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制圧戦

 ファイルの中に入っていた写真とデータを元に実験施設の場所を特定した侑磨は菊元宗近が手配した実働部隊と共に現場へ急行。

 場所は近郊外の山奥に存在する大きな屋敷。

 以前は富豪が住んでいたが、現在は空き屋敷。

 それを無断で実験施設へと秘密裏に改装していたのだ。

「中の様子はどうだ?」

「宗近様、建物内には数人の人影が確認されています。こちらにはまだ気づいていません。それと今の所、JPの姿を確認できていません。」

 先行隊からの報告では建物内にいるのは6人程。

 皆、黒のサングラスにタキシード姿。

 個別識別は難しい模様。

 その報告を聞きながら侑磨を自身が持つ銃の最終チェックを始める。

 一見普通の拳銃と大差ないように見えるがこれは特注。

 弾は鉛ではなく、麻酔が入ったカプセルが装弾。

 殺傷能力はそこまで高くない仕様となっている。

「忍久保侑磨よ、指揮を頼む。」

「俺が?」

「君はこの場にいる唯一のUNACOM(ユナコム)の人間だ。このような場面、慣れているだろう。」

「・・・・分かった。では部隊3つに分かれる。一つは裏口から。一つは正面待機。最後の一つは道の封鎖だ。最初に裏口から突入。1分後に正面の部隊が遅れての突入。ただし突入する人数は各部隊の4名ずつ。残りの者は屋根や窓から外へ逃亡した者の対応を。」

「逮捕が目的だが、逃がす訳にはいかん。やむを得ない場合は殺しも許可する。」

(容赦はなし、か。)

 菊元宗近の命令に顔色を全く変えない実働部隊。

「(殺しに慣れているな。)インスピキャンセラーが発動している可能性がある。極力インスピレティアを使わない意識を常に持ち続けてほしい。」

 侑磨のアドバイスを最後にそれぞれ所定の位置へ。

 菊元宗近は道の封鎖班、侑磨は裏口の突撃班に加わる。

「(作戦開始まであと30秒。)・・・。」

 手にする銃のグリップに力が入る。

 UNACOM(ユナコム)に入り、幾度も経験している場面。

 だが慣れる事がない。

 今でもこの瞬間、この場面に心が騒めく。

 目を瞑り、呼吸を整え思い出す。

 恐れも怖さも知らない、本能のまま暴れる『悪魔の捕食者』の感情を。

「5,4,3,2,1・・・GO!」

 侑磨の合図で実働部隊が閃光弾を投下。

 爆発音と眩い光が屋敷内に発生したのを確認して突撃開始。

「敵襲!」と叫び銃を乱射する敵。

 突然の襲撃に混乱しているのか、インスピレティアを使用する者も。

 侑磨は正確な射撃でインスピレティアを使用する敵を優先的に狙撃する。

「敵のインスピレティア使用を確認。ここにインスピキャンセラーはない。インスピレティアの使用を許可する。」

 侑磨の指示を受け、最後尾にいた一人の男性が黒の布マスクをずらし、一吠え。

 彼は自分の声が衝撃波になるインスピレティアの持ち主。

 一階にいた数人の敵はその音圧に吹き飛ばされて壁に激突。

 それを合図に正面から別働隊が突入。

 戦意消失している敵を逮捕していく。

「一階と2階は正面突入班に任せる。このまま地下に降りる。」

 数人を引き連れて階段を降りる。

 地下は牢屋となっていた。

 実験に使う為の先進者を捕える為に使われていた模様。

 4つの牢屋は空であるが最近まで使われていた形跡が残っていた。

「地下、敵影無し(クリア)。」

「外へ通じる通路もありません。」

「そうか。」

 上からの銃撃音や振動も収まりを見せる。

『制圧完了。被害ゼロ。敵全滅。』

 トランシーバーから戦闘終了のアナウンスが聞こえた。


「制圧まで4分23秒。こちらの被害ゼロ。見事だ忍久保侑磨。」

 制圧報告を受け屋敷へと戻ってきた菊元宗近が賞賛を贈る。

「偶々だ。それで生存者は?」

「4人逮捕、死者は5人。だがJPの姿はなかった。」

「やはり。屋敷を見回したがどうやら撤収作業の途中だったみたいだ。」

「そのようだな。機材等が少ない所を見て、この者達は最終組だったのだろう。この者達が去った後、このまま抹消するつもりだったみたいだな。」

 壁の端に積まれたガソリンが入った缶を一瞥する菊元宗近。

「まあよい。捕えた者からJPの居場所を吐かせればよい。事件は解決だな。」

「気は早いな。そう簡単に居場所を吐くと思わないが。」

「何、俺としてはJPが日本にいないことが分かれば十分なのだ。何事もなく、ね。」

「機密情報を盗まれたのに、悠長な事がよく言えるな。」

「何を言っている。我が菊元グループからは何も盗まれていないぞ。」

「っ!お前!真実を揉み消す気か!?」

 菊元宗近の胸倉を掴む。

 しかし毅然とした態度で侑磨を睨み返す。

「何の事だね忍久保侑磨。ただ私はJPが海外逃亡した場合の話をしているのだ。言っておくが我がグループが手を貸しているのはJPという闇の商人が日本に密入国したからであって、彼が海外へ逃亡したのならそれ以上は我々には関係ない事だ。それ以上は君達UNACOM(ユナコム)の仕事だ。そして俺には菊元グループを守る責がある。」

 強気で睨み合う二人。

 先に視線を切ったのは侑磨。

(腹正しいが彼の言う事にも一理ある。JPを捕まえるのは俺達UNACOM(ユナコム)の仕事。彼の仕事ではない。)

「とは言え、このまま逃げられるのは癪だ。最大限の協力はしよう。」

 侑磨は菊元宗近に背を向けたのはこれ以上彼と会話を続けると殴ってしまいそうだったから。

 苛立ちを紛らわすように2階を散策。

 ふと、ある死体に目が止まる。

 頭を撃ち抜かれてうつ伏せに倒れるタキシードの敵。

 その死体の下に一冊のファイルホルダーが。

 大事そうに抱えて絶命するそれに興味を抱き、死体からファイルホルダーを抜き取る。

「何を見つけた?」

 侑磨の背後からファイルを覗き見する菊元宗近。

「この場所で造ろうとしていた武器―――いや装置と言ってもいいな。」

 目を走らせ黙読する侑磨。

 彼が見つけたのはある武器の企画書であった。

「彼らは気候を操る装置を作り出そうとしていていたらしい。」

「気候を操る?」

「ああ、自在に豪雨や強風を発生できる装置だ。それを用いれば戦場を自分達の優位な環境へと作り替えることが出来る、と書かれている。」

「ふん、それは大した物だな。」

「宗近様。」

 いつも送り迎えをしているセバスチャンが菊元宗近を呼び、少し離れるのを横目で見送り、頁を捲り続ける。

 装置の設計図から必要となる部品。

 運用方法などが事細かに記載されている重要機密書。

 詳細に記された頁を捲り続ける。

 そしてそこには殺された研究員によって実用段階まで完成された装置の事も記載されていた。

「気候を操るには適応する先進者のインスピレティアが必要。その者の脳周波を装置に記憶させ、増強する事で完成する。全くコイツらも先進者の事を道具扱いか――――えっ。」

 最後の頁を開いた所で侑磨の手が止まる。

「どうした忍久保侑磨よ。」

 侑磨の動揺に気付いた菊元宗近が再度近づく。

 そして開かれた頁を目にして、驚きの声が上がる。

「なっ!何故冠木姉妹がここに載っている!?」

 そうその頁に載っていたのは舞風と麗泉の顔写真。

 インスピレティアの詳細から学園の事まで事細かく記載されていたなのだ。

 そして赤のインクで『機械導入への最終素材』と走り書きがあった。

(どうして舞と麗が・・・。機械導入への最終素材?一体――――っ!)

 ポケットから携帯を取り出し、片手で素早く操作。

 電話をかける相手は勿論麗泉。

「出てくれ!頼むから出てくれ・・・。」

「どうしたの侑磨、突然電話してきて?」と何事もない、いつもの声が聞かせてほしい。

 だが聞こえるのは呼び出し音のみ。


 彼女の携帯は机の上に置かれた状態で鳴り続けるのみ。

 今まさに消灯され扉が閉められた部屋の中でずっと・・・。


「出てくれ!麗!」

 菊元宗近も事態の深刻さを察知、同じく携帯を取り出す。

 連絡先は明光寺学園だ。

「No.1だ。至急冠木舞風、及び冠木麗泉を呼び出せ。急を要する案件だ!さっさとしろ!」


『学園からのお呼び出しです。高等部2年の冠木舞風さん、冠木麗泉さん。至急職員室までお越しください。繰り返します――――。』


「・・・・・・駄目だ忍久保侑磨。呼び出したが彼女達は一向に現れない。」

3分が経過。

「舞の携帯も応答がない。」

 侑磨は通話を切り、次なる相手に電話。

 通じた瞬間、早口で叫ぶ。

「シルフィ。緊急事態だ。今すぐ麗と舞の居場所を探ってくれ。JPの狙いはあの二人だ!」

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