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011 全ての始まりの日

「ママー! 誕生日おめでとう!」


「わーーい! ありがとう! 嬉しい!」


 マリヴェラは子供達から祝われて、嬉しさに表情を綻ばせる。

 ここ数日俺が主導となって、誕生日会を企画した。

 誕生日会はこの孤児院の中でも特別なイベントとして認知されている。


 絵を描いたり、歌をうたったり、物を作ったり、子供達の自主性を生かす形となっている。

 俺の誕生日を含め年2回催しが行われていた。

 5歳くらいの時は微笑ましい誕生日プレゼントなんだけど、15歳近くになると天才技能が足を引っ張ってとんでもない研究結果の発表が俺達の前で行われる。

 昨年の卒院生は戦闘用音速魔導飛行艇の設計図とか作って俺とマリヴェラにプレゼンしやがった。 誰がそこまでしろと言った。


 このあたりのお話はまた後日するとしよう。

 お誕生日会は朝で終了となる。


 俺とマリヴェラは2人で表に出ていた。


「ああ……ついに最後の20代を迎えてしまった」


 マリヴェラは頭を抱える。

 子供達の前では笑顔を絶やさないが……2人きりになるとどうしても地が出てくる。


「俺だってもう34のおっさんだぞ。でもまぁ見た目は20歳の頃から変わらないじゃないか」

「男はいいよね! まだ未婚でも仕事ってことで許される。けど女の未婚はほんと言われるのよ」


「魔族は若い時代が長いんだろ? 寿命も人族より少し長いって聞くし、エルフと同じで気楽に考えたらいいんじゃないか?」

「1000年以上生きるエルフと一緒にしないでよ! それに見た目は人族も魔族も変わらないんだから行き遅れなのは一緒!  


 それはこの世界の事情って所だな。

 20歳が結婚適齢期、29歳となったらもう子育てをしていて良い頃だ。

 魔物や国との戦争で人がよく死ぬ世界だ。子供を作って育てていくのは常識という概念がどうしても付きまとう。


 マリヴェラには絶対良い人が現れると思うんだが頑なに結婚しようとしない。


「マリヴェラ!」

「あ、リーシュ!」


 ボブカットで茶髪をまとめた女性がやってくる。


「ロードくんもこんにちは」

「ああ、いらっしゃい」


 彼女の名はリーシュ。旧名はリーシュ・ハーヴァン。

 この孤児院出身でマリヴェラと同い年の子である。

 俺とも5歳違いだったのでよく知っている。


「ほらっ、誕生日プレゼント」

「わぁ! ライスクック先生の新作小説じゃない!」


 プレゼントの有名作家の小説にマリヴェラは嬉しそうに眺めていた。

 この2人は昔から仲良しだった

 時々、孤児院にも遊びに来るので子供達からの信頼も厚い。


「あたし達も来年はもう30歳よ。早いわ」

「うん、本当そう思う」

「そのわりにはあんた若いわよね。20歳前半でも余裕で通用するわよ。魔族の血ってそうなの?」

「そんなことないと思うけど」

「ロードくんも25くらいから全然顔かわんないよね。元々大人っぽかったけど」


 俺とマリヴェラは若く見られがちだ。

 マリヴェラは若く見られた方がいいんだろうが、俺は正直年相応に見られたい。

 大人の社会は年功序列な所があるから……。髭でも伸ばすかな。



「それより早く結婚しなさいよ。同年代で結婚してないのあんただけよ」

「う、気にしてるんだから言わないで……」

「その顔と胸ならどんな男も引っかかるでしょうに」


 それは俺もよく思う。ひいき目で見てもマリヴェラは美しい。

 おまけにスタイルも良く、悪いと思いつつもつい目線が行きがちだ。

 世の中の男どもは見る目がないなと思ってしまう。


「まぁ24年も想いを寄せてるんだから今更か」

「もー、リーシュうるさい!」


「結婚したかったら、いい男探してみるか? 俺にもアテはある」

「うるさい鈍感」

「こりゃ一生無理かもね」


 な、なぜなんだ。

 俺はマリヴェラが結婚して父兄役として結婚式で一緒に歩きたいというのに。


 リーシュは家事があるからと帰っていった。あの子はあの子で家族がある。


「本当に良い友達だわ。魔族の私を変な目で見ないおかげで私も孤児院に馴染めたわけだし」


「そうだな。リーシュのような存在は大きいな」


「うん、15で孤児院で働く私をずっとフォローしてくれて、20の時にトラッタの街のイケメンと結婚して、22でかわいい男の子を産んで、25で2人目を産んでついにこの間トラッタの街で家を購入……」


 マリヴェラの顔が少しずつ曇っていく。


「私とリーシュ……どこで差が生まれた」


 俺はそこに対して何も言えなかった。

 待ってるだけじゃ駄目なんじゃないかなって思う。


「ママーーッ! パパーッ!」


 あれは!

 リーシュと入れ替わりでやってきたのは緑色のポニーテールが印象的なライトアーマーを着た女の子。

 かなり成長しているが見間違えるはずもなかった。


 俺とマリヴェラにとって初めての子の1人、フィロメーナ・ハーヴァンがてくてくと走って近づいてきた。


 さっそくフィロはマリヴェラに飛びついた。


「本当にフィロなの!? 綺麗になったわね」

「やっぱりママのハグは落ち着きます~」


 15歳の時はまだあどけなかったが、19歳になってぐっと大人っぽくなったな。

 フィロは卒院してから4年、冒険者としてギルドに所属するようになった。

 俺の【しつけ】によって恐ろしい才能が成人を境に開花。

 わずか4年でガトラン帝国一の冒険者に成長した。19歳でSSランクの冒険者ってありえんからな。


【剣神】という二つ名を得て、大型のドラゴンもぶった切ってしまう強さを持っている。


「パパ、ただいま帰りました!」

「便りはもらっていたから状況は分かっていたけど、顔を見ると安心したよ」

「えへへ、嬉しいです」

「それにとっても綺麗になった。よく頑張ったな、フィロ」


「はい! ……()()()()()()頑張りましたので」


 うん? 何だかフィロの目が怪しく光ったような気がした。

 いや、さすがに気のせいだよな……。

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