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午後の特訓

シャン!

 乾いた空気に鈴の音が響く。

 小さな道場で立ち尽くす侑磨一人の前で神楽を披露するのは体操着姿の舞風と麗泉。

 両手に扇を持つ舞風と水で作った剣を持つ麗泉の動きは幻想的で神秘的。

 軽やかな風、川のせせらぎのようにゆったり和やかな動きかと思えば、荒々しい嵐、全てを押し流す濁流のように激しい動きへ豹変。

 重なり合い、ぶつかり合い、励まし合う。

 目まぐるしく変わりゆく二人の神楽に魅了される侑磨。

 息をするのを忘れるぐらい彼女達に釘付けとなった。


「どうだった侑磨。」

「いや、凄いよ。」

 5分程の神楽。

 しかし侑磨には何時間も観覧した感覚だった。

 拍手喝采に誇らしげに微笑む麗泉。

 額に浮かぶ汗が眩しい。

「私達の実家は代々続く神社でね。今の神楽は新年に舞う演目なの。」

 両手に持つ扇を自分と妹に仰ぎ、熱を冷ます。

「この神楽舞を会得する為に小さい頃、祖父母から古武術を習っていたの。」

「成程。二人の原点はこれなのか。で、どうしてこの神楽を今披露した?」

「簡単な話、準備体操よ。」

 水分補給と熱を冷まし終えた麗泉が侑磨の前に立ち、構える。

「さっきの話に戻るけど、私達もインスピティアに依存している傾向があるわ。だからーーー。」

「侑磨君に指導してもらおうと思ってね。」

「今回は駄目なのは理解している。でも、認めてほしいから。」

「え?2対1・・・。」

 麗泉の隣で構える舞風に冷や汗が流れる。

「大丈夫よ侑磨君。インスピティアは一切使わないから。」

「そうそう、その為のちょっとした特訓。」

「・・・、二人共、もしかして今回の事件で外された事、やっぱり納得していない?」

「さあ?」

「何の事かな?侑磨。」

 二人の笑みの裏側から不平不満のオーラが漏れる。

「さあ、構えなさい侑磨。」

「手加減は無用よ。」

 二人の圧に負けた侑磨は渋々、戦う体勢に入る。

 冠木姉妹が視線を一瞬だけ合わす。

「「行くわよ侑磨(君)!」」

 そして同時に駆け出す。

 舞風と麗泉の動きは絶妙。

 さすが双子と言わざるおえない。

 麗泉がハイキック、舞風は足払いを同時に仕掛けてきたのに対し侑磨はバックステップで離脱。

 だが二人は追撃。

 反撃のスキを与えない魂胆だ。

(二人の動き、さっきの神楽に通じる物があるな。)

 二人の猛攻を何とか捌く侑磨。

「そこ!」

 舞風が侑磨の袖を掴み、瞬時に懐へ。

 胸倉を掴んで一本背負いの体勢に。

「させない。」

 すかさずボディーブロー。

「ぐっ!」

 一撃を受けて一本背負いは不発。

 体格差で抑え込まれるのを恐れたのか一時退却。

 麗泉が代わりに躍り出る。

「セイ!セイ!セイ!」

 足技を軸とした連続攻撃。

 麗泉は足技を中心とした攻撃スタイル。

 これは理由が二つ。

 一つは普段、水で作り出した剣を持つ事が多い事から。

 そしてもう一つは彼女の股関節が異様に柔らかい事。

 どこまで柔らかいかと言うとI字バランスを難なくできる程だ。

 その股関節の柔らかさを駆使した足技は軌道が読みにくい。

(うわっ、そんな軌道をするのか?まるで鞭だな。)

 下から伸び上がる回し蹴りからの踵落とし。

 辛うじて腕で防御。

 だが麗泉はまだ攻撃の手を緩めない。

 身体を捻り、ソバット。

(くっ!)

 回避できないと一瞬で判断。

 下がるのでなく、前へ。

「きゃあ!」

 肘鉄を受け、若干吹き飛ばれる麗泉に駆け寄る舞風。

「つ、強い。」

「本当に強いわね侑磨君。」

「実力差を痛感したかい。」

 虚勢を張るのは二人の魂胆が目に見えているから。

(舞と麗の事だ。俺に勝って、現場に連れて行けと強請るに決まってる。)

「ええ、十分に痛感させられたわ。」

 麗泉の言葉にこれで諦めてくれる、と安堵。

 だが、それは甘かった。

「でもまだこれからよ。」

「私達は諦め悪い性格なの。本心からしたい事に関して、ね。」

「はあ、仕方がない。二人には現実を見せつけてやるか。(勘弁してくれよ。)」

 表情は強気で心は嘆く侑磨に対するのは心身共にやる気満々の二人。

「(出鼻を挫くか・・・。)完膚なきまでの敗北を教えてやるよ。」

「「やれるものならやってみなさい!」」


「う~~~。」

「身体が・・・。」

「セ、センパイ方、大丈夫ですか・・・。」

 放課後、生徒会室の自席で倒れこむ冠木姉妹。

 侑磨との実戦形式での特訓は午後の授業の時間全てを使うも明確な一本を取ることが出来ず。

 極度の疲労と痛みだけしか残らなかった。

「この体調を踏まえると今日の校内パトロールはなしね。ありがとうメリッサちゃん。」

 後輩の労るお茶汲みを有難く頂く舞風。

「お二人とも、こんな状態ですからね。そういえばユウマセンパイは?」

「侑磨は今日お休み。研究棟にいるわ。」

 机に顔を乗せたまま、手をヒラヒラ振る麗泉。

「シルフィア先生に呼び出されたからね。」


「痛っ。もっと優しく貼ってくれよ。それでも保険医?」

「煩い。これぐらいどうって事ないでしょ。」

「ぎゃ!」

 背中の擦り傷に大量の消毒液はぶちまけるシルフィア。

 余りにも雑な治療に涙目の侑磨。

「もういい。もういいから。後は俺が―――。」

「何?治療してほしいと泣きついてきたのはユーマでしょうに。ほら。」

「違う!手が届かない背中だけで治療してほしいだけで、不器用なシルフィの手をこれ以上―――ぎゃあ!」

「よく聞こえなかったけど、不器用な私がどういたしましたか?」

「聞こえている――――ぎゃあ!ギブギブ!すいませんでした!!」

 侑磨の悲鳴は10分少々響き続いた。


「で、オレを呼び出した理由は?」

 治療が終わり、涙目の侑磨が本来の要件を尋ねる。

「二つあるわ。悪い知らせと最悪の知らせ、どちらから聞きたい?」

「どちらとも聞きたくないな・・・。」

 げんなりする侑磨。

 とは言え話が進まないので仕方なく悪い知らせから聞く。

「大和栄党がダスト・クリーンの残党と接触している可能性が出て来たわ。」

「確かに悪い知らせだな。」

「最近、きな臭い行動が目立ち始めたから少し探りを入れてみたけど・・・。でも可能性の域しか出ていない不確かな情報よ。真意はこれから詰めていく事になる。」

「と言う事はそっちにも人員が割かれる事になるのか・・・。」

「ええ。菊元クンからある程度人員を確保してもらったけど、やはり人手不足ね。」

「舞と麗を動員するのか?」

「いいえ。あの娘達はまだ。頭数には入れていないわ。安心した?」

「五月蠅い。それでもう一つは?」

「JPが日本に密入国した可能性があるわ。」

 研究室の空気が張り詰める。

「JP・・・本名ジョージ=パーマーストン。アメリカ人で裏社会の武器商人を牛耳る大物。」

「ええ。今まで数多くの先進者を誘拐しては商品をして売り捌いている国際指名手配犯よ。目的の為ならば手段も択ばない極悪非道の人物。」

「確か1年前にアジトを襲撃の際に取り逃がして以降、足取りが掴めず捜査は難航していたはずだな。何処からその情報が?」

「先日、別件で逮捕された闇の売人から提供された情報よ。数か月前JPに偽造パスポートを渡した事を供述したわ。」

「その行き先が日本だったと。」

「ええ、多分もう密入国していると思う。」

「ならば一刻も早く根城を見つけ出さないといけないな。」

「ええ、前に見せてもらった死体の写真。あれ、JPの組織が良く行う拷問痕があった。多分今回の事件に絡んでいるわ。」

「本当に最悪の知らせだな。本部はこの事についてなんて言っている。」

「人員不足。そっちで対応してほしいそうよ。何でもイタリアでひと悶着あったみたい。」

「またか・・・。」

 短い言葉で全てを理解した侑磨。

 致し方無いと自分自身に言い聞かす。

「JPの組織はこの前の襲撃で大打撃を受けたとはいえ、まだかなりの規模が残っている。早く手を打たないとまた大きな被害が出るわ。ユーマ。」

「わかった。今からシルフィのフォローに入る。何をすればいい?」

「本部から送られてきた情報を精査して。私は港や空港の防犯カメラからJPらしき人物を探すわ。」

「わかった。(これは暫くこっちにかかりっきりだな。)」

 



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