三
門をくぐるとそこは、外には無い温かい明かりが溢れていた。建物から漏れ出る灯火。活気の良さを感じさせる陽気な街だった。
石造りの建物に石畳の匂い。それとそこら中の料理屋から漂ってくる食欲を誘う香り。
そして街を包んでいるのは、そこで暮らす人々の賑やかな声だった。
「へー、イイ感じじゃん」
ドールは街を見渡して、雰囲気に楽しみを覚えながら口にした。鎧もその言葉に同意しているようで首を下ろした。
「ありがとうございます。しかし、おふたりはいったいどちらからいらしたのですか?」
「ん? どゆこと?」
「この街は首都です。当然この国の者なら知らないはずは無いと思うのですが」
「シュトって何?」
「え? あ、首都とはつまり、国の中心部のようなものでしょうか」
「あ~ね。まぁ別にイイじゃん。スッゲー遠くから来たってことで」
「そうですか。言いたくないようでしたら詮索はいたしません」
「センタク?」
「センサクです。あまり詳しく聞くつもりはないということです」
「ドーモ」
そのまま騎士達、ドールと鎧は街の中心地に威風堂々と佇んでいる、仰々しく、風格の溢れる、豪華で巨大な城の門前まで歩いた。
城の前には門兵がふたり並んでいた。
「ご苦労様です。シルバ騎士隊の……ん? この者達は?」
「ああ、今回の仕事の功労者達だ。丁重に迎え入れてくれ」
「かしこまりました」
シルバのおかげで今回はすんなりと門をくぐることの出来たふたりであった。
城の中は絢爛豪華と言うにふさわしい内装をしていた。まずその広さだ。その城内部そのものが、小さな村のひとつと言ってもいいくらいに広く、人も多い。そして飾られているものは城の主の権力を主張するように精巧でありながら豪華で煌びやかだ。
「うわ、スッゴ。なにココ」
ドールはキョロキョロと右から左、天井から床まで物珍しそうに目を輝かせて見渡した。
「ここは皇帝陛下の住まわれる城です」
「コーテーヘーカ?」
「……本当にこの国のことを知らないようですね。この国の最高権威、つまり一番偉い人が住んでいるのです」
「へぇ~」
「あまり興味はなさそうですね」
「アタシにはダーリンがいればそれでいいし」
ドールは輝かしい宝石などに向ける視線とは比べものにならないほど熱っぽい視線を、今なお獣の血で汚れている黒い鎧に向けた。
シルバはその言葉に愛想笑いをするだけだった。
シルバに連れられて謁見の間に訪れた。広大な部屋、赤く長い絨毯が敷かれ、挟むように鎧を着た兵士がずらりと並んでいる。絨毯の先には数段の階段があり、上った先には年期の入った眼差しをした、威厳溢れる髭を蓄えた中年の男がひとり座っている。そのものが皇帝であることはドール達の目から見ても明らかであった。
絨毯を渡り、皇帝の目の前の階段まで付いたところでシルバが床に膝をついた。ドールと鎧はシルバに無言で促され、何や分からぬままにシルバの真似をした。
「シルバ騎士隊、討伐任務を無事終え帰還いたしました」
「うむ、ご苦労であった。それで、その者達は」
「この者達はこの度、獣を退治した功績者であります」
「ほう、それはご苦労であった。ところで───」
瞬間、部屋の温度が下がった錯覚を鎧を除いて誰もが感じた。シルバ、ドール、横に並んでいる兵士達全てが背筋に悪寒が走り、身が震えそうになった。
皇帝はギロリと射貫くような視線で黒い鎧を睨みつけた。
「我が誰か分からぬ訳ではあるまい。いつまで兜を被っているつもりだ。面を見せよ無礼者」
腹のそこまで響くような低い声だった。鎧は顔を上げるが、兜は脱がなかった。
「コーテーヘーカ!」
両者が見つめ合っているなか、ドールは声を大きくし、割り込む。皇帝は視線をドールの方に移した。
「なんだ?」
「ダーリンは、その、あの、脱いだ姿を見せられないというか」
「何がいいたいのだ」
「だから、えっとつまり、見逃して、デス!」
「……」
「オネガイシマス!」
ドールは跪く姿勢から更に頭を垂らし、床に付けた。ドールの声は部屋中に響き、反響した。その場の者全てが皇帝の出方を固唾を飲んで見守った。
そして、
「ならぬ」
皇帝は否定した。
「そんな……!」
ドールは顔を上げて皇帝に抗議しようとした。が、鎧はドールの前に手を出して遮り、首を横に振った。
「ダーリン、いいの……?」
ドールはその姿に眉を下げて、心配した視線を向けた。そして誰もが見つめる中、鎧が自らの兜に手を当てたところで、
「まぁ待て、そう慌てるな」
皇帝から制止が掛かった。そしてズラリと並ぶ兵士達に退室するように促した。兵士達は戸惑っていたが再度指示を受けると謁見の間から姿を消した。
今この場に残っているのは、皇帝、シルバ、ドールと鎧の四名とである。
「この国において我に秘匿は許さぬ。だが他の者にまで見せる必要はなかろう。シルバ、わかっていると思うが」
「はい。このことは私の名誉に誓って口外することはありません」
「うむ」
ふたりが言葉を交わした後、鎧に視線を向けた。鎧はゆっくりと兜に手を当てて、重々しく外した。
「なっ───!?」