第94話 冒険者ギルド1
「主様、次はどちらに向かわれますか?」
「とりあえずコレ貰ったし革職人のところに行こうかな」
レベッカさんから革職人の紹介状を貰って俺達は商業ギルドを後にしていた。レベッカさんもCランクポーションの手配があるからか忙しそうにしていたから問題ないだろう。
「……ヤマヤマ、魔獣の卵を頼んでない」
「あ、すっかり忘れていたな。まぁ毎日食べないと死ぬわけじゃないからたまに手に入ればいいよ。……でもミリスさんに頼もうにもレベッカさんがずっと取り仕切っていたよね。途中からミリスさん居なくなるし、俺の専属はレベッカさんじゃないの?」
「……遠からずそうなりそう。そもそもヤマヤマの対応を専属受付嬢とはいえ最終決定権を持たない者に務まるわけがない」
「ふふふ、それにぽーしょんシャンプーの件もありますから譲ることはないですわね」
「旦那様、私達の分もご用意して頂けるのですよね?」
「当然。別に販売を目的に作ったわけじゃないからね? 作らないとツバキとミーシア以外は俺から離れて行くから作ったのであって、レベッカさんに渡すのはFランクポーションとEランクポーションを有効活用した新製品を出そうと思っているよ。……まぁ販売が出来るかは効果の程によるだろうけどね」
流石に余っているからとBランクポーションを使って売りに出すつもりはない。最高でもCランクポーションまでかな。
Bランクポーションは万が一誰かが大怪我した時の為に何時でも生み出せるようにしたいからね。Bランクポーションは一日二本だからシオンに渡す分を考えて寝るまでに使わなかったらぽーしょんシャンプーにしてもいいけど。ただそれを一般に回すつもりは毛頭ない。
Fランクポーション、Eランクポーションで効果が少なかったらCランクポーションまでは使ってもいいけど。……ぽーしょんシャンプーにもランク付けするか。
「旦那様がイヤで離れていたわけではありませんよ!」
「……ヤマヤマがでりかしーのないこと言うから一時離脱しただけ」
シオンとフィーネはもう離れる気はないと強く腕に掴まり必然的に頭が俺に近くなる。……うん、良い匂いがする。あのぽーしょんシャンプーの香りじゃないから別の香油を付けているのかな? それとも素の匂い? ……うーん。俺は匂いフェチなのかなぁ。
「主様、二人の香りは如何ですか?」
「良い匂いだよ――って、なに言わせるんだ。そして二人とも顔を逸らすのは止めてね。傷つくよ?」
俺の言葉に反応して二人して頭をサッと離した。いや、そんなフガフガ匂いを嗅いでるわけじゃないから許してください。
「い、いえ、嫌ではないのですが、今は特に何も付けていないので……」
「……私も髪がサラサラになったから香油を付けていなかった。失敗」
「別にそんなの付けないでも良い匂いだよ?」
というか、変にキツイ匂いを付けられると、ふとした時に顔をしかめそうで怖いのだが。
周りの人間はもう臭いと感じるほど香水を付けていたおばはんを思い出してしまった。本人は鼻が馬鹿になって匂いを感じないのかも知れないけど周囲の人間はたまったもんじゃないからね。
……イヤな臭いを思い出してしまった。ここはツバキで匂い直しをしよう。
「……流石は主様。言いますわね。そして今度は私の匂いですか?」
「はぅ。あ、ありがとうございます」
「……私の香りはヤマヤマを惹き付ける香り」
シオンは恐る恐ると俺の肩に頭を寄せて、フィーネはグイグイと俺の顔に頭を押し付けて来る。うん、邪魔。ツバキ、ファイヤー!
頭に乗るお胸様を揺らすとフィーネが倒れた。……何も見えなかったんだが。
「……痛い。私はヤマヤマの為に恥ずかしい思いを我慢しているのに」
「……。まぁ俺が悪いのは分かるから、そろそろ終わろうか。周囲の視線が熱い」
商業ギルドを出た先で漫才染みた真似をしているせいで、商業ギルドに来た商人達が遠巻きに眺めているようだ。……また目立ってしまったな。
うーん、俺はただ背後から美女に抱きしめられて頭にたゆんたゆんを乗せ両手に美少女を侍らせているただそれだけなのに!
「旦那様? もし未だに周囲を気にしているのでしたら言動の前にこの護衛方法を変えた方が……」
「シオン、俺は止める気はないよ。いつ何が起こるか分からないからね。突然蹴られたり、押さえ付けられたりするんだから」
恥ずかしいけど仕方がないんだ。身を守る為に必要な事なんだよ。うん、それ以外の想いはないよ!
「……竜人の胸乗せが噂のポーション職人であることは商人達には知れ渡っているはずだから危害より交流の機会を伺っている商人はいると思う」
「フィーネから悪意のある呼び方をされた気がする。――俺はポーション職人の弟子と周知されているはずだろう?」
「……商人達からすれば師匠との繋ぎはヤマヤマしかいないから同じこと。……今はレベッカが抑え込んでいるだろうけど、暴走する輩はその内出ると思う」
……まぁコニウムさんという例外を作ったからね。そういう輩が出て来てもおかしくないか。……まぁ近づく前に何故か倒れることになると思うけどね。生半可な覚悟では俺の前には立てない、……なんてね。
◇
「お、あれリクじゃない?」
「そのようですわ。昨日に引き続きよく会いますわね」
商業ギルドから革職人がいる東区の方へ移動しているとそこそこ大きな建物の前にメルメルの孤児院にいたリクが立ち尽くしていた。……ママリエさんの孤児院? あの人に任せて本当にいいのだろうか。
「メルメルさんは近くにいないみたいですね」
「リクも働いているって言ってたし何時もメルメルと一緒ではないだろ……ないよね?」
「……流石に毎日一緒なら関係を疑う。……でも異種族婚は稀にあるからヤマヤマは安心していい」
何を安心したらいいんだよ……。――ふむ。シオンが赤くなっていると言う事はシオンはリクではなく自分に置き換えて想像しているみたいだね。
俺はリクとメルメルの未来を祝福しよう。……リクとミーシアか?
「あ、おはようございます、ヤマトさん」
「お前にミーシアはやらん!」
ミーシアは俺が立派に育てるのだ。ミーシアを嫁にしたければ俺を倒すことだ! なんてね。あ、ちなみにツバキは俺の護衛に付きます。
「え!? え、な、なんですか、いきなり。なんでミーシアの名前が出るんですか。お、俺は別に、ミーシアは家族って言うか――」
……思わず叫んだらリクが何やらオドオドしている。まぁ大事なのはミーシアの気持ちなので叫んだものの俺はとやかく言うつもりはないよ? たぶん。
「おはよう! こんなところでなにしてるの?」
「…………。おはようございます。えっと、冒険者の依頼の準備を手伝ったりするので声を掛けられるのを待ってます。あとは夕方頃に冒険者の人達が獲物を持って帰って来るのを待ちます」
リクは俺が孤児院に援助することにしてから接し方が丁寧になった気がする。見た目は幼く見えるけど、これでも成人間際の十五歳だからね。……リクの方が俺より年上の可能性もあるんだよね。
「ここって、冒険者ギルド?」
「はい。そうですよ」
三階建てのレンガ造り。趣はあるけど……商業ギルドと比べたらかなり小さいな。とはいえ周りの建物に比べたら大きいけどね。俺の屋敷より大きいけど貴族街の屋敷に比べたら小さい感じか。
剣と盾の絵が描かれているからあれが冒険者ギルドのエンブレムかな。
「リクはまだ冒険者になれないの? 十五歳って言ってたよね」
「えっと、まだ資金を集めてて。装備が一式揃えば知り合いの冒険者に推薦を貰って冒険者になれます」
「推薦がいるのか? 誰でもなれるわけじゃないのね」
「俺の場合は試験は無理なので推薦でなるつもりです」
「冒険者になるには試験を突破するか、冒険者の推薦が必要ですわ」
ツバキによると冒険者になるには冒険者ギルドが用意する試験をクリアするか、冒険者チームで研修を受けて推薦を貰う必要があるらしい。リクはこれまでに懇意にしている冒険者チームの雑用をこなして来たので後は装備品を買い揃えれば推薦状を貰えるそうだ。
「……推薦じゃ一定期間は昇格できない。採取がメインになる」
「俺は戦いは苦手だから採取メインで活動するつもりなんです。もう仲間もいますから後は装備が揃えば冒険者として活動できます」
冒険者活動には主に二通りあるらしい。魔獣や魔物を狩る狩猟系と薬草や珍しい植物などを集める採取系。強さに自信がある者は狩猟を生業にしていて危険と引換に大金を稼いでいるそうだ。狩猟以外にも護衛や荷物の運搬など実力がある者は仕事に困らないそうだ。
そして魔物相手では実力が不足している者や駆け出しの冒険者は薬草採取が主な収入源になっていて、他にも狩猟チームの荷物持ちや警護、雑用など街中での依頼などで生計を立てているらしい。
まぁリクは小柄だから戦いには向いていないだろうね。それに採取がメインならメルメルやママリエさんの心配も減るだろう。
「なるほどね。なら冒険者になったら声を掛けてよ。薬草なら俺が買うからさ」
「はい! ありがとうございます!」
うん、話ていて思い出したけど薬草の調達を忘れていたな。街中の商店で買えばいいと思っていたけど、冒険者が集めているなら冒険者に頼んだ方が話が洩れずらいかな。
商業ギルドの息の掛かった商店だけで買っていたら数量がおかしいと気付かれそうだからね。それに魔獣の卵の件もあるし、ちょっと冒険者ギルドを覗いてみるか。




