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診断

「侑磨、今日も休みなのね・・・。」

 頬杖のまま隣の空席をぼんやり眺める。

 侑磨が学園を休んで早4日。

 もう一つの大和栄党の件は別働隊に全てを任せ、最重要事項として捜査を進めるもJPの足取りが中々見つからず難航。

 JPの情報を聞きつけた菊元宗近も捜査に加わるも進展は乏しく、殆ど寝ずの日々で学園には全く顔を出していなかった。 

 侑磨がいない事で平穏な日々であるが物足りなさを感じずには居られない麗泉。

 心あらずの時を過ごしていた。

「侑磨・・・・大丈夫なのかな・・・。」

「侑磨君がいなくて寂しい?」

「うん、ちょっと寂し―――ってそんな訳ないでしょう!」

 姉のからかいに赤面して大否定。

「あらあら、そんなに大声で否定しなくてもいいのにね~、侑磨君。」

「嘘、侑磨!?」

 振り返る姉の行動に身を乗り出して覗き込む。が、侑磨の姿はなく、姉の悪戯だとすぐに気づく。

「ちょっとお姉ちゃん!」

「ごめんごめん!」

 ポカポカ叩く妹。

「それよりも麗泉ちゃん。もう放課後だよ。」

「え?あ、本当だ。」

 姉の発言に教室には自分達以外誰もいない事に気づく。

「あまりにも遅いから向かいに来たのよ。」

「ごめんお姉ちゃん。」

「ううん。侑磨君を心配する気持ち、私もわかるから・・・。」

 力なく微笑む舞風。

 それを見て、沈んだ気持ちよりも姉を心配させる侑磨への憤りが勝る。

「侑磨の奴、連絡の一つも寄こさないなんて・・・。私達がこんなに心配しているのに。帰ってきたら蹴りの一つ入れないと。」

「その時は私も一発殴らせてね。」

 視線が合い、クスクス笑い合う。

「さ、麗泉ちゃん。そろそろ時間だし行きましょう。」

 伴って教室を後にする二人が向かったのは生徒会室ではなく、研究棟。

 今日は麗泉の担任で二人の診断担当である山崎道弘から呼び出しを受けていた。

 その為本日の生徒会活動はお休み。

 学生証をセキュリティーにかざし、入室。

 エレベーターで3階まで登り、山崎道弘の研究室へ。

「失礼します。」

「ああ、二人とも。すまないね。放課後に呼び出して。」

 虫も殺さぬ平凡な顔立ちに中年太りが見え始めた体型の山崎道弘。

 申し訳なさそうに髪の毛をむしゃむしゃ掻く。

「私達に何か用ですか?」

「実はね、定期診断を今行いたくて。」

「定期検査?予定では再来週の予定ですよね先生。」

「それが再来週に出張が入ってしまってね。だから前倒しで行いたいのだよ。」

「それなら構いませんよ。」

 舞風の返答にほっと胸を撫で下ろす山崎道弘。

「すまないね。こっちはもう用意できているからすぐに始めても構わないかな。あ、すまないが二人共携帯を預からせてくれないか。今回使う機材は最新型でね。故に携帯の電波まで拾ってしまう可能性があるから。」

 少し躊躇したのは今までそのような事を言われたことがなかったから。

 舞風と麗泉はお互いを見つめ合い、素直に携帯を差し出されたトレイの上に置く。

「それでは二人共、そこのベッドで仰向け状態になって。」

 病室でよく見かける備え付けのベッドにそれぞれ寝る冠木姉妹。

 脳の周波数を測る装置を頭に装着。

「二人共、リラックスして。」

 瞑想を始める二人。

 気持ちを落ち着かせて無の境地へ入る。

 イメージするのは生まれ育った村の豊かな自然。

 心地よい風の音と涼しげな川のせせらぎに身を任せる。

 そう、今あるのは一体感。

 身体が、心が、自然に溶けて混ざり合う。

 そこには怒りも憎しみも悲しみも存在しない。

 あるのは穏やかで温かい、安らかな感情だけ。

 全てを任せて揺蕩う。

 ただ揺蕩うだけ。


Prrrrrr。

 アラーム音が検査終了を知らせる。

「二人共お疲れ様。」

 それぞれ頭に装着していた装置を外し、上体を起こす。

「素晴らしい。やはり君達は素晴らしい逸材だ。」

 デスクトップ型パソコンの画面に表示された冠木姉妹の診断データを食い入るように眺める山崎道弘。

 いつもその場に流される無気力な雰囲気はない。

 力強く拳を握る市の姿は物凄く興奮しているのがわかる。

「これなら問題ない。」

「先生、これで検査は終了ですか?」

 画面を食い入るように見つめる山崎道弘に声をかけたのは舞風。

「え?ああ、勿論だとも。お手数をかけたね。」

「わかりました。」

 共にベッドから起き上がり、少し離れた場所にある机上に置かれている自分の携帯を取りに向かうのを山崎道弘は言葉で制する。

「二人共、この後時間はあるかな?このまま進路懇談の話を少ししたいのだが・・・。」

「少し、だけなら。大丈夫だよねお姉ちゃん?」

「ええ大丈夫よ。」

「それならよかった。UNACOM(ユナコム)について私も少し調べてね。麗泉さんの進路に力を貸せれたらと思って。」

 と話しながら紅茶を用意する山崎道弘。

「この前は頭ごなしに否定していたが、やはり生徒が望む進路を応援すべきだと考え直してね。」

 二人に手元を見せないような素振り。

「ささ、二人共紅茶をどうぞ。」

「ありがとうございます。」

「頂きます。」

 目の前に出された紅茶が入ったカップを手にする舞風と麗泉。

 二人が睡眠薬入りの紅茶を一口飲んだのを確認した山崎道弘は上唇を吊り上げながらこう言った。

「では、進路懇談を始めるとしよう。」と。


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