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プロローグ 星の墜ちる夜

 


 月のない世界、星は今にもこぼれ落ちそう。


 静かな住宅街、キラキラと目を輝かせて夜空を見上げる少女がひとり。『始まり』を、今か今かと待ち望んでいる。


「エマ、どうしたの?ごはん出来たわよ?」


 母親がエマの肩を両手で優しく包む。しかしエマは気づかないまま、遠くの星々をじっと見つめている。

 困ったとこばかりパパに似ていくなぁ、と苦笑いする母親。子供のうちは微笑ましいけれど、大きくなってからが心配だ。


「あっ、きた!ママ、ながれぼし!!」


 とつぜん目を大きく見開いたエマが母親の袖を握って大はしゃぎ。物音一つしないリエイス通りにエマの声が良く響く。

 娘の指差す方に視線を移すと、普段は微動だにしない星々が無数の線となって夜空を支配していた。


 今晩は一年に一度の『星の墜ちる夜』。新年の前夜にだけ訪れる流星群はこの国の人達だけでなく、他の国の人達も楽しみにしている一大イベントだ。


(もう、一年経ったんだ……)


 しかし、母親は今晩が『星の墜ちる夜』であるということをすっかり忘れていた。

 それも無理のない話である。

 本来なら『星の墜ちる夜』は新年の始まり、この世界に三十一もの神々が降臨した日を讃え祝う夜。


───こんなにも街が閑散としている筈がないのだ。


「せんそーがおわりますよーに!せんそがおわりますよに!せんそがおわりまよに!」


 エマの願いにこたえたかのようにキラッと光って一筋の流星が消える。一体この街の幾人が同じ願いを星に託したのだろうか。

 エマは満足げに笑い、母の方に顔を向ける。


 でも大人は知っていた、戦争は終わらない。神が望んだ戦争は神が望まぬ限り終わらない。こんな幼い子ですら、平和を願っているというのに。

 可哀想というより、娘に申し訳なかった。自分がどうにか出来る問題ではないけれど、ただただ悔しかった。

 母親は堪えきれず娘を思いっきり抱きしめる。

 娘は一瞬驚いて目を丸くするも、幸せそうに母に抱きつく。


「ママもおねがいごとしよ!いっぱいかなえられるよ!」

「ふふっ、そうね。いっぱいお願い叶えてもらわなきゃね」


 『星の墜ちる夜』の願いごとは一年につき一人一つしか叶わないとされているのだが、今の母親にとってそのような慣習はどうでもよかった。


 目を瞑って手を合わせた母を見て、エマは自分も負けじとまた夜空を見上げる。

 数多ある流星の中から一際大きく輝いた星を選び、手を合わせぎゅっと目を瞑る。


「パパとにーにがかえってきますよーに!パパとににがかえってきますよに!パパににかえっきまよに!」


 言い終わった瞬間パッと目を開く。いまだあの流星は夜空で一番輝いていた。

 成功だ。嬉しくて、嬉しくて母親の袖を引っ張ろうとする。

 だけど、彼女の小さな手は母親の方に伸びなかった。エマは自らの願いを託した流れ星が一向に消えようとしないことに興味津々だったのだ。



 その流れ星は消えるどころか、輝きと勢いは増すばかりで。

 あれ、おかしいな?と思って。


 それでおしまい。

















◆◇◆



 ゼルミア神王国の首都フーノスネートがゼルミアス城を残して壊滅した。

 この知らせは証拠の絵と共に四つの大陸全土に伝えられ、人々は恐怖し、神々も疑った。


 ただ、首都が壊滅したという知らせより、首都を壊滅させるほどの巨大な飛来物の存在にみな困惑した。


 なぜなら、この世界に三十一の神々と聖霊達が降臨してから───この世界が始まりを迎えてから、外界からの飛来物など一度もなかったのだ。空から何か降ってくるといえば、せいぜい雨や雪、雷などの気候現象によるもので、城より巨大な物体が空から降ってくることなどこの世界の常識では到底ありえない事態だったのだ。


 だから、絶対の支配者たる神々も、世界樹に住まう聖霊も、力無き人間でさえ予感した。



 世界の変革を、新たな神の到来を。


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