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初出動

 冠木姉妹がUNACOM(ユナコム)臨時捜査官となり初めての出動要請が出たのは数日後の祝日。

 彼女達は侑磨と共にとある小学校へと訪れていた。

 ここで行われているのはUNACOM(ユナコム)の慈善事業。

 子供達に先進者をより身近に感じてもらえることを趣旨とした企画である。

 今回の対象者は小学生低学年で午前中は小さな余興を見せた後、午後から分かりやすい講習を行う流れである。

 この話を聞かされたのは三日程前。

 本来は正規職員だけで行う予定であったが、どうしても人手が足りず急遽、話が回ってきたのである。

 その為、慌てて出し物を考え夜通しの練習をする事となった冠木姉妹。

 どうにか形になり、今日を迎えた。

「それじゃあ二人共、練習通りに。」

「わかったわ侑磨君。」

「それじゃあ行ってくるわね侑磨。」

 侑磨に見送られ、舞台袖から躍り出る学園の制服姿の二人に子供達の無邪気な歓声が沸く。

「皆、こんにちは。」

「今日は存分に楽しんでくださいね。」

 麗泉は早速、バレーボール程の大きさの水球を3つ作り出し、舞風にパス。

 それを風で浮かせ、自分の周囲で回転させる。

 どよめきと歓声が沸き起こり、拍手喝采。

 観客の反応に気を良くした二人は笑顔で見せ、次々と練習した技を披露。

 体育館に集まった子供達は目を輝かせ、冠木姉妹が披露する曲芸の釘付け。

 その後、侑磨が登場。

 引き継ぐ形で数々のマジックを披露。

 驚きと感嘆の声が何度も響き割り、大きな歓声を受け、午前のプログラムは締め括られた。


「ふう、疲れた。」

 昼の休憩時間。

 食事を採り終え、校舎横にある自動販売機横のベンチにて一息つく侑磨と冠木姉妹。

「二人とも一旦お疲れ様。」

 侑磨の差し入れを受け取り、乾いた喉を潤す。

「初出動の感想は?」

「心地よい、充実感がある疲れね。」

 もう一度、水を飲む舞風。

UNACOM(ユナコム)はこんな慈善事業も行っていたのね。」

(おきな)――本部長官の方針でな。『我々は市民とは蟠りなく、近しい関係にならなければならない。』と。ま、日本支局はその方針に従わず、身勝手な行動ばかりしていたから知らなくても当然だけど・・・。」

「シルフィア教授から聞いたけど、本当に酷かったみたいね。」

「不祥事の山ばかりで前まで勤めていた人は全員辞めさせたのでしょう。運営できるの?」

「人員は補充できたらしい。俺もまだ会った事がないが・・・。」

 侑磨と冠木姉妹はまだ学生の身である為、基本は学園に登校し、人手不足等で要請があった場合のみ出動する、と取り決められていた。

「でも急場凌ぎ感は否めないけど、うまく行ってよかったわ。」

「本当だね。侑磨のマジックがなかったら盛り上がりに欠けていたわね。」

「二人の方も随分盛り上がっていたと思うけど。それに俺の方は実際にはインスピレティアではないし。」

「でも舞台慣れしてたわね侑磨君は。」

「さっき写真を確認したけど、緊張で表情が強張っていたもん。」

「侑磨君は何度か経験しているのでしょう?」

 何気ない気持ちで尋ねたつもりだった。

 しかしこの質問に侑磨の顔は少し曇る。

「いや、オレも今回が初めてだ。今まで出させてもらえなかったから。」

「え??何で?」

「『お前みたいなバケモノがこんな人前に出てくるな。』と言われ続けてきたからな。」

「侑磨・・・・・・。」

 以前から侑磨は自身の生い立ちや過去について語るのと躊躇う事が多かった。

 それは辛い事が多いからだと、彼の表情から何となく察していた冠木姉妹。

 でも今、言葉を濁しつつも少しずつ語ってくれた事に嬉しくなる二人。

 自分達の事を信頼してくれているのだとわかったから。

 示し合わしたかのように自然な動きでそれぞれ侑磨の両隣へ座る。

「じゃあ私達と一緒だね。」

「初めての慈善事業、成功して良かったね侑磨君。」

「ああ、そうだな。」

 二人の気配りに感謝の意を示し力強く頷く。

「さて、後は午後のプログラムだけだな。」

「午後からは正規職員が先進者について説明するのを手伝えばいいのね。」

「ああ、その予定だ。」

 侑磨が時計に目を移す。

「まだ休憩時間はある。ゆっくり――――。」

「ひったくりだ!」

「「「っ!」」」

 男性の叫び声が聞こえ、校門へと駆け出す三人。

「誰か!そいつを捕まえてくれ!」

 肥満気味のスーツを着た男性が指差す先には鞄を脇に抱え、走り去る男の姿が。

「麗泉ちゃん!」

 一番早く行動を見せたのは麗泉。

 考える間もなく、ひったくり犯を追いかける。

「舞風は被害者の保護。」

「わかったわ。」

 舞風が倒れている男性の方へ向かったのを見届け、侑磨も行動開始した。


「待ちなさい!」

 麗泉が追いかけているひったくり犯は20代前半の黒のニット帽とマスクで人相を隠している男性。

 人を上手く避けて走るフォームから陸上経験者と推測。

 差が広げられて見失わない事を心掛ける。

『麗、状況報告!』

 右耳に装着しているインカムから侑磨の声が届く。

「今犯人は右に曲がった。河川沿いの一本道。」

『了解、そのままキープ。もうすぐ追いつく。』

「オッケー。」

 麗泉が振り切れない事に舌打ちをする引ったくり犯。

 ギアを上げて引き離しをかけようとした時、

「そこまでだ!」

 前方のT字交差点から姿を見せる侑磨。

 挟み撃ち成功。

 逃げ場を失う犯人。

「そこまでよ。観念なさい。」と叫ぶ麗泉に余裕の笑みを浮かべる引ったくり犯。

「あっ!」

「先進者か!」

 驚異の跳躍力を見せつける引ったくり犯。

 3m以上ある柵を軽々飛び越え、向こう岸へ。

「へへへっ、ざまあ!」

 地上で立ち尽くす麗泉と侑磨に悪態を吐き散らす。

「あばよ!!ーーっん???うわあああ!!」

 向こう側へ着地態勢に入った瞬間、突然強風が引ったくり犯の周りだけ吹き荒れ、それによりバランスを崩し地面に腰を強打。

「っ〜〜〜〜。」

 あまりの痛みに声すら出ない引ったくり犯。

 地面に転がる奪った鞄へ手を伸ばす。

 が、その手を力強く踏みつける一人の少女。

「な、何でテメェが?向こう岸にいるはず・・・。」

「よく間違われるのよね〜。向こう岸にいるのは双子の妹よ。」

 左手に手錠、そして右手に持つUNACOM(ユナコム)捜査員証明書を見せつける。

UNACOM(ユナコム)臨時捜査官の冠木舞風です。あなたを引ったくりの現行犯で逮捕します。」

 可愛らしく、そして威風ある一言だった。


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