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魔法の言葉 ~灰かぶり令嬢の恋は、焼き立てスコーンとイチゴジャムから~  作者: 壱邑なお


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13/22

最初で最後の

 生まれて初めての、大好きな人とのデート。

 でも、わたし達は身分違い。

 これが最初で最後だって……分かってた。



 アッシュのお話に出て来た大聖堂や、大きな書店や雑貨店、街をあちこち案内してもらい、それから素敵なレストランに。

「リード様、ご予約ありがとうございます。お席はこちらにご用意致しました」

 案内されたテーブルは、個室のテラス席。

 明るい光が降り注ぐ、花々が咲き誇る庭園や、小鳥の可愛いさえずりも楽しめる。


 ランチのコースは……

 あっさりしながら深みのある、豆と野菜のスープ。

 魚介のムース等、それぞれ食材と食感の違う三種の前菜。

 メインの肉料理は、野菜やキノコを添えた鴨のコンフィ。

 噛むほどに皮の香ばしさとジューシーな味わいが、じゅわりと口の中に広がる。

 デザートはアイスを乗せた、サクランボのクラフティ。


「どれも見た目もキレイで、とっても美味しかったです!」

「そうか? 口に合って良かった」

 コーヒーカップを片手に、ホッとした顔を見せるアッシュに

「こちらのお店は、よく来られるんですか?」

 ロージーはつい、探るように聞いてしまう。

 お料理も店内も、いかにも女性が喜びそうな、『デート向けのお店』だったから。


「いや、初めて来た。ここはエルムに、教えてもらったんだ」

「そう、なんですね?」

「デザートはいつものスコーンの方が、食べ(ごた)えがあって俺は好きだな?」

 正直な返答に、元男爵令嬢の口元が、ふわりとほころんだ。



「スコーンといえば――これから案内する神殿には、『狼の伝説』があるんだ」

 カップを置いて、ふとアッシュが告げる。

「『狼の伝説』ですか? どのような?」

 首を傾げたロージーの前に、テーブルにあった一対の、チェスの駒に似た容器をことりと置く。

 塩と胡椒の入った二つの陶器の前で、警備隊長は語り始めた。



「いつの頃からか国境の神殿に、『王と王妃』、一対の狼の像が(まつ)られていた。

 両国の民が大切に敬ったおかげで、災害や飢饉とも無縁な、平和な日々を過ごしていたらしい。

 ところがある日、片方の――王の像が、何者かに盗まれて行方知れずに」


 そこで少し大きな塩入れを、アッシュが左手の中に隠す。

 残った胡椒入れを、右手でくるりと回しながら


「それから満月の夜には、残された女王像が王を求めて呼ぶ、悲しそうな遠吠えが聴こえるらしい」

「まぁっ……王様の像はそれから、見つかってないのですか?」

「残念だが」


「女王は、ずっとおひとりで……さぞ寂しいことでしょうね?」

 ぽつんと置かれた胡椒入れに、両親を亡くした頃の自分を重ねて――元男爵令嬢は、しんみりと(つぶや)いた。



 ランチの後に、ロージーが連れて行かれたのは、

「あれが、さっき話した『神殿』だ」

 国境のレト川の中州に建つ、石で出来た古い建物。


「中州にあるなんて、珍しいですね?」

「だろ? 昔はマルト王国側からも橋が掛かって、行き来が出来たらしい」

 補強された細い橋が、今はこちら側からだけ、神殿に向かって伸びている。


「あれが伝説の舞台……!」

「行ってみよう」

 アッシュにエスコートされて、わくわくと石橋を渡り、神殿の敷地内に。

 朽ちかけた石造りの柱や、彫像が並ぶ奥手に、白い石を重ねて出来た小さな建物が。


「あちらの本殿の中に、今も『女王の像』が?」

 厳かな空気を感じて、そっと小声で(たず)ねるロージーに

「うん……おそらく」

 珍しく口ごもりながら、アッシュは答えた。


「『おそらく』って――中をご覧になった事は?」

「実は無いんだ。扉に鍵が掛かっていて、誰も中に入れない。

 数年前にも学者達が調べに来たけど、鍵を開ける事すら出来ずに、すごすごと帰って行った」

「まぁっ……」

 説明を聞いて興味津々のロージーが、本殿の円形の扉に近づく。


「丸い扉なんて初めて見たわ……丸い取っ手が二つ。周りに刻まれた、これは数字ね?」

 楽しそうに扉を観察する、その横顔に見惚れながら、アッシュが(たず)ねる。

「面白い?」

「はい、とっても! どうやったら扉が開くのか、中にはどんな『女王像』が置かれているのか……考えると、わくわくします!」



 そっと伸ばしたロージーの指先が、扉の取っ手に触れた瞬間

「ウゥーーッ、ガウッ……!!」

 いきなり響いた(うな)り声。

「きゃっ……!」

 思わず小さな悲鳴をあげて、急いで手を引き戻す。


 その時

「ぷくくっ……」

 手首で口を押さえたアッシュが、笑い声をもらした。



「あっ、アッシュさま!? ひどいっ! ものすごーく、びっくりしたんですよ!?」

 頬を染めて、ぷんぷん抗議する元男爵令嬢に

「ごめんごめん!」

 目を細めた警備隊長は、それは楽しそうに謝罪した。


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