3
魔法の使い方は、セピアが授業で習っている。でも悪魔の魔法は勝手が違うのか、簡単に使えるものではなかった。
力を込めてみても、心の中で念じてみても、魔法は発動されない。
(やっぱり闇堕ちしないといけないのかな……)
とにかく使いこなせるようにならなければ。自分の身を守るためにも。
「何してるの?」
体力をつけるために自分の家の近くを走っていると、学園から帰ってきたリオに声をかけられた。
「リオ、話しかけないでって」
「今はクラスメイトもいないでしょ」
「……そうだけど」
「セピア。授業もサボって、何してるの?」
リオの口調が怒っている。だらしない娘を叱る母親みたいで、私は思わず苦笑いする。
「体力作りしてるの。いつ世界が滅ぶか分からないからね」
「……またそれ? 悪い夢でも見たんでしょ」
「とにかくリオには関係ないから。私のことは放っておいて」
リオにはある程度、私を嫌ってもらおう。そしたら距離を置いてくれるはず。
「関係なくない。セピアは僕の大事な幼馴染だ」
こういう言動が、セピアの恋心をくすぐるんだろうね。他人事のように思いながら、私は呆れたようなため息を吐いた。
「あのねえ。私だってリオが大事だよ。できれば幸せになってほしいの」
そう言うとリオは目を丸めた。彼の透き通った緑色の目は、柔らかい赤色の髪によく似合っている。
「そのために私、頑張るから。邪魔しないでね」
「……恋の邪魔をしないでって言ったり、体力作りの邪魔をしないでって言ったり。セピアは忙しいね」
ああ、そういえばそんな事も言ったなぁ。
「そ、忙しいの。じゃあね!」
ちょっと強引気味に会話を途切らせ、私はジョギングを続けた。まずは基礎体力をつける。恋愛なんてしている場合じゃないのだ。
走って走って、大きな橋の近くまで来た。この橋を渡った先には深い森がある。そこまでは行くつもりがなかった、けれど。
(なんだろう、この感じ……)
不思議と胸がざわざわする。大きな橋の向こうに、何かあるような気がする。森に行くのは危ないし、もうすぐ夜になる。
行かない方がいい。でも、好奇心が止まらない。
「……ちょっとだけ」
私は橋の上を走った。
森の入り口まで来て、再び引き返そうか迷ったけれど、結局進むことを選んだのだった。