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暗殺者?いいえ、ストーカーです。  作者: カナリーヒース
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素直じゃない冒険者

本編の始まりです。

——東の王国・ヒノイヅル。

南北に伸びた地形に、温暖な気候。外界との交流が永らく絶たれた故に、特殊な文化を築き上げたその島国に、ある冒険者がいた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


受付に立っていた年配の女性が、冒険者へ声をかける。

一瞥して壁の掲示板へ向かった冒険者は、一枚の紙を剥がした。そうして、改めて受付へと向かった。


「こちらでは初めて依頼を受ける。やり方は他と変わらないか?」

「他、っていうのがこの国のギルドなら同じだね。ああ、あたしゃボタンっていうんだ。よろしく頼むよ」

「メルクだ」

「へぇ、西の人かい。珍しいねぇ」

「そうでもない。こちらにきてから何人も見た」


受付の女性——ボタンはそういうと軽く身を乗り出すようにして冒険者——メルクの顔を見た。

西の人というのは、西大陸にある帝国出身のサンセティア人全体の俗称だ。もっとも、西大陸は広いのでもっと細かく部族が分かれていたりするのだが。東の人間にとって、そんなものは些細な事だった。

そういった視線には慣れているのか、メルクはいっさい動じずに話を続ける。


「それよりも依頼の話だ。これを受ける」

「はいよ。冒険者証票はもってるかい?」

「ああ、ほら」


冒険者ギルドの受付に、小さなカードを差し出すメルク。冒険者証票と呼ばれているそれには、登録された名前や、冒険者としての格が記されていた。

これを提示することで、ギルドに寄せられた依頼を受けることができる。報酬のニ割がギルドの取り分にはなるが、新人冒険者が個人で仕事を取る難しさを考えれば、妥当なものだろう。


ボタンは目を細めながら受け取った証票を確認する。


「どれどれ……メルクリオ・ウェスト。ああ!タンバのじっちゃんを連れてきてくれた子かい!みんな喜んでたよ、ありがとうねぇ」

「別に、いつまでも道で座り込んでたら邪魔になるだろう」


そういってメルク——メルクリオ・ウェストは顔を背けた。この状況でのそれは、照れ隠しに聞こえるだろう。感謝されることには慣れていないようだ。


「あはは、素直じゃないねぇ。早く医者に見せろ、って血相変えて飛び込んできたそうじゃあないか」

「そ、それは流石に盛りすぎだ」

「なんにせよ、じっちゃんはあれからすぐ医者にかかって、今はもうすっかり元気だよ」

「……そうか」


受付の女性の言葉に、メルクは顔を綻ばせた。ほんの一瞬のことだったが、それを見逃さなかった女性が言う。


「嬉しいなら嬉しいと言葉にすりゃあいいのに、難儀な性格してるねぇアンタも」

「う、うるさいな!それより依頼だ、依頼!」


誤魔化すように声を荒げたメルクを笑い、ボタンはカウンターに置かれた依頼書に目を通す。


「はいはい。……んん?こいつは水辺の魔物だが……アンタその髪色、火属性だろう?大丈夫なのかい?」


すぐに怪訝そうに声を上げてその姿を再び確認したボタン。

彼の持つ赤毛混じりの茶髪は、発現した魔力が火の力を有していることを示していた。水なら青、土なら黄。そのように、属性によって髪に色が混じるのだ。

属性には相性があり、火属性から水属性への攻撃は、その威力が激減する上に受けるダメージが倍増してしまう。それを心配しているようだった。


「別に、攻撃を受けなきゃいいだけだ」

「攻撃も通りにくいだろうって。もっと楽な依頼もあったと思うけどねぇ」

「選り好みはしない。それに……」

「それに?」

「……いや、なんでもない。とにかく手続きを」

「うーん。赤銅色だから……アンタの階位なら問題ないね。けど、くれぐれも無理するんじゃないよ」


受諾印を依頼書に押し、その半券がメルクへと渡された。

半券には、依頼の内容と期限が記載されている。半券自体は失くしても証票から照会できるが、この期限が過ぎたら完了しても報酬は受け取れない。その確認のために必要なものだ。


そして、赤銅色は下から数えて二番目。駆け出しから一歩踏み出した冒険者がよく受ける依頼である。

内容をもう一度確認して、なくさない様にしっかりと道具袋の中に入れ込む。


「いってらっしゃい」


心配そうにしながらも、ボタンはメルクを送り出す言葉をかけた。

メルクは返事のかわりに、軽く手を挙げてその場を去る。


その後すぐに別の冒険者たちがやってきて、掲示板を見ながら話し始めた。


「あれ?あの依頼、持ってった奴がいたんだね」

「あの依頼?」

「ずっとそこにあったろう?報酬が安すぎて誰も受けなかったやつ」

「あぁ、あれか。物好きな奴もいたもんだなぁ」


その声は受付にいたボタンの耳にもしっかりと届いていた。

冒険者たちが白銀色——真ん中ランクの依頼を受けて去って行った後、手元に残された赤銅色の用紙を手にする。


「フロックフロッグの討伐、銀貨一枚——まったく、本当に素直じゃない坊ちゃんだこと」


あの時言いかけた言葉の続きを察して、ボタンは小さく笑みをこぼし、赤銅色の用紙をカウンターの引き出しへ仕舞い込んだ。

これはツンデレってやつなんでしょうか。

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