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014 SSR拾い

「痛い……痛いよ……エリオスさん、やめてください!」

「うるせぇんだよ、ロードォ!」


 10歳のおれをエリオスは血が出るまで殴りつけた。


 エリオス・カルバスは七英雄の中で最も弱い人間だった。

 勇者、聖女、覇王、大僧正……などが揃う中、エリオス・カルバスは特に称号もなく支援職(サポーター)に属していた。


「オラァ、オラッ!」

「ぐぅ……!」


 もしおれがいなかったらあの男が侮蔑の対象になっていたかもしれない。

 明らかに他6人に比べて能力が足りておらず、よくアレリウスから叱責をされていた。


 そしてそのストレスのはけ口にされていたのがおれだった。

 あの人の支援職の仕事に加え、マッピングや罠外しなどもエリオスの仕事だったが、めんどくさがっておれに押しつけてしまうこともただあった。

 素人の俺が教えてもらっていないため分からずにいるとそれを理由に激しく叱責され、痛めつけられた。

 あの男はただ自分より下のものに威張りたかっただけなんだ。


 そしてそんな奴が王になったら……その行く末は分かったものである。

 嫌いで嫌いでたまらないほどあのエリオスという男が嫌いであった。


「しっかり片付けておけよ! アレリウスさんが俺の信用を少しでも下げるようなことをしたらてめぇをぶち殺す! 分かったな!」

「は……はい」


「ボケが! てめぇみたいなガキを拾った恩に報いやがれ!」




 ◇◇◇


「がはっ!」


 夢か……。

 くそっ……よりによってあの男の夢を見ることになるなんて。


 くっ! 頬が焼けるように痛い。

 10歳の頃にアレリウスに傷つけられた古傷が痛みやがる。


 あの時の心の傷が思ったよりも根底にこびりついているようだ。

 もう24年も前の話なのに……俺は未だに忘れられない。


 昨日の魔王国騒動の後、マリヴェラが気を失ってしまったのでいったんお開きとなってしまった。

 正直混乱が解けないまま朝を迎えることになる。


「パパ、起きてる?」


 我が息子、アルヴァン・ハーヴァンが院長室に顔を出す。

 政治家として摂政に立場になったアルヴァンには何が見えているのか……。

 だが親としてそこから目を反らすわけにはいかない。


「エリオスの討伐はどんなスケジュールで考えているんだ?」


「今日の晩にカルバス王国に侵入するよ。それで明日の朝には王城に攻め入る」

「今日の晩!? 明日の朝!?」


 えらく早いな、おい。


「僕のスケジュールは分刻みなんだ」

「1国の王を仕留めるのに……大丈夫なのか?」

「大丈夫だからこのスケジュールなんだよ。そのためにフィロを連れてきたんだ。彼女は単独で国すら滅ぼせる」


 アルヴァンとフィロメーナ。

 この2人が揃えば本当に倒せるような気がする。

 だが子供の提案におんぶに抱っこじゃだめだ。


 俺とアルヴァンは孤児院の外へ出る。


「あ、パパ」


 外にはフィロが待っており、ささっと近づけてきた。

 ぐいっと体を押しつけるように顔を近づける。


「パパは私がお守りしますからね。パパに近づく不届きものは全部切り刻んでやりますから」


「そこまで気合いは入れなくていいぞ。でもありがとなフィロ」

「きゅん! やっぱりパパの低音の安らぎボイスはきゅんきゅん来ます。私の子を産んでもらわないといけませんね」


 朝っぱらから何を言ってるんだ……。


「『武道』スキルで48手も習得しましたし、パパをいつでも悦ばせてみせます! でも~、初めてですからぁ、優しくてしてもらえるとぉ」

「とりあえずな、落ち着こうな」

「ぶー! 他の子達が来る前にパパが私の純潔を奪ってくれないと困るんです!」


 他の子!? いや、まさかな……。

 確かにフィロを含む4人の我が子は皆、将来の夢を俺のお嫁さんと言っていった。

 それは自意識過剰すぎか……。俺なんてもう34のおっさんだ。たまたまフィロが年上好きだったけである。


「フィロ、もっと広い目で見た方がいい。10も超える年上じゃなくて、……そうだな。アルヴァンみたいに同年代とかさ」


 フィロがアルヴァンを見る。


「アルヴァンみたいって……この世で一番ありえないんですけど」

「それは僕も同感だ」


 どうにもウチの子達は自我が強くて、同年代同士ってのがない。

 俺が子供の時は孤児達同士の結婚って結構多かったんだけどな。

 この世代はアルヴァンだけが男の子だし、容姿成長率SSだからアルヴァンに集中すると思ったんだが……。


「そもそも下世話など興味がない。僕達にとって大事なことはいかに七英雄エリオスを討伐し、その先へ向かうかだ」


 根本的に真面目なんだよなぁ。4年で死に物狂いで政治家になって上を目指したと言っていたし、仕方ないとも言える。


「それに僕はそもそも才能で突き抜けた連中と違って、苦い思いのする毎日だ。足を引っ張る無能どもに囲まれて、フィロのようにただ戦えば賞賛されるのとはわけが違う」


「私だって……いろいろ我慢してるのですよ」

「フン、2年前にオーティレス迷宮で戦いが楽しく暴れ回って大損害を出した大馬鹿者がよく言えたものだ」

「うっ」


 フィロが縮こまる。


「僕が圧力をかけなければ君はギルドを追放されてもおかしくない状態だったんだぞ。魔王国が軌道に乗るまでは大人しくしていてくれ」


「ぐぬぬ」


 フィロはどうやらアルヴァンに大きな借りがあるようだ……。俺は知らなかったな。


「パパもパパだ。最高指揮官なのだからもっとしゃんと構えてもらわないと」

「そ、そうは言ってもだなぁ」

「フィロごときに心を乱されては先が思いやられる。やれやれ……やはり僕が何とかしないと。パパにはちゃんと指揮官としての心得を覚えてもらうよ」


 アルヴァンは出来る子なんだけど……どうにも上からな子に育ってしまったなぁ。

 政治家としての立場なら仕方ないと思う。


 けど……けどな。


「3人ともここにいたの」


「ママーッ!」


 マリヴェラがやってきて、顔を向く間もなくアルヴァンがマリヴェラの下へ行く。


「アルヴァンおはよう」

「おはよう、ママ! やはり朝起きにホンモノのママの顔を見れて僕の心は満たされていくようだ」


「ねぇ、ロード。さっきフィロから聞いたけど」

「政治家となった僕だけどいつもママのことを想い生きてきた。僕にとってはママは女神なんだ」


「とんでもないことになってるのは分かってるけど」

「ママの側にずっと僕がいるから、安心しておくれよ」


 マリヴェラの顔が無表情になる。


「アルヴァンうるさい、黙りなさい」

「はい! あぁ、ママに怒られるとぞくぞくする……」


「うわぁ……マザコン引く……」


 フィロがぞっとした顔をするが俺は何も言わない。君のファザコンっぷりも似たような物な気もするし……。


 これは昔からなので今更だがアルヴァンはマリヴェラに従順である。5歳の頃から女の好みはママ!って大声で言うくらいマザコンを拗らせている。

 生意気で優秀で最強の軍師なんだがマリヴェラが関わるとIQがぐぐっと下がるのが玉にキズだな。


「やっぱり行くのね、ロード」

「すまないマリヴェラ」


 こう告げるとマリヴェラは大きくため息をついた。


「危ないマネしないで……って言ったのにもう」

「だが!」

「分かってる! いえ……多分あなたと私にしか分からないことよ」


 マリヴェラはまっすぐ見る。


「相手が七英雄じゃなきゃ止めたわ。だから今回は止めない。ロードと私の24年前の借りを……返してきて。それであなたのしこりが少しでも無くなるなら!」


 マリヴェラなりにかなり悩んでたのかもしれない。

 そうだな。相手は因縁の七英雄の1人。

 そして数年前に俺達の子供を拐った根本原因だ。


「分かった、ありがとう」


「フィロ、アルヴァン。ロードをお願いね」


「分かったよ、ママ」

「いいのですが……パパはもしかしてそのなまくらロングソードでいくつもりですか」


 フィロは俺の腰に備えたロングソードを見て、言う。


「ダメだろうか?」

「武器はちゃんと力量にあった物を使わないとダメですよ。今のパパの力だとすぐにダメになります」


「じゃあフィロ、君の剣をパパに貸してやればいいのではないか? 君は徒手格闘でもやれるだろう」


「うーん、いいんですけど」


 フィロが腰に携えた剣を引き抜く。何か真ん中に目玉があってうねうね動いてるんですけど……。


「邪神剣『ウロボロス』 この剣、生気を吸い取るので……慣れてないとちょっと危ない剣なんですよ」


「なんつー剣持ってんだ!?」


「生気をエネルギー出力に変える剣ですからね。ちなみにパパの精気は私が吸いますから残しておいてくださいね!」


 後者には反応しないでおこう。


「街で適当な剣を買う時間はないか」


「あ、だったらさっき河川敷で拾った剣を使う?」


「なんだ、古びた剣でも拾ったのか」


 マリヴェラはよいしょっと拾った剣を俺に見せてきた。


 その剣は表面が赤く光り輝いており、魔法の源である精霊の力を強く宿していた。

 斬れ味も鋭く、鍛治師が何年もかけて作りあげた最高傑作のような一品だ。

 直感的に世に住むと言われている4つの大精霊の魂魄が込められていることが分かる。

 切れ味の良い、明らかな名剣だった。


「これ拾ったの……?」

「拾ったわ」


「これ多分100年前に帝国の宝物庫にあった盗まれて存在そのものが失ったと言われる精霊剣『スピランチェ』ですね」


 一流の冒険者であるフィロはしっかりと鑑定する。

 何でそんな伝説級の剣が河川敷に落ちてんだよ……。


 そうマリヴェラ・ハーヴァンにはもう一つユニークスキルがあった。

 それは【SSRスーパースペシャルレア拾い】である。

 このSSRが何を指すか未だよく分からない。

 分かることはただ1つ、マリヴェラは孤児院近郊の河川敷の下で、モノを拾うことが多い。


 それは千差万別なのだが……武器だったり、卵だったり、ヒトだったり。


 実は15歳で卒院した子供達はみんなそこで拾った子供達なのだ。

 マリヴェラはとんでもなくスペシャルに価値のあるモノをそこで拾うことができる。

 武器であれば伝説級のもの(大半売ったが)、卵であれば伝説級の種族だったりする。この前拾った卵を孵化させたら伝説級のドラゴンだった。


 そしてヒトは類い希な才能を持った子供をそこで拾うことができる。

 卒院した5人の子供達が全員何かしら成長率SSSを持っていたのはマリヴェラが【SSRスーパースペシャルレア拾い】の力で子供達を拾ったからに他ならない。


 それを俺が【しつけ】スキルで育てることで天才の素質を持つ子供が成長率極大で世に飛びだっていくのだ。

 次に卒院する子供達もマリヴェラが河川敷で拾って俺が育てた子供達だ。すでに天才の片鱗は見せている。


「アルヴァン……その元帝国のものらしいけど俺が使ってもいいのか?」


「いいよ。ガトラン帝国は僕のおもちゃだから。何でもできる」


 それもどうかと思う……。素質と成長率がSSS級のため国すらおもちゃにしてしまう大人に育ってしまった……。


 まぁいい。武器も運良く調達できた。

 七英雄の1人のエリオスの討伐作戦の開始だ。



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