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UNACOM

 国連先進者対策機構(united nations advanceder Countermeasure mechanism)。

 先進者の人権保護と規則を目的として設立された国際連合の組織の一つである。

 本部はスイスにあり、各国毎に支局が置かれ、現地の先進者における問題解決のために日々奮闘を続ける部署である。

 現在のUNACOMに所属する捜査官・職員及び研究員は全員で約1,000人。

 しかし正式採用されている者は1割以下。

 本部に努めている者が殆どで残り9割程は各支局が独断で採用した臨時捜査官アルバイト

 これは先進者による犯罪が年々増え続けている事で人員不足に陥り、苦肉の策として行われた制度。

 その為、UNACOM職員の質は年々低下。不正が多く蔓延る事態となり、現在に至っている。



「どう、学園生活は?」

「・・・・。」

「生徒会、頑張っているみたいね。会長達、ユーマの事を褒めていたわよ。」

「・・・・。」

 助手席に座る侑磨は無言。

 窓越しの薄明を眺めるその眼は冷たくて虚空。

 表情が存在しない無の状態で助手席に座る彼はまさに命令を待つロボットのよう。

 明光寺学園の生徒としている時のおふざけが多い侑磨の姿形は一切ない。

 そんな彼の態度にシルフィアはハンドルを強く握り、仕方がなく本題に入る。

「女子連続暴行事件、やはり先進者の犯行だったわ。」

 シルフィアから捜査資料を受け取り、眼を通す。

「俺が動員されたのはその為か。」

「ええ、本来なら現地の捜査官で対応したいのだけど・・・・・。」

「腐りきっているからな。どこもかしこも。」

 軽蔑の感情を隠そうとはしない侑磨に何も言い返す事が出来ない。

「危険な犯罪者をこのまま野放しには出来ないの。ユーマ、お願いよ、協力して。」

「協力も何も俺に拒否権なんて存在しない。ただシルフィア特務捜査官の命令に従うだけだ。」

(私はお願いしているだけなのに・・・。でもユーマには私の言葉は全て命令に聞こえてしまう。)

 心の中で憂い悲しむシルフィア。

 助手席に座る侑磨が自分に対しての感情を再確認したから。

 チラ見すると彼は濁った瞳で再び外を眺めている。

 エンジン音だけが響く車内。

 会話は一つもない。

 幾らシルフィアが話しかけようとも侑磨は心を開かない。

 どんなに歩み寄ったとしても。

 二人の関係がそれを許さないのだ。

(私には無理、なのかもしれない。ユーマは絶対に私を信用しない。するはずがない。)

 信号が赤となり、車は停車。

 侑磨と同じように空を見上げる。

(同じ空を見ているはずなのに、ユーマとは違う景色を見ている。)

 分かり合う事がない二人の関係。

 空はいつの間にか夜空へと変わっていた。

 


「さあ着いたわ。まずは捜査員と―――どうしたの?」

 愛車のフェラーリを道脇に停め外へ出ようとしたシルフィアを制止させる侑磨が指さす。

 そこには群青色の警備服を着たUNACOM(ユナコム)日本支局の捜査官と髪を金色に染めた明光寺学園の生徒が軽い言い争いをしていたのだ。

「いいから俺に情報を寄こせ。わざわざこの俺が出向いてきたのだぞ。」

 年上に対して敬意も礼儀もない言動を見せている彼の名は佐土村煉修(さどむられんしゅう)。ナンバーズの一人でNo.10と呼ばれていた者だ。

「はあ、何を言っている。キサマみたいな学生に応援など求めた覚えはないわ。」

 UNACOM(ユナコム)の捜査官も高圧的な言動を見せる。

「いいから早く寄こせよ。」

 くちゃくちゃとガムを噛む音を鳴らす。

「何があったの?」

「特務官!」

「ああん、なんだテメェは?」

「この人はUNACOM(ユナコム)本部から出向されている特務捜査官だ。」

 最敬礼する捜査官とは対照に煉修は怪訝な顔を見せる。

 彼は彼女が明光寺学園の教師であるシルフィアである事に気付いていない。

 だがそれは仕方がないこと。

 今彼女は普段学園で見せるズボラな恰好でないから。

 ぼさぼさの髪は櫛とオイルで綺麗な艶のある髪質へと生まれ変わり、眼鏡を外しコンタクト。

 服装も全身のラインがはっきりとしたスーツを着こなすその姿は学園で『不細工』と称される彼女と同一人物であるとは思えないであろう。

「実はこの生徒が暴行犯に関する情報を提示しろ、と―――。」

「俺はNo.1から言われてここに来たんだ。有難く思いな。」

「ええ、その話は聞いているわ。」

 仕方がないわね、と自分の捜査資料を手渡す。

「渡すのではないわ。今見て覚えなさい。」

 へいへい、と頷き、黙読する煉修。

「よろしいのですか、特務捜査官?」

「私が責任を持ちます。」

 と答えるとあからさまに安心する態度を見せる捜査官。

(事なかれ主義な性格ね。)

「・・・・・・・・、成程な。」

 シルフィアに投げ返し、踵を返す。

「後は俺に任せろ。叩き潰してやる。」

 自信満々な足取りで闇夜に消えていった。

「行ったか・・・。」

 煉修の姿が完全に消えたのを見計らい、侑磨が車から出る。

「っ!お、お疲れ様です。軍曹。」

 侑磨の姿に再び敬礼。

 それはシルフィアよりも敬意は少なく、恐れを抱いている様子。

 侑磨は無言で敬礼。

「お、これはこれはシルフィア特務官ではないですか。」

「日本支局長、お疲れ様です。」

 覆面パトカーから颯爽と降りてきた肥満体の男性にシルフィアと侑磨が敬礼。

「お疲れ様ですな。」

 侑磨に軽蔑の視線を投げつけた後、シルフィアに歩み寄る。

「本部から出向されて早1年と少し。慣れましたか?」

「ええ皆さんのおかげで。」

 作り笑顔で答えるシルフィア。

 内心苛立ちを覚えている事に気付いていない日本支局長はシルフィアの身体を舐めまわすように視姦。

 言葉を続ける。

「どうですか、この後一杯でも?聞く所によると特務官はかなりの酒好きだと。」

「ええ、この事件が解決した後ならいくらでもお付き合いしますわ。」

 遠回しの遠慮であるが日本支局長はこれを了承と受け取ったようで、

「では颯爽と解決させないといけませんな。」

 意気揚々と部下達に指揮し始める。

「サイテイ!まだ勤務中よ。犯人逮捕すらしていないのに、あんな誘いなんかして。おまけに酒の匂いまでさせて。」

 勤務中に酒を飲んでいた日本支局長に嫌悪感を見せるシルフィア。

 その隣で侑磨は冷静且容赦ない一言が。

「シルフィだって普段から酒に入り浸っている癖に。」

「あら私はあの男みたいに思考が停止するほど酒は飲んでいないわ。」

「飲んでいる時点で同罪だ。」

「不本意ね。私があの男と同じだというの?」

 気分を害され、批難の視線を向ける。

「同罪さ。俺を道具としか見ていないお前なんて・・・。」

「ユーマ・・・。」

 途端、シルフィアの表情が曇る。

「ま、そんなことを言ったらこの俺が一番の罪人だ。」

 その言葉がシルフィアの心を深く抉る。

 何も言えない。

 自分自身を責め続け、苦しんでいる彼に対して。

「で俺達はどうする?あの捜査官達とは別行動をするのか?」

「ええ。」

 返事だけする。

 今の彼女にはそれしか出来ないから。

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