。でも私はアナタになんか一切興味ないわ。」
精一杯の嫌味を向ける舞風。
「そうか・・・、それは残念だ!」
「キャアアアア!」
懐から出した違法スタンガンを舞風の首元に押し付ける。
「お姉ちゃん!」
気を失い、ぐったりとした舞風に持ち上げるよう指示をだすJP。
両脇を抱えられ、無理矢理立たせれる舞風を気安く触れる。
「ちょっとお姉ちゃんに何をするつもりよ!」
「見た所、オマエ達は処女のようだ。気を失っている間に初めてを奪われる屈辱を与えるのさ。」
「やめて!!!」
「ジョージさん。それは止めた方が―――。」
「何か問題でもあるのかヤマザキ。」
「女性先進者がレイプに遭った影響でインスピレティアが弱まった事例がある。アンタの計画に支障がきたす場合が―――。」
「心配ない。もしそうなったとしても能力を強制増強させる薬がある。廃人になるだろうが構わん。俺の命令だけを聞かせる道具ならば問題ない。」
「そうか・・・。アンタが構わないのならいいが・・・。」
と山崎道弘の視線が麗泉に。
彼からのどす黒い感情が肌に突き刺さる。
「なんだ?妹を抱きたいのか?一億返してくれるのなら考えなくもないが。」
「交渉成立だな。」
「だが、先に俺が頂くだ。姉と妹、両方を味わった後、お前さんに抱かせてやる。」
「じゃあアンタが妹を犯している時、姉の方から頂くぜ。」
「い、いや。ヤメテ!お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
麗泉の叫びをBGMに卑猥な手つきで舞風に触れるJP.
舞風のセーラー服を乱暴に捲り上げて彼女の大きい胸を視姦。
「ほほう、服の上からでもすごいと思っていたがこれは中々。」
舌が乾いた唇を舐めまわす。
落ちていたナイフを拾い、ブラジャーと下着を切り裂き、剥ぐ捨てる。
そして両足を掴んで無理矢理股を開かせる。
「騒ぐな妹よ。お前もこのような目に遭うのだ。この姉を犯した後にな。」
勝ち誇る卑猥な表情を麗泉一瞥向け、再び気を失う舞風に向き直る。
「では戴くとしよう。俺を怒らせた罰だ。」
舞風の初めてを奪う為、腰を前へ突き出そうとしたその刹那、大きな爆発音と振動が全員に襲い掛かる。
「な、何があった!?」
身の危険を感じたのであろう、舞風から離れて爆発音が聞こえた方へ向かうJP。
山崎道弘の車が突然爆発して炎上していたのだ。
真っ黒い炎の煙が天高く登る。
誰もがその光景に目を奪われているその後方から音なく近づく一つの人影。
忍久保侑磨であった。
素早く麗泉を押さえる男の口を塞ぎ、首筋にナイフを一刺し。
麗泉の拘束を解き、舞風を抱きかかえる男の頸動脈を切り裂く。
「麗!」
気絶する舞風を肩に抱え、麗泉の腕を掴み、逃亡を図る侑磨。
「くそ!捕まえろ。男は殺しても構わん。」
JPの怒号の指示が飛ぶ。
「ちっ。麗、インスピレティアは!?」
「だ、ダメ。封じられている。」
二人の金属製の首輪に目が止まる。
「インスピキャンセラーか!くそ。」
懐から銃を取り出し、乱射。
麻酔弾は命中するが、効果はない。
「効かない?」
「振動強化よ。何か道具を使って無理矢理。」
「厄介な物を作り出したな。」
このままでは追い付かれると判断。
舞風を麗泉に預け、後を追いかけてくる敵との交戦を選ぶ。
「そのまま逃げろ!」
屈強なタキシード姿の敵の右ストレートを躱し、脇腹に最大火薬の御札を貼り付けて爆発。
皮膚が焼け落ちる程の火力だが、男は怯むことなく侑磨へ腕を振り翳す。
「(くそ!薬の影響で痛覚を遮断しているのか。)ならこれで。」
転がって避ける際、足の腱にナイフを突き立てる。
「ぐっ!」
片足を突き、蹲る男。
痛みではなく上手く立ち上がれない事に戸惑っているようだ。
そのままトドメの一撃として顔面に強烈な蹴りを入れる。
「よし、まず一人。」
「キャア!」
後ろから聞こえた麗泉の悲鳴。
先回りしていた敵が麗泉の腕を乱暴に掴んでいた。
「離しなさいよ!」
渾身の膝蹴りを腹部へ打ち込む。が、筋肉の壁が受け止める。
お返しと言わんばかりに男は手の力が強める。
ミシミシと鳴る麗泉の腕。
腕の痛みに意識を持っていかれた麗泉に男は強烈なボディーブロー。
「が、はっ!」
体内の空気を全て吐かされた麗泉はそのまま意識を失う。
「麗!ぐっ!」
麗泉の元へ向かおうとしたその隙を狙われ、ベッドロックを喰らう侑磨。
足が地面から離れ、宙吊り状態に。
意識が刈り取られる前に後頭部に御札を貼り、爆発させて難を逃れる事に成功。
「麗と舞を放せ!」
二人を連れ去ろうとする男達へ駆け、飛び蹴り。
掌底を顎と心臓部に打ち込み、意識を摘み取り二人を助け出す。
「駄目だ。このままじゃあ――――。」
数人倒したが残りはまだ数多く。
一人ずつなら時間をかけて倒すことが出来る。
だが二人を守りながらこの場を切り抜けることが出来ないと察する。
敵は侑磨に勝ち目がない事を存しているようでじわり、じわりと間合いを詰め始める。
(この状況を切り抜けられる方法はただ一つ。だけど・・・。)
後ろで倒れている麗泉と舞風をチラ見。
それは賭けだ。
意識がない二人へ標準が定まればもう終わりだ。
「(だけど今はそんな悠長を構えている場合じゃな。)くそっ!」
覚悟を決めた侑磨。
手榴弾のピンを口で抜き、地面に叩きつける。
白い煙幕がその場に広がり全ての視界を奪う。
「頼む、麗と舞は襲わないでくれ!」
懐から取り出したのは小型の注射器。
中には黒い霧状の物質が入っていた。
腕に突き刺し、黒い霧状の物質を体内に注入。
ドクン!
心臓が大きく鼓動。
全身が熱く燃え上がる痛覚が襲う。
「ぐあああああああああ!」
もがき苦しむ侑磨の身体から闇の霧が発生。
侑磨を飲み込み、黒き虎らしきバケモノ―――悪魔の捕食者が姿を現した。




