041 魔王様のorzの時間①
一頻りのヒーロー活動を終えた俺達は孤児院へ戻ってきていた。
自分でもびっくりするくらい活躍できたと思っている。
帝国中で魔将軍ディマスの噂は流れており、世間の子供達からも正義の象徴として賞賛されているのだ。
俺は良かった。俺は良かったんだけど……。
マリヴェラが頭を抱えて食堂のテーブルで座っている。
この間の廃工場での戦闘シーンが動画データして残っており、表示させてみんなで楽しんでいた。
「その憤りの炎は飲み込んでこそ男を上げるのですよ」
「あらあら、慌てていますわね。常に冷静でいないと足元をすくわれますよ」
「おやおや、随分じゃじゃ馬ですわね。機械にもダンスは踊れるのかしら」
「お可愛いこと。少し遊んであげましょうか」
マリヴェラの親友であり、孤児院出身の女性リーシュが先の戦いでのマリヴェラの言動をまねて高らかに叫んでいた。
さすが親友。容赦がない。
「リーシュ姉さん、あまりにママをいじめては可哀そうですよ」
「フィロォ~」
優しくしてくれるフィロの胸にマリヴェラは甘える。
「【茨姫】とか【双刃乱舞】とか言ってましたけどあんな技はどこで覚えたんです」
「自作です……」
「ブフッ!」
「笑わないでよお!」
いつもにこにこして大きく表情を変えないフィロが顔を押さえて震えている。
「ねぇロード……。私、私……」
「【鳳凰旋衝】、【崋山掌底破】とかもうちょっと何とかならなかったのか」
「うぐっ!」
俺も子供の時はそういうオリジナル技に憧れたことはある。
けど……アラサーの歳でそれは痛いだろ。
「しょ……正直奥義【魔衝迅雷槍】って何に対しての奥義だったんですか?」
「必殺技っぽいから奥義って言ったんですぅ! 悪いんですかぁ!」
「お、怒らないくださいよ!」
マリヴェラがふてくされてしまった。
「マリヴェラだって成人してからずっとあんた達を育ててたんだし、今タガが外れるのは仕方ないんじゃないかしら」
「そうだな……後ろで笑いをこらえるのが大変だったけど」
「ロード! もう!」
フィロがママホを取り出して、フリックする。
『愛の名のもとに、生命の産声が望むは騒乱の調べ、刹那の刻は魔への邂逅、我が求めるともしびの奇跡は刹那の心理』
「ちょ、おま! やめなさい」
「ヒュドラ戦の時のセリフだったな。あまりの意味不明さに俺は自分の耳を疑ったぞ」
「テンション上がっちゃって何を喋ったのかよく覚えてないの」
「フィロも戦う時はやっぱこーいう口上言うの?」
リーシュの問いかけにフィロは頭を横に振ります。
「言うわけないじゃないですか。喋りながら戦ってたら舌噛みますよ」
『壮言なる魂は刹那の刃にて断つ、これで終わりです!』
俺とリーシュ、フィロはマリヴェラの方を向く
「「「刹那って言葉3回使ってるけど好きなの(んですか)?」」」
「うっさい! 好きで悪かったわね!」
しまった。からかいすぎてしまったか。
「もう許してよ!!」
『慈悲が欲しかったですか? フフフ、輪廻の世界に祈ることね』
「うるさい! 黙ってろ!」
自分に言うなよ。
「ママ、お疲れ様」
みんなのママがいじくりまわされてる最中、食堂にテトラとペリルが入ってきた。
「テトラァ……。昨日の戦いのママってそんなに変だった?」
「うっ」
助けてほしいと思ったのかテトラにすがりつく。
ナビゲーションしてくれたテトラが目を逸らし続けた。
笑いこらえていたもんなぁ。
お、ちょうどいい時間にみんなのママホに着信が入った。
発信者はアルヴァンか。
「はい」
『ああ、ママ。僕だよ』
「ママではありませんよ、魔王と呼びなさい」
『ぶほっ!』
「それやめて!?」
リーシュの声マネにいつもはクールなアルヴァンも耐えきれなかった。
マリヴェラはうるうると涙目となる。
『冗談はそこまでだ。昨日の戦いでヒーロー活動として大きな収穫を得ることができた。今晩、第二計画ついてのミーティングを行いたい』
「そうだな。アルヴァンが孤児院に来たら始めるとしよう」
「ね、ねぇ」
マリヴェラは恐る恐るアルヴァンの声をかける。
「ね、ねぇアルヴァン……。昨日の私ってやっぱり変……だったかな」
普段はそこまでアルヴァンを頼らないマリヴェラが藁にも縋る気持ちで訴えている。
『みんなの言うとおり気分が上がっていたのだし、仕方ないと思う。ただ……ただ大好きなママに言うのは憚れるんだけど』
「え」
「【まるで桜花のようね】って言葉をあの戦いで4回くらい聞いたが、他に言うことないのだろうかと思うし、語彙力の無さを露呈するから控えた方がいいよ」
「いやあああああああ、殺してぇぇぇ! 昨日の私を殺してぇぇ」
とどめを刺してしまったようだ……。
 




