頭悩ます問題児
「全く・・・、あの二人は。」
と独り言を呟くのは麗泉。
気絶した両部長を医務室に運んだ後、舞風はこの騒動の顛末を教員に報告するため職員室へ。
麗泉は校内パトロールの続きを。
まだ騒がしさが残る運動場を離れ、100人規模のBBQが出来る程の広さがある芝生が生い茂る中庭へ足を向ける。
この場所は主に文化部や授業後のティータイムを楽しむ生徒が集い、賑わう場として知られ、今日も吹奏楽部の個人練習に励む生徒や写生する美術部、談笑する生徒がちらほら。
その人達の邪魔にならないよう静かに通り抜けようとしていると麗泉の耳にある会話が届く。
「ねぇ君、今ヒマ?もしよかったら俺とお茶しない?」
「え?あ、あの、ちょっと困ります・・・。」
「いいじゃん。チョットだけだからさ。」
学園には相応しくない発言。
この数カ月間、聞き飽きるほど耳にした甘ったるい男子生徒の声は賑いの隙間をすり抜けてはっきりと聞こえた。
(またアイツは~~。)
その瞬間、麗泉の行動は速かった。
声が聞こえる方――校舎と校舎の渡り廊下で白昼堂々女子生徒をナンパしている男子生徒へ突撃。
「君、可愛いね~。その戸惑っている顔、中々そそるよ~~。」
「侑磨!!!!」
「へっ?ふぎゃあああ!」
麗泉の飛び蹴り(水の渦付き)が男子生徒のわき腹にクリーンヒット。
くの字のまま数m吹き飛ばされる。
「全く・・・。大丈夫?」
麗泉の問いかけに「は、はい。」と頬を染めて答える女子生徒。
学園指定のセーラー服のネクタイの色から下級生――今年の新入生だと判明する。
「後は私に任せて、さぁ。」
「あ、ありがとうございます。」
女子生徒は若干の戸惑いと麗泉への憧れの視線を残してその場から走り去る。
「あ、ちょっとカノジョ~~。あー、行っちゃった・・・。」
いなくなった女子生徒に未練を見せるのは手入れが成されていないぼさぼさの髪型をした男子生徒。
彼の名は忍久保侑磨。
学年が上がると同時に明光寺学園高等部へ転校してきた麗泉のクラスメイトである。
「いい加減にしなさいよ、侑磨!」
「やあ、麗ちゃん。HRぶりだね。」
背中を丸めて胡坐をかく侑磨の前で仁王立ち。
「何しているの?」
低い声で尋ねる麗泉の背後から怒りのオーラが。
周囲の人々はそのオーラに何事かと恐れながら成り行きを見守る中、侑磨はどこを吹く風。
再び地に寝転び、大きく伸びをして平然と答える。
「それは見ての通り。暇そうにしている女の子がいたから声をかけただけさ。」
「あのね!いつも言っているでしょ!学内でナンパしないで、て!」
「別にいいじゃない。」と答える侑磨の顔には反省の色はない。
寝転びながら長い襟足をなぞり、へらへらしている侑磨に対し怒りはさらに膨れ上がる。
周囲はこの状況に戦々恐々。
人群の輪は噴火を恐れ、じわじわと離れる。
「麗ちゃんは怒ってばかりだね~。笑顔を見せないと。折角の美人が台無しだよ。愛しの麗ちゃん。」
「茶化さないで!」
ついに噴火。
迫力ある声に人群れは脱兎の如く逃げ出す。
「侑磨、警告よ。次同じようなことをした場合、厳重な処罰を下すわよ。」
「了解いたしました。」と答える侑磨。
しかし彼の表情と態度は全く変わらず。
悪そびれる事もないその態度にまた同じ事をするだろうと察した。
(全く・・・、侑磨はいつもこうなんだから。)
麗泉の最近の悩みは彼のせい。
転入早々から授業中に居眠りやサボる事が多く、女子生徒を見境なしにナンパする等で教員達から印象が宜しくない。
このように現場を目撃し、何度か注意はしていたのだが暖簾に腕押し。
ずっとこの調子なのだ。
「それから侑磨。昨日の午後の授業―――インスピレティアの演習、またサボったでしょう。」
インスピレティアとは先進者の能力の事。
この学園ではインスピレティアの向上――つまり能力の強化の為の授業が組み込まれている。
「あ~、そういえばそうだったね。」
「そうだったね、じゃないわよ。何でサボるの!」
「それは~、まあ~、気分が乗らなかったからね。」
「自分自身の事でしょう!」
説教を口にする麗泉。
しかしこの口調は段々弱くなる。
それは侑磨の態度を見て。
ヘラヘラする彼の態度に一見変わりはない・・・・・・ように見えるがその裏に沈んだ表情が潜んでいた。
その事に気付いた時、何故かこのまま感情に任せて説教をしてはいけない、と察知したのだ。
「とにかく、次はちゃんと出なさいよ授業に。」
「わかったよ麗ちゃん。」
全く・・・、とため息が零れ、ふと気づく。
話が終わったのに侑磨は寝転んだまま動こうとはしないのだ。
「何しているの、侑磨?」
「いや~出来ればこの絶景をもう少し眺めておきたいな、と思ってね。」
「え???・・・・・・、っ!」
やや吊り目気味の灰色の瞳は麗泉の――下半身付近に注がれていることに気付き、慌ててスカートを押さえる。
「どこを覗いているのよ!」
「勘違いしないで麗ちゃん。俺はスカートの中は覗いていないよ。それに麗ちゃんはスパッツ着用しているじゃないか。」
彼の言う通り。
視線はスカートの方ではなくもう少し上の方を向いている模様。
「じゃあどこを見てるの?」
「それはセーラーからチラリと視える麗泉ちゃんの可愛いお臍と可愛らしいくびれさ。」
「っ!!!」
冷め始めていた羞恥心と怒りが再び上昇。
そんな彼女に対して油を注ぐ。
「そしてその上には立派に育ったたわわな胸の谷間が!へぇ~~、今日は水色―――「バカ!ヘンタイ!」ぎゃあああああ!」
麗泉の鉄拳が侑磨の口を封じた。