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魔法の言葉 ~灰かぶり令嬢の恋は、焼き立てスコーンとイチゴジャムから~  作者: 壱邑なお


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8/22

魔法いらずの警備隊長

 その夜、パブ『薔薇の名前』は大盛況だった。

 5個のテーブル席に陣取った、20名以上の隊商一行が、呑んで騒いで盛り上がっている。


「あれっ、満席……!?」

 ドアベルを鳴らして入って来た、顔なじみの軍人達に

「いらっしゃいませ! 申し訳ございません。 

 カウンター席でよろしかったら、こちらにどうぞ!」

 店主のスタンリーが、愛想の良い笑顔を見せた。


「じゃあ、そうさせてもらおうかな……隊長、よろしいですか?」

 常連の隊員が振り返った先には、店主が初めて見る背の高い軍人の姿が。


 (うなず)きながら剣帯から長剣を外し、店内をさり気なく見渡す、鋭い金褐色の瞳。

 少し癖のある黒髪に黒い軍服。

 何気なく立っているようで、全く隙のない長身。


『これが「国境警備隊の『魔法いらず』、魔法がいらない程強いと噂の――アシュトン・リード大尉か。

 下手に避けるより、お近づきになった方が得策だな』

 頭の中ですばやく値踏みを終え、スタンリーはにっこり笑いかけた。


「隊長様ですか? 

 店主のスタンリーと申します、どうぞお見知りおきください。

 えっと、5名様ですね? 

 少し手狭で申し訳ないですが、すぐカウンターに席をご用意しますので」

 流れるように伝えてから小窓越しに、奥のキッチンに向かって叫んだ。

「おーい! 椅子をもう1脚、持って来てくれ!」


「はーい!」

 答えて現れたのは、編み込んだハチミツ色の金髪を、黒いリボンで一つにまとめ、黒いドレスに真っ白なエプロン。

 ティールームの制服のまま、両手で木の椅子を抱えたロージーだった。



「お嬢様――ごほん、『ロージー』! 夜はこちらに来たらダメだと言ったろ!?」

 動揺を隠せない店主の言葉に、

「ごめんなさい、『叔父さん』! ルイーズ叔母さんもメイジー姉さんも、今手が離せなくて」

 首をすくめて謝ってから、

「いらっしゃいませ! こちらにどうぞ」

 にっこり……軍人達に笑顔を見せる、幻の看板娘。


『可愛い!』

『可愛い――!』

『付き合いたい!』

 ぽわーっと見とれる、一同をかき分けて。


 ぐっと伸びた大きな右手がひょいっと、ほっそりとした両手から、重そうな椅子を取り上げた。

「あっ――!」

 驚いて見上げたロージーの若草色の瞳が、ランプの光を受けて、黄金色に輝く瞳と出会う。


 丁寧にカウンターの前に置かれた、椅子を目で追いながら。

「ありがとうございます!」

「いや……」

 お礼を言うと気まずそうに、首の後ろに右手を当てて視線を逸らす、背の高い軍人。


 その仕草が、

『照れた時の、ディビーそっくり!』

 思わず、くすりと笑った時。



 いきなりぐいっと、後ろから右腕が掴まれ、乱暴に引っぱられた。

「痛っ! 何するんです!?」

 転びそうになったのを、ぐっと踏みとどまって。

 ロージーがきっと顔を上げると、


「そいつらばっかり、相手にしてないで――俺たちの席にも来いよ!」

 テーブル席を全部占拠していた、商人達――『よそ者』の一人が、ロージーの腕を掴んだまま、にやにやと笑っている。


「ちょっと、お客さん……!」

 慌てて店主が、カウンターの奥から飛び出し、

「離しなさいっ――!」

 ロージーが叫んだ瞬間。



 がっ……!


 とんっと軽くアシュトンが突いた、(さや)に入ったままの長剣。

 ロージーの腕を掴んでいた商人の鳩尾(みぞおち)を、鞘の先がぐりっと、的確にえぐった。


「ぐえっ……!」

 呻き声を上げてゆっくり、床へと転がり落ちる酔っぱらい。

「あっ!」

 引きずられて、ロージーも倒れそうになる。


 その時大きな右手に、ぐいっと引き上げられ、

 ふわりと抱き留められた。



 黒い軍服の胸元に、とんっと頬が当たる。

 そっと肩と背中を押さえる、大きな手の温もり。

『えっ……わたし今、抱きしめられてる?』

 元婚約者にだって、手を握られたこともないのに――!?


 ぶわっと熱が集まって、みるみる赤く染まるロージーの頬。

 見下ろす金色の瞳が細められ、柔らかな光を帯びる。

「カウンターの奥で、待っててくれ」

 耳元で(ささや)く声。

 と温もりが消え、心配顔の店主に向けて、とんっと優しく背中を押された。



 床に転がりげほげほと、苦しそうに咳き込む、先程の酔っぱらい。

「げほっ――やりやがったなっ!」

「こいつ、軍人だからって容赦しねぇぞ!」

 隊商の用心棒らしい、一際(ひときわ)ゴツイ男が椅子を蹴り、筋肉で盛り上がった右腕をひゅっと、顔目がけて打ち込んで来る。


 ひょいと屈んで避けたアシュトンが、反動に乗って肩を回し、相手の脇腹に右の拳を叩き込んだ。

「ぐぉっつ……!」

「ぎゃっ!」

「痛ぇっ!」

 後方にぶっ飛んだ男が、仲間を道ずれに床に転がる。


「何だなんだ! 喧嘩売ってんのか!?」

「売られた物は買うのが、俺らの商売だぞ!」

 残りのおよそ20人。

 酔っぱらい連中が、次々と席を立つ。


「お嬢――ロージー! 怪我はないですか!? いや、ないかい?」

 あわあわと敬語を混ぜながら、『姪』に(たず)ねる『店主』の様子に。

 くいっと片眉を上げた隊長が、かたりとカウンターに剣を立てかける。



「すぐに片付ける……!」

 ざっ!と背後に、4人の部下を従えて。

 国境警備隊隊長、アシュトン・リード――通称『魔法いらず』は、右の拳を左掌に当てながら楽しそうに、口の端で笑ってみせた。


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