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「お前だろ? この世界を滅ぼすのは」


 最初の授業が終わり、ノディスと2人で話すために屋上に来た。リオには反対されたけど、私もノディスと2人で話がしたかったので、どうにかして説得した。


「なんでそう思うの?」


 いきなり投げかけられた質問は、私の心臓をどきりと鳴らした。動揺を悟られないように、できる限りの笑顔で返す。


「お前にしかできないからだ、魔力量的にも。それに前会った時、『運命が変わった原因を先に調べろ』とお前は言っていたよな」

「……そんな風には言ったね」

「それはお前自身が原因を分かっていたからなんじゃないのか?」


 鋭いな、無駄に。

 どうやってその思考に至ったのか、具体的に教えてほしいものだ。


「でもあなた、それについてはどうでもいいって言ってなかった?」

「気が変わった。運命に従うならなるべくシナリオ通りにする方が面白そうだ」

「おもしろいですって?」


 あくまで私に世界を滅ぼしてもらおうってこと?

 ーーー冗談じゃない。


「あなた、運命に従うだけのつまらない男だね」

「何?」

「運命通りにシナリオ通りにって、それが本当に楽しい? 自分の意志で道を選択するからこその人生でしょう」


 ノディスはわずかに首を傾げた。

 私が何を言っているのか分からないみたいだ。


「……あなたにとっては他人事だよね。いいよ、分かった。自分の人生の未来は自分で変える。あなたが邪魔するって言うなら、受けて立つから」


 じっと睨むようにノディスを見つめていると、彼の口が薄く開いた。


「セピア」

「……何さ」

「名前、……フルネームは?」


 気のせいだろうか、ノディスの暗い色の瞳に少しだけ光が灯っているように見える。

 教える義理はないけれど、隠す理由もない。


「セピア・ランラーゼ」

「……ランラーゼ、か。なるほどな」

「なるほどって?」

「やはりお前は悪魔族だ。間違いない」


 どうやらランラーゼという名前に心当たりがあるらしい。ノディスは得意げに笑っている。


「知り合いにランラーゼがいるの?」

「ランラーゼは上位悪魔が持つ名だ。誰でも知ってる」

「上位……凄い悪魔ってこと?」

「そうだ。両親に会いたいか?」


 私は今、両親と暮らしている。でも血の繋がりがないことは知っていた。小説では明かされていなかったけれど、数年前に両親が教えてくれたのだ。


 それでも、今の両親は私を本当の娘のように愛してくれている。優しくて料理上手な母、少し厳しいけどいつも私のことを想ってくれている父。


 2人は私が幼い頃、孤児院から引き取ってくれたらしい。それから私を大事に育ててくれた。だから私も2人のことを心から愛している。


 ……というか、ランラーゼは育ての親の名前なので、悪魔族の生みの親とは関係ないはずだ。ノディスは私に育ての親がいないと思っているのか、勘違いしているみたいだけど。


「別に会いたいとは思わない。私は多分、今の家族しか愛せないから」

「……愛? 悪魔族のくせに、妙な事を口にするな」

「妙な事って何さ。あなたは誰かを愛したことがないわけ?」

「ないな。悪魔族は愛という言葉を嫌う。何故その言葉が存在するのかも疑問に思うね」


 わあ、清々しいほど悪魔らしい。

 てことは、私の生みの親は私を不要だと思って捨てたのだろう。ゴミをゴミ箱に入れるような感覚だったのかもしれない。


 そう思うと余計に、今の両親が恋しくなる。

 血の繋がりがなくたって、私の家族はふたりだけだ。


「私の生みの親が私をこの星に捨ててくれて良かった。ずっとその星に住んでたら、私もあなたと同じことを言ってたかもしれないもんね」

「……お前は本当に悪魔らしくない」

「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくね」


 嫌味なくらいに微笑むと、ノディスは私の目をじっと深く見つめてきた。

 何かを探るようなくすぐったい視線に、私は思わず顔を背けて逃げてしまった。


「おい、セピア。俺の名前は教えたよな?」

「……え?」

「忘れたのか?」


 急になんだろう?

 疑問に思いながら「ノディス」と呼ぶと、彼の表情から不機嫌な色が消えた。


「なんなのさ、もう」

「別に。なんとなくお前に名前で呼ばれたいと思っただけだ」


 私があなたって呼ぶのが気に入らなかったのだろうか。……それとも、私のことが少しでも気に入ったのだろうか。


「さっき愛が嫌いだとか言ってなかった?」

「あ? 何故その話が出てくる?」


 ……無自覚なわけね。

 まあ、うん。ありえないよね。


「なんでもない、忘れて。ていうかそろそろ授業始まるけど、本当にこのまま生徒になるの?」

「それについては適当にやる。近くでお前を見張るためにな」


 私を見張る、か……。

 やっぱり私に世界を滅ぼさせたいわけね。


「あなたは何の為に役割を果たすの?」


 そんな質問が漏れたのは、どうしてなのか自分でも分からない。だけど口にしてみたくなった。

 ノディスの言葉に腹が立ったせいかもしれない。


「役割を果たすのに、理由なんて必要か?」


 予想通りの言葉は、私に浅いため息を吐かせる。まるで台本を読むという作業をしているだけの、中身のない脇役のようなセリフだった。


「ノディス、あなたって本当につまらない」


 挑発するのは危険なのに、私は口を閉じれなかった。


「まるで呼吸ができるロボットだね。誰かに作られたんじゃないの?」

「調子に乗るなよ、セピア・ランラーゼ」


 ノディスは紫色の瞳を尖らせながら、私を冷たく見下ろした。相当怒っているのか、口元がわずかに震えている。


「俺はいつでもお前を殺す事ができる。それだけの魔力がある。……今こうして見逃しているのは、ただの気まぐれに過ぎない」


 ふぅん、人間らしい表情もできるじゃん。

 そう思って薄く笑った。

 純粋に嬉しかったのだ。


 彼が小説の設定に囚われたキャラクターではなく、自分の意思を持っている人間であると思えたのが。


「……なぜこのタイミングで笑う? 不気味な奴だな」

「笑うよ。やっとノディスを面白いと思えたからね」

「おもしろい? どこが」

「ボコボコに打ち負かしてやりたい、って思えるところ」


 私はこの星の未来がシナリオ通りになってしまうのが怖い。

 だけどそれよりも、まわりの人物がただの小説のキャラクターに過ぎないことが嫌だ。


 あの物語の主人公は私ーーセピアだ。

 だけど彼らの人生の主人公は私ではなく、自分自身であってほしい。


 ノディスと出会って、初めてそのことに気付いた。


「お前は本当に……よく分からない女だな」

「惚れないでね、面倒くさいことになるから」

「安心しろ。それは運命が何度ひっくり返ってもありえねぇよ」


 そうか、それなら安心だ。

 にひひと歯を見せて笑うと、今度はノディスが呆れたようなため息を落とした。



 

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