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魔法の言葉 ~灰かぶり令嬢の恋は、焼き立てスコーンとイチゴジャムから~  作者: 壱邑なお


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22/22

【番外編】バージンロードは誰と歩く?

 スペルバウンド王国の東の果て、国境の街エンドノート。

 旅人たちが西に東に行き交うその地で、『大伽藍(だいがらん)のバラ窓を一度くぐれば、孫の代まで精霊の加護が貰える』と、噂の大聖堂。

 500年以上も昔に、歴史書にはただ『建築家たち』と記された名も無き人々が、知恵と魔法を絞って作り上げた建築物だ。


 まず目を引くのは、白い石造りのドーム型の屋根の下。

 花弁状にはめ込まれた無数の色ガラスが、刻刻と色を変えて輝く、大きな『バラ窓』。

 朝の6時から24時まで1時間ごとに、1秒もたがえずに、時を知らせる鐘楼。

 マンドレイクやバロメッツなど、魔法植物に目を見張る薬草園など……訪れる人々を魅了して止まない。



 そのチャペルでは本日、1週間後に結婚式を控えたカップル――国境警備隊の隊長アシュトン・リード少佐とローズマリー・フローレス男爵令嬢――とその家族たちが、担当の神官から式の説明を受けていた。


 一歩足を踏み入れれば、花嫁と花婿の幸せを言祝(ことほ)ぐ様に、背の高いステンドグラスから妖精たちが飛び出し、柱や床を色鮮やかに染めながら、踊る様に迎えてくれる。

 その天界を思わせる厳かさ美しさに、どんな極悪人でも改心する……とウワサのチャペルには今、思い切り場違いな、言い争う声が響いていた。



「ですから、花嫁とバージンロードを歩くのは『父親』――すなわちこのわたし! それが世間一般の常識です!」

 ローズマリーことロージーの父、フローレス男爵が、きっぱりと胸を張る。

「確かに――しかし20年前、我が娘エリノアと歩く機会を奪ったのは、誰じゃったかな?」

 冷たい声で横やりを入れたのは、ロージーの祖父、コリンズ侯爵。

 うっと言葉に詰まった男爵は、家同士が決めた婚約者のいた侯爵令嬢と恋に落ち、(さら)う様に駆け落ちした張本人。


「あの時父上には、本当に申し訳ない事をしたと……」

 しょんぼりとうな垂れた娘婿に、

「だったら今度こそ、わしがロージーと歩く事に異論はあるまい!」

 にやりと笑い、勝利を掴みかけた侯爵。

 その時、


「お待ちください――例え数ヶ月とはいえ『叔父』として、いえ旦那様が行方不明だった2年間。お嬢様を慈しみお守りしたこのわたしにも、当然権利はあるかと?」

 しれっと言葉を挟んだのは、元男爵家執事、現『薔薇の名前』の店主、スタンリー。

「スタンリー……お前まで!?」

「おのれっ――!」


 ぐるぐると(うな)る三つ巴。

 それぞれが、一歩も引かぬ面構(つらがま)えだ。



「『花嫁とバージンロードを歩く権利』争奪戦? というか、『誰がロージーお嬢様の一番か?』に趣旨が変わってない?」

「まったく男共と来たら……!」

 元家政婦と料理人姉妹が、そろってため息を吐く。

 その横で、


「ロージーの一番? そんなのもう、決まってるよな?」

「アッシュったら、もぉ……いたずらっ子」

 にやりと指を絡ませ、繋いだ手を持ち上げて、目と目を合わせたまま――白い手の甲にちゅっとキスを落とす警備隊長に、男爵令嬢が頬を染めながら、くすりと笑った。



「えーっ、ごほんごほんっ!」

 隙あらば、くすくすいちゃいちゃ始める婚約者2人に。

 わざと大声で咳払いをしながら歩み寄る、アッシュの親友兼ロージーの従兄、エルム。

「どうしたの、エルム従兄(にい)様?」

「風邪か? 移ったら大変だ。それ以上ロージーに近寄るな!」

 きょとんと首を傾げたロージーを、さっと背に(かば)うアッシュ。

「ちょっとーっ! それが親友に言う言葉!? 酷いよね、ロージー?」

 えーん!と大げさに泣き真似したエルムの頭を、よしよしとロージーが撫でる。


 途端に無言でかちゃりと、刀の(つか)に手を置いたアッシュを見て、

「ちょ、ストーップ! いい考えが閃いたんだってば!」

 慌てるエルムの後ろから、ディビーが得意そうに叫んだ。

「あのね、今学校の休み時間に流行ってるんだよ、『継走(けいそう)』!」

「「継走?」」

 花嫁花婿の2人が、揃って首を傾げた。



 さて1週間後、式の当日。

 チャペルの入口から伸びる青い絨毯の、両サイドにずらりと並ぶ長椅子には、招待客がみっちり座っている。

 聖壇の前で待つ花婿――少し癖のある黒髪をぴしっと整え、金の肩章付きの白い軍服に白いマントを身に着けたアッシュに、会場のレディたちから熱い視線が飛ぶ。


「はぁ~っ、素敵ねぇアシュトン様!」

「今日は特に、王子様度マックス!」

「一度でいいから、あの金の瞳に見つめられたいーっ!」

 うっとりと呟く声は全く耳に入れず、花婿がじっと見つめる入口の扉が、ついに開いた。


 厳かなパイプオルガンに合わせて、チャペルに足を踏み入れた花嫁。

 ロージーの右手が添えられたのは祖父、コリンズ侯爵の左肘だった。



 わっと会場中が見守る中、ゆっくりと歩みを進める、祖父と孫娘。

 編んでまとめた金髪にベールを被った花嫁の、そこかしこに白い野薔薇を散りばめたウェディングドレス。

 その裾がロイヤルブルーの絨毯を滑ると、会場中からため息が漏れた。


 小声で花嫁が何事かを告げ、侯爵が目を潤ませたとき、

 右側の席の後ろから5列目、通路側の端に座っていた男性がすっと立ち上がった。

「あらっ! あちらはコリンズ中尉!」

「エルム様よね!?」

 むっとした顔の祖父から花嫁を受け取り、そのままエスコートして、歩みを進める。


「えっ、どうゆう事?」

「バージンロードで、相手が変わるなんて!」

「でも、凄くお似合い――あらっ!?」

「ちょっと! また、エスコート相手が変わるわよ!」


 何事かをずっと(ささや)いて、ベールの影で笑わせていた花嫁を、しぶしぶと従兄弟が譲った相手は、

「スタンリーだ!」

「『薔薇の名前』の店主だぞ!」

 いつものポーカーフェイスで、大事な『お嬢様』をエスコートしながら、右手をパチンと鳴らす元執事。

 途端にベールとウェディングドレスの裾に、真っ白な蝶と花びらが飛び交った。

「わぁっ――何て、幻想的!」

「うっとりしちゃう……!」


幻影(イルージョン)』で会場中の女子を虜にした元執事が、『お嬢様』を手渡し。

 最後に花嫁と腕を組み、待ちわびた花婿の元に導いたのは、

「ロージー、どうか幸せ、に。頼んだよ、アッシュ」

「お父様……!」

「お任せください!」

 感極まって声を詰まらせた、父親のフローレス男爵だった。



 式が始まった壇上をうっとりと見つめながら、元家政婦が満足そうに(ささや)く。

「お嬢様、まるで妖精のお姫様みたい――上手くいって良かったわ、『花嫁の継走(リレー)』!」

「席が20列あるから、4人で5列ずつ。3人だと割り切れないから、エルム様も入ったんだって」

 料理人が小声で返す。


「全部、ディビーのお手柄ね!」

「えらい偉い! 留守番してるキティにも、お土産買ってあげようね!」

「うんっ……!」

 元家政婦と料理人に褒められて、晴れ着姿のディビーは、えっへんと胸を張った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰と歩こう? 一人は絞りきれないなぁ。そうだあの方法で行こう! という発想が正にナイスだなと思いました✨ 誰もが幸せになれる、最高のひとときですね。ロージー末永くお幸せに❣️
[良い点] 自信のスタイルをこれだけコンパクトなお話に落とし込みとは、さすがです!! バージンロードは誰と歩く?というタイトルから、可愛いドタバタが始まるだろう、と想像させられました!
[一言] 花嫁リレー、なるほどその手があったか……!! 目に浮かぶような素敵な式の描写がお見事でした! ロージー、お幸せにー!(*≧∀≦*)
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