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魔法の言葉 ~灰かぶり令嬢の恋は、焼き立てスコーンとイチゴジャムから~  作者: 壱邑なお


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14/22

デートの最後に

 中州から橋を渡り、ワードロウに戻る。

 日が西に傾き、薔薇色に染まり始めた空に、聖堂の鐘が5回鳴る音が響いた。

『そろそろ、楽しかったデートもおしまい』


 せめて――もう少しだけ、一緒にいたい。


 祈るように(うつむ)いた、元男爵令嬢の耳に、

「ロージー……もう少しだけ、付き合ってくれるか?」

 国境警備隊長の、少し緊張した声が届いた。



「はいっ!」

 大きく(うなず)いたロージーがエスコートされたのは、橋の下に広がる河原。

 川沿いに敷かれた砂利の中に、丸い石畳が3個並んで埋まっている。

「アッシュ様、これは……?」

「危ないから少し――そこの橋桁まで、離れてくれるか?」


 言われた通りに15メートル程後退してから、

「離れましたー!」

 両手を大きく振って合図を送る。


 振り向いたアッシュが少し笑って、

「見ててくれ……!」

 声を張って告げてから、石畳に向き直った。



 大きな左手を伸ばし、中央の石に向ける。

 眉根を寄せて意識を集中。

 右手をパチンと鳴らし、呪文を唱えた。

「テイク・ザ・リィード!」


 魔法の言葉を放った途端、左手の先の石畳が、ぐらぐらっと何度か揺れる。

 と、ボンッ……!

 直径20cm、高さ10㎝ほどの円柱型の石が、地面から押し出されるように、勢いよく飛び出した。


「きゃっ……!」

 思わず叫んだ口を、両手で押さえたロージーの目の前で、

 アッシュがさっと、後ろに飛びのく。

 そこに重さが10㎏近くありそうな、石の『(ふた)』がドスンッ!

 砂利を跳ね飛ばし、何度かバウンドしながら、転がって――止まった。


 振り向いたアッシュが急いで駆け寄り、両手でロージーの肩を掴む。

「ロージー、大丈夫か? 跳ねた小石でケガとかしてないかっ!?」

 真剣な顔で問いかけてくる、警備隊長。


「アッシュ様……」

「ん?」

「すごい……すごいです!」

 元男爵令嬢が思わず伸ばした両手で、屈んだ首元にぎゅっと抱きついた。



 地面の蓋ごと、今までの不名誉なウワサを、うっぷんを――見事に跳ね飛ばした英雄(ヒーロー)

「もうだれも、『魔法いらず』なんて呼びませんっ……!」

「ありがとう。ロージーが、ヒントをくれたおかげだ」

 力強い腕に優しく、抱き締め返される。


「ここで毎日こっそり、エルムと練習してたんだ。

 実戦で使えるレベルになるまで。

 成功したらきみに会える……そう自分に言い聞かせて」

「わたしに……?」

「うん」



 そっと腕をほどいたアッシュが、白いドレス姿のロージーの前に片膝を付いた。

「あっ、アッシュ様……いけません! わたしはただの、ティールームの給仕ですっ!」

 慌てて止めようとしたロージーに、

「きみが給仕だろうと、メイドだろうと、そんな事は関係ないっ……!」

 きっぱりと言い切る。


 右手で、レースの手袋に包まれた、左手を掴み。

 呆然としている顔を、熱を帯びた瞳で見上げて。

「ロージー・クリフォード……わたし、アシュトン・リードと」

 プロポーズの言葉を、口にしかけた時、



 ウーーーーッ! ウーーーーッ!!

 不吉なサイレンの音が、二人の頭上に響き渡った。



「アッシュ様――今のは!?」

「非常事態の合図だ!」

 素早く立ち上がった隊長が、厳しい顔で周囲を警戒していると、

「アッシュ……! やっぱりここか⁉」

 白馬に乗ったエルム・コリンズ中尉が、橋の上から叫ぶのが見えた。



「エルム、何が起きた!?」

 馬から降り、河原に駆け下りた友人に、アッシュが(たず)ねる。

「『危険動物』の脱走」

「何だと――?」


「マルト経由で『ヤバい品』を密輸しようとした、フランク王国の『自称商人』が、税関に引っ掛かって。

『ただの石像だ』って言い訳してる内に、その像がなぜか動き出し、鋭い爪と牙で木箱を破って逃げ出した――って聞いたけど?」


 何とも不可思議な事態に、眉根を寄せて。

「とりあえず……逃げた動物って、クマか? ヒョウか?」

 前髪をくしゃりとかき上げて、警備隊長が問いかける。



「クマでも、ヒョウでもないよ……『オオカミ』!」


「「オオカミ……!?」」

 エルムの答えに、アッシュとロージーは、声を揃えて叫んだ。


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