双子だからできる事
「あれお兄ちゃん。こんな所で何をしているの?」
放課後。
食堂横にあるテラスにのんびり座る侑磨を見つけた莉緒が駆けつける。
「サボっていると麗泉お姉様に怒られちゃうよ。」
「その麗を待っているのさ、ここで。」
午後の授業終わり、侑磨の携帯に麗泉のアドレスから『先生から呼び出しがあったから少し遅れる。テラスで待っていて。』メールが来ていたのだ。
「ふ〜ん。」
「侑磨、お待たせ。」
「あ、麗泉お姉様!」
ハーフポニーを靡かせてこちらへ近づいてくる見目麗しい美少女の姿が。
「あら莉緒ちゃん。こんにちは。」
「麗泉お姉様、こんにちは。今日もその髪型にお姿、鮮やかで美しいです。」
恍惚とした尊敬の眼差しを向ける莉緒。
「ありがとう。さあ侑磨、早速校内パトロールに行くわよ。」
「ハイハイ。」
「頑張ってください麗泉お姉様。それとお兄ちゃん、麗泉お姉様の邪魔をしちゃダメだよ。」
「善処いたします。」
莉緒と別れ、テラスを後にする二人。
恒例の校内パトロール。
トラブルを迅速に収める為だけではなく、生徒達の普段の様子を眼で直接見て、身近に感じる為に始めたこの試みだ。
「麗泉副会長!」
「今日もお麗しいお姿ですね。」
「あの、この前はありがとうございました。」
姿を見かけて次々と絶え間なく声をかけてくるこの光景におもわず一言。
「やれやれ、相変わらずの人気だなこれは。」
彼女が嫌がっている様子が見受けられないので暫くはこのまま成り行きを見守る事に。
暇なので近くにいる女子に声をかけようと画策したが、人群れの中から鋭い睨みを感じたので渋々諦める。
「さ、私そろそろ次に行かないと。侑磨、行くわよ。」
「了解。」
頃合いを見て周囲の人達に断りを入れて、侑磨を連れ立って次の場所へと移動。
誰もいなくなったタイミングを見計らいで侑磨に苦言を呈する。
「侑磨、さっきの態度は何?それに女の子をナンパしようとしてたよね?」
先程までの愛くるしい笑顔は消え、不満が率直にぶつける。
それはいつもと同じ態度を意識している。
「もっとやる気を出しなさいよ侑磨。」
「なら、そっちもちゃんとしてくれると嬉しいのだけどな。」
「ちゃんとしているわよ、何言っているのよ。」
「じゃあ麗を真似るのはよせよ舞風。」
侑磨の発言に空気が固まる。
「何をいっているの侑磨ーーーーて誤魔化しても無駄ね。」
声色や口調、そして雰囲気がガラリと変わる。
凛々し美しい麗泉ではなく愛くるしい小悪魔な笑みを振り撒く舞風へと。
「何となくそんな感じがしたのよね〜。侑磨君、一度も麗泉ちゃんの名前を呼ばなかったし。」
ウィッグとカラーコンタクトを手早く外し、いつもの舞風の姿へと戻る。
「手慣れているでしょう。中学の時、互いに入れ替わって告白してきた男子を追い払っていたの。」
成程と納得する侑磨。
美少女双子姉妹として有名な二人に告白話が一切ない理由を今垣間見たのである。
「全員、私達を見分けられなかったわ。中には間違えを教えた後に『どっちでもよかったから付き合ってくれ』ですって。ひどいと思わない。」
「同情の余地もないな。」
「でしょう。私達を見分けられない人と付き合っても上手くいくと思わないから。」
「俺を試したのか?」
「ええ、侑磨君は私達の事、一度も間違えた事がないから。入れ替わったら気付くかな?て。」
嬉しそうに微笑む舞風。
先程周囲の生徒達に振舞った愛想笑いではなく、本心からの微笑み。
「家族でも時々間違える事があるのに。ねえ侑磨君。あなたはどうやって私達を完璧に見分けているの?」
面倒くさそうに答える侑磨。
「胸の大きさ。」
「いや〜ん。侑磨君のエッチ。」と口にするが嫌がる素振りはなし。
それどころか胸を寄せ上げて大きさを主張、前屈みの態勢でセーラー服の隙間から胸元を見せつける。
「嘘はダメだよ侑磨君。今はちゃんと麗泉ちゃんの大きさにしているよ。さあ、本当の事をお・し・え・て。」
いいものが見れたでしょ、と小悪魔な笑みを浮かべて。
「言葉にしにくいが、言動が麗に似ていたからだ。」
「どういう事?」
「似せようとするあまり自然さがなかった。ほんの僅かな誤差を感じたからな。」
「成程ね。ふふ、よく見ているのね。」
麗泉ちゃんの事を、という言葉は飲み込む。
妹がちょっと羨ましくて言葉にする事が憚られたのだ。
そんな舞風の心情に気づく事なく言葉を続ける。
「容姿が瓜二つの双子とはいえ人格は違う。ちゃんとした個性がある。違いを見つけられないのは舞風と麗の事を個人としてちゃんと見ていないからさ。」
「私の事も、ちゃんと見てくれているの?」
「当たり前だろ。」
ドキンと胸が高鳴る。
今まで双子姉妹の一括りとして見られる事が多かった。
それは二人の見分けがつかないから。
髪型を変えているのはその為でそれでも間違えられる事は多々。
過去告白してきた人も「どちらか区別は付かない。付き合えるのならどっちでもいい。」と言い放つ人ばかりだった。
(やっぱり侑磨君は他の人とは違う。)
それが嬉しくて嬉しくて気持ちが抑えきれない。
だがその一方で、妹への嫉妬が湧き上がる。
大好きで大切な妹。
ずっと一緒で隣にいる可愛い妹。
(侑磨君の一番は麗泉ちゃん。それが悔しい。だって先なのはーーー。)
名前を呼ばれ我に返る。
「で、舞風のお眼鏡には叶ったのかな?」
「う〜ん、ギリギリ不合格かな?」と答えたのは負けたくないから。
「私は少し不満があります。」
「不満?それは何だ舞風?」
「そ・れ・だ・よ。」
まだよく分かっていない侑磨に頬を膨らませる理由を突き付ける。
「私は何で『舞風』なの?麗泉ちゃんの事は『麗』って親しく呼んでいるのに。」
「そ、それは・・・。」
気が付けばそう呼んでおり、麗泉からも「べつにいいわよ、その呼び方で。」と素っ気無く(本心はとても嬉しかった)言われたのでそのまま呼び続けていた。
(麗泉ちゃんだけズルい。)
二人の距離感が変わった事にいち早く気づいた舞風。
羨ましさと嫉妬が彼女の行動を後押し、侑磨の懐へと潜り込み、上目遣いで色っぽく囁く。
「ま・い、だよ侑磨君。」
「わかったよ、舞。」
「(今はこれだけで・・・。でもいつかは。)うん宜しく。」
頬が色づいた満面の笑顔。
それは誰にも見せた事がない満開の鮮やかな笑顔であった。
「さて舞。これからどうする?」
「それはもちろん校内パトロールの続きだよ。勿論二人っきり、でね。」
自然と舞風の手が侑磨の手へと伸びる。
指を絡ませての恋人つなぎ。
舞風は意を決して強く握ったその時、「お姉ちゃん、侑磨。」と叫ぶ声が。
「っ!!」
びっくりした舞風は慌てて手を離す。
(どうしよう?麗泉ちゃんに視られたかな?)
した事がとがないであろう、恋人つなぎを先にした事に怒るかも知れないと危機する舞風であるが、全力疾走してきたのであろう麗泉は別の―――姉が手にするウィッグに注目していた。
「お姉ちゃん?私に入れ替わって侑磨に何をしたの?」
「怒らないで麗泉ちゃん。それより聞いて。侑磨君、ちゃんと私達を見分けられるのよ。」
「侑磨ならそれぐらい当然よ。」
さぞ当たり前だと、言わんばかりの態度。
「で侑磨、お姉ちゃんに何をしたの?」
「俺は何にもしてない。そうだよな舞。」
「舞!?」
「まあまあ麗泉ちゃん。落ち着いて。」
険しい顔つきで睨みつけられる侑磨のフォローに入る舞風。
「それよりもどうしたの?そんなに慌てて。」
「あ、そうだった!これを見て!」
「な!」
「嘘!!」
麗泉が驚く二人に見せたのは自分の携帯。
学園からの緊急メールでそこにはこう書かれていた。
『明日の放課後、第三体育館にて佐渡村煉修と忍久保侑磨の決闘を執り行う事をここに発表する。承認者、No.1菊元宗近。』




