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魔法の言葉 ~灰かぶり令嬢の恋は、焼き立てスコーンとイチゴジャムから~  作者: 壱邑なお


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19/22

魔法の靴

『ざまぁ 』にも加筆しました。

よりスッキリして頂けたら、嬉しいです♪

 あの事件から1ヶ月後の夜。

 首都ワードロウの中心にそびえる女王が住まう宮殿で、舞踏会が盛大に開かれていた。



 国中の主要貴族が(つど)う、大広間。

 その壁いっぱいに広がるのは、まるで巨大なスクリーンに映し出された幻灯。

 本物そっくりの夜空を軽やかに駆ける、銀と白、二頭の狼の姿。

「……こうして、再び出会えた狼の王と女王は、空を駆け昇り、星になったのでございます。

 今宵も夜空を見上げれば、星座の中に。

 仲睦まじい姿が、ご覧になれることでしょう……」


 あの夜の顛末(てんまつ)を魔法で再現し、語り終えた元執事が、パチンと指を鳴らす。

幻影(イル―ジョン)、解除」

 途端に星空は消え、いくつものシャンデリアが、広間を明るく照らし出した。



「見事でした、ミスター・クリフォード……!」

 女王が玉座から立ちあがり、拍手と称賛を贈る。


「こんな大がかりな『幻影』を見たのは、初めてです!」

「女王陛下、光栄にございます」

 右手を胸に当てお辞儀をする元執事に、周りの王族や貴族達からも、おしみない拍手が贈られた。


「ステキだったわ、スタンリー!」

「あの夜を、見事に再現してたな……!」

 笑顔でかけよるのは、ロージーとアッシュ。

 その二人を

「おや、今宵の主役たちが……」

 女王が手招きした。



 正装用の金の肩章の付いた、黒い軍服を着たアシュトン・リードと、

 金の縁取りや刺繍で飾られた、真っ白なドレスをふわりと身にまとい、綺麗に結い上げたハチミツ色の髪には、真珠の髪飾りと白い野薔薇を付けたローズマリー・フローレス。

 二人並んで、アシュトンは騎士の礼、ローズマリーはカーテシーを美しく披露する。


「二人共、ひとつ間違えれば大惨事になった事態を、よくぞ収めてくれました」

「もったいないお言葉……」

「光栄に存じます」

 頭を下げた二人を満足気に見下ろして、女王は宣言する。


「この度の働きに対して、リード大尉に十字勲章と少佐への昇格を。

 フローレス男爵令嬢に、『魔法の靴』を授けます……!」



『魔法の靴』、それは王室メンバーと、ごく限られた人物にしか与えられない特権。

 王室御用達の靴職人が、その卓越した技術と魔法で作り上げた靴は、どんな足にもピッタリ寄り添って。

 デザインや色も、持ち主のイメージ通りに変えられる。

 いくら走っても踊っても、疲れる事の無い夢の靴。


 再び頭を下げた二人に、にっこり笑顔を返して。

 さっと楽団に合図を送る、女王陛下。

「今宵は、二人の婚約を祝う会。さぁ、ファーストダンスを……!」



 ロージーをエスコートして、国中外の貴族たちが見守る輪の中心に、足早に進むアッシュ。

 右手でロージーの左手を取り、もう片手は腰に添えて。

 一呼吸置いてから、音楽に合わせて軽やかに、ステップを踏み出した。


「警備隊長が、ダンスもお上手なんて――知りませんでしたわ」

 悪戯っぽい笑顔で、見上げるロージー。

「紳士の(たしな)みですよ、レディ。男爵令嬢こそ、こんなに軽やかに踊れるなんて、知らなかったぞ」

 からかう様にアッシュが返す。


「『魔法の靴』のおかげです……!」

 くるりとターンすると、花びらのように広がるドレスの裾から、

 まるでガラスのように七色に輝く、ダンスシューズが現れた。


「実はエルムに、特訓してもらった」

 こっそり警備隊長が告白すると、

「わたしもおじい様に、先生を付けて頂きました」

 にっこり告げる男爵令嬢。

 その左手薬指には、大きなエメラルドの指輪が輝いていた。



 曲が終わり盛大な拍手を受けてから、次々とロージーが誘われる『次のダンスのお相手』を、

「あいにく全部、俺が予約済みですので!」

 ときっぱり断ってから、飲み物を取りに行ったアッシュを、柱の陰で待っていると。


「ローズマリー! 会いたかった……!」

 見知らぬ男性が、いきなり親し気に声をかけて来た。



「失礼ですが――どなたでしょうか?」

 首を傾げて問いかけると、

「僕だよ、ほらアンソニー! 君の『婚約者』の……!」

 その男性は、のっぺりした特徴の無い顔に、へらりと笑顔を浮かべた。


「アンソニー……あぁ、ランドルフ男爵家の?」

 しばらく考えてから、やっと思い出したのは、2年前に『婚約破棄』された相手。

「そうだよ……! やっぱり僕のことをずっと、思っててくれたんだね!?」

 へらへら笑いながら伸ばした両手で、無理やり右手を握って来る。


「……手をお放しください。わたくし達の婚約は二年も前に、そちらから破棄されております」

 怒りを抑えて、あえて事務的に伝えるも、

「だからあれは、父様が勝手にした事なんだよ!」

 右手をぐいぐい引かれて、

「ねぇねぇ、庭園の温室に行こうよ? 今なら誰もいないし!」

 にやけ顔で誘って来る。


 ぶちっと我慢のリミッターが外れて、

「行く訳ないでしょっ……!」

 思い切り手を振り払って、叫んだと同時に


「行く訳ないだろっ……!」

 さっと間に入ったアッシュが、両手に持ったフルートグラスからシャンパンを次々と、元婚約者の頭にぶちまけた。



「うわっ……何だよお前! 失礼なヤツだなっ!?」

 びしょ濡れになった顔を拭いながら、ぎゃんぎゃん叫ぶアンソニーの前で、


「お前こそ失礼だ! 俺はアシュトン・リード少佐。

 レディ・ローズマリーの婚約者だ」

 ロージーの左手を(うやうや)しく取り、薬指の指輪を見せつける様にキスを落とす。



「えっ? リードって、『魔法いらず』の……?」

「あらっ、情報が遅いわね? 近頃は『最強魔法持ち』ってウワサなのに! 今ではどんな形の物も、一瞬でボンッて飛ばせるのよ!」

 あきれた声を上げたロージーに続いて、


「例えばその、四角い床でもいけるぞ?」

 寄木細工の様に組み合わされた、アンソニーの足元に向かって、アッシュがパチンと指を鳴らす。

 途端に一枚だけ、ぐらりと揺れ始める大理石。


「ひっ――やめてください! ごめんなさいっ!」

 真っ青な顔で頭を抱えて、しゃがみ込んだ元婚約者に。

「二度と彼女に近付くな……!」

 黒い軍服に授かったばかりの勲章を光らせて、現婚約者はびしりと言い放った。


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