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捜査の基本

 侑磨と菊元宗近の二人が訪れたのは殺された研究員が住んでいた家。

 捜査が行き詰まり進展が見られないのでもう一度原点に戻って洗い直す事にしたのだ。

 管理人から受け取った合鍵を使い、中へ。

 1LDKの部屋は殺風景。

 大きな本棚が一つとベッド以外、荷物は残っていない。

「我々が踏み込んだ時からこの状態だった。」

「衣服やパソコンなどの私物もなかったのか?」

「なかった。逃亡の為に所持品を始末したか、それとも攫った者達が証拠隠滅の為に始末したかのどちらかだろう。」

 白い手袋を嵌めて捜索開始。

 手始めに本棚に残された書籍を確認していく。

 本は先進者に関する内容ばかり。

 中身を確認するが変わった所はない。

 手にしては流し見して、棚に直す行動を繰り返す。

「本自体に手掛かりはなし、か。」

「透視が出来る先進者に視てもらった部屋にも特別変わった事はなかった。ん?どうした忍久保侑磨。」

 侑磨が何か気付く。

「いや、本棚と壁との間に僅かな隙間が・・・・。」

 本棚の背と壁との間に僅かな隙間を見つけたのだ。

 顔の側面を壁に当てて覗くと壁の少し奥にプレートらしき物体が見えた。

 それが気になった侑磨は本棚に手を掛け、力の限り引く。が、動かない。

「手伝ってくれ菊元宗近。」

「仕方がない。」

 二人掛かりで本棚を動かし、隠された壁にあるプレートを確認。

 壁中央の真ん中付近にあるそれは使わないコンセントを塞ぐ為のカバープレート。

 ミルキーホワイトのABS樹脂製。

 市販されているごく普通の物だ。

「大方、照明スイッチを移動させた際に塞いだ物だ。」

 と興味を失せる菊元宗近の言葉を即否定。

「いや違う。このプレートは明らかにおかしい。」

「何がだ?」

「こんな中央に照明スイッチなんて設置するわけがない。それに入り口前に合ったスイッチは劣化から見てレイアウト変更された形跡はない。」

「ならコンセントの挿し口を塞いだのでは―――。」

「それこそおかしい。俺達の胸付近の高さにコンセントは作らない。」

「言われればそうだな。そう考えるとおかしいなこれは・・・。おい、忍久保侑磨。」

 許可を得ず、侑磨はカバープレートに手を伸ばす。

 この手のカバープレートはネジで填めた物ではないのでドライバー等の工具を使わずに外す事が可能。

 爪を隙間に差し込み、力任せて引きはがす。

バキッ。

「こ、これは!」

 隠されていたのは親指サイズの黒い物体だった。

 極小のLED灯が赤く点灯。今でも起動している事を知らせる。

 侑磨は小型機器を知っていた。

「インスピキャンセラーだ。」

「何だと!?」

 菊元宗近はすぐさま携帯を取り出す。

「おい至急、透視出来るあの者をこっちに寄こせ。インスピキャンセラーだ。偽造されていた可能性がある。」

 侑磨はインスピキャンセラーを引き抜き、電源を切る。

「ん?」

「おい忍久保侑磨、何をしている?」

「奥にまだ何かがある‥‥‥‥取れた。」

 空洞に手を突っ込み掴んだ物―――それはUSBメモリーだった。


「さて、USBメモリーの中にはどれ程のお宝が眠っているのかしら。」

 シルフィアのラボへと至急戻ってきた侑磨と菊元宗近。

 手土産のUSBメモリーにウイルスが混入されてない事を確認して、自身のPCに接続させる。

 シルフィアが操作するデスクトップの画面を注目がいく。

「ファイルが二つあるわね。二つともはセキュリティロックされているわ。」

「外すことは可能か?」

「ええ、少し待って。」

 キーボードを華麗な指捌きで叩き続ける事5分。

「開いたわ。比較的安着なロックで助かったわ。」

 早速、一つ目のファイルを開く。

 するとそこには莫大な量の研究資料や結果が記されていた。

「全て菊元クンが言っていた研究ね。過去のデータを元に自分で秘かに研究を進めていたようね。これを見て。」

 と指差したのは半年前の研究結果データ。

「インスピレティアの機械へのコピー成功。現存の差は殆ど誤差程度に留めたらしいわ。」

「こっちのデータはコピーした能力の増強に関する物だ。こっちも成功したようだな。」

「ただ被験者となった先進者に関してはかなりひどいみたい。脳にダメージを受け、日常生活の復帰は不可能みたいよ。侑磨?」

 下顎に手を当てて考え込む侑磨の行動が気になったのだ。

「こんな大掛かりな実験、どのように行っていた?一人では限界があるはず。」

「多分JPが深く関与しているわ。」

「秘密の研究所を持っている噂だからな。」

「大がかりな実験を行い始めたのは1年ぐらい前から。その時点から接触があったと考えて間違いないと思う。」

「こっちのファイルはこれだけのようだな。もう一つのファイルの中身はどうなっているシルフィア女史。」

「既にパスポートは解除済み。すぐに見れるわ。」

 もう一つのファイルの中身は日記だった。

 菊元グループに入社してから始まっており、本来の目的と暗躍の日々が記されていた。

「やはり父親の研究を引き継ぎ、完成させるために我がグループへ入ってきたのか。」

「父親の研究が封印されたことでその父親は烙印を押され、周囲の批難の眼に晒され、家族離散。研究を引き継いだのは父親の評価を世に知らしめる為。同じ研究者として少しやるせないわね。」

「詭弁だな。」

「ユーマ?」

「ただ自分を正当化させているだけだ。そこまで優秀な研究者なら別の事で世間を見返せるはずだ。」

「手厳しい感想。でもユーマの言う通りね。」

 日記を読み続ける。

 流れが変わったのは1年前から。

 今まで一人秘かに行っていた研究だが、行き詰まりを感じていた彼の元に出資者が現れる。

「JPだな。」

「ええ、日記の所々にJPと記されているから。ただもう一人、『Y』と言う人物が登場している。」

「JPが資金と施設提供、Yが先進者の情報提供か。」

 二人の支援者の登場により研究は飛躍的に進み、実験は大成功したと記されていた。

「そしてこれね。今回の事件の発端。」

 最後のページには実験の結果を受け、今後について揉めた事が記されていた。

「更なる実験を続けたい日記の主とこのまま実用化しようとするJPの間で口論。これが殺された原因ね。」

 研究員はこの実験が大量殺戮兵器に使われる事を知らなかったようだ。

 JPからその事実を聞かされた事で怖くなり、身を隠す事を決めた所で日記は終わった。

「とにかく判明した事。実験結果はJPの思惑通りでそれが手元にあると言う事だ。」

「ええ菊元クンの言う通り。どうにかしてJP達の居場所を―――ん?」

「どうしたシルフィ?」

「待って・・・・これ、隠しファイルがあるかも。」

 隠されたファイルが一つ。

 その中身は実験施設に関する情報だった。


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