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第93話 変わり身

「し、失礼します!!」


 大きな声を出して入室して来た丸い獣耳がチャームポイントの狸人族の少女――コニウムさんがクロウさんを引き連れ俺達がいる二十ニ番窓口にやってきた。

 レベッカさんとの相談もひと段落ついたのでミリスさんに呼びに行ってもらったのだけど――コニウムさん、緊張してガチガチだな。 


「ようこそ。私は当商業ギルド副ギルド長のレベッカです。お話はヤマト様から伺っております。どうぞお席へ」

「は、はい! ありがとうございます! 私はコニウムです! しがない行商人の真似事をしています! こっちは竜人族のガーさんです!」


 ……。うん、落ち着こうか。しがない行商人の真似事って。しかもクロウさんの紹介、ガーさんって……。


「お二人のお噂は聞き及んでおります。東洋国の商家のご息女とカイグリア平原の英雄、ガークロウ殿ですね。お会い出来て光栄です」

「…………。まさか我のことまで知っているか。随分と広い目をもっているようだな」

「敵意はありません。この街の情報は逐一入ってくるのでお二人が来られた時点からお調べさせて頂いておりました。今回はヤマト様のご提案から同席をしております。その威圧は私だけに向けられるものでは無いとお知り下さい」


 ……ん? 威圧? そういえばクロウさんから視線を感じるような? あ、消えた。……今のが威圧なのか。ツバキとは違って怖くもなんともないな。


「(……ヤマヤマが竜人の戦士を相手に怯んでいない)」

「(当然ですわ)」

「(え、もしかして俺がおかしいの?)」

「(……流石はツバキのショック療法。……効果てきめん)」


 ツバキとシオンの殺気に慣れてきたから普通の人の殺気が気にならなくなったのか。……いやいや、ツバキが後ろに控えているから打ち消してくれているんだよ。もしくはクロウさんが俺に当たらないように調整しているんだよ。


「――我等にヤマト殿と敵対する意思はない。それは戦姫殿も理解している。……とはいえ、不躾な態度を取った事は詫びよう」

「ご理解頂けて幸いです。本来商業ギルドは商業ギルド加盟国以外の商人とポーションのやり取りをすることはありません。ですが今回はヤマト様のたってのご希望。代金に加え我々を頷かせるだけの条件を提示して頂きました。お二方が何を取引したのかは聞きませんが――ヤマト様の慈悲に感謝することです」


 ……ずいぶんと上から目線だね。加盟国以外の商人だからか? いや、ポーションがダメなだけで他の品はやり取りしているんだよね? 東洋国の出身だから――まさか、亜人だからってことはないよね?


「はい! もちろん感謝しています! ガーさんも! 変な態度とらないでくださいね!」

「……。承った」


 クロウさん不服そうだね。苦労してますね。じゃなくて、コニウムさんとは対等な取引――対等だよね? まぁ、お互いが納得できる取引をしたわけだし、そう卑下してもらう必要はないよね。今後も東洋国の物産品を持って来て貰いたいし。


「あー、僕としてはコニウムさんにはとても良くしてもらったと思っています。今後も良好な関係を築いてまた取引がしたいとも思っていますよ?」

「は、はい! ぜひお願いします!」

「……。分かりました。そういうことであれば私からは特に申し上げることはありませんね。不遜な言動を謝罪します」

「そ、そんな! 頭を上げてください! ぜんぜん気にしてませんよ!?」


 レベッカさんが頭を下げて謝罪したことでコニウムさんは大慌てで周囲を見渡している。そして俺と視線が合う。――いや、俺からは何も言わないよ。たぶん俺が何か言ったら変になりそうだから。


「ありがとうございます。それではコニウムさん、ヤマト様からのご依頼を受けて当ギルドはCランクポーションを用意します。確実にヤマト様の元へお届けしますのでご安心ください」


 何事もなかったかのようにレベッカさんが頭を上げて業務連絡をするようにコニウムさんに話しかけている。……うーん、なんか俺と対応が違う気が。まぁ、俺はギルド付きのポーション職人だから他国の行商人とは対応が違ってもおかしくないのか。


「コニウムさん、二日ほど時間が掛かるそうですけど、大丈夫ですか?」

「はい! 全く問題ありません! ありがとうございます!」

「お二人の宿泊費は商業ギルドが持ちましょう。商業ギルド加盟店の宿屋がありますので手配もすぐに出来ます」

「いえいえ、そんなことまでして頂くわけには参りません! 既に宿屋の方には滞在が延びることを伝えていますから問題ありません」

「ではその宿には私どもの方から事情を説明しましょう。コニウムさんはぜひ当ギルドの用意する宿へお越しください」

「いえ、大丈夫です! これ以上お世話になってはヤマトさんに申し訳ないです!」


 ……ん? なんで俺の名前が出た? ギルドに、じゃないのか?


「……。やはり不相応な取引があったようですね。ヤマト様、宜しければ私が調停に入りますが」

「ッ」


 うん? いや別にいらんが。俺は納得の行く取引をしたわけだし。――コニウムさんも絶望の表情を浮かべなくても大丈夫だから。


「不要です。僕は十分に満足のいく取引をしました。――とはいえ、そのために商業ギルドに手間をおかけしているのも事実ですね。コニウムさんとの取引が破綻するのであれば――先ほどの話も白紙にしましょうか」

「コニウム様。二日ほどお待ちください。当ギルドが全力を持って満足のいく品をご用意させていただきます」

「え、あ、はい」


 素晴らしい変わり身の速さですね。……。この街の女性はポーションや金貨を見ると人が変わってしまうことがあるようだ。……極端に限られた一部だけだろうけどさ。


 ◇ 


 コニウムさんとの商談が終わり、コニウムさん達はそそくさと部屋を出て行った。……まぁレベッカさんが「私達はまだ話し合うことがあります」って言って追い出したようなものだけどさ。

 結局コニウムさんとクロウさんは商業ギルドの宿屋に泊まることになったようだ。現在コニウムさん達が泊まっている宿はお世辞にも良い宿ではないらしく、レベッカさんとしても取引が終わるまでは責任を持つと譲らなかった。

 ミリスさんは宿屋の調整とCランクポーションの手配の為にすでに退出しており、部屋には俺達とレベッカさんだけになっている。

 ……俺も帰りたいのだが。


「申し訳ございません。商業ギルド加盟国以外の国の商人、それも東洋国の者となると下手な対応をするわけには参りませんでした。あちらもその事は理解しているはずです。しかしヤマト様にご不快な思いをさせてしまったのは事実、大変申し訳ありません」


 商人同士の隠れたやり取りがあったわけか? まぁ俺に被害が及んだわけじゃないし問題ないけど。レベッカさんが亜人差別をしているようならちょっと話は変わっていたかも知れないけどねぇ。


「いえ、無理を言ったのは僕なので。とはいえコニウムさんとの取引に不満は持っていません。東洋国の商品に興味もありますから今後とも仲良くしたいのは本音ですよ」

「……。商品を仰って頂ければ商業ギルドでも……。いえ、それでは意味がありませんね。分かりました。今後は東洋国の商品についても目を光らせておきます」


 いや、別にレベッカさんが目を光らせなくても。日本の商品を探したいだけだからレベッカさんではどうしようもないだろうし。それより美味しい物に目を光らせて欲しい。


「……。それはそうと、ヤマト様。実はずっとお聞きしたい事があったのですが」

「改まってどうしたんですか?」


 レベッカさんの真剣な表情。……イヤな気配だ。聞かれたくない事多いからね。大抵のことは黙秘させて頂きますよ? ……まぁポーションの秘密については聞かれないと思うけど――。


「――皆様の髪が驚くほど美しく見えるのですが、一体なにが?」


 ……あぁー。そりゃそうだよね。気になるよね。みんなサラサラふわぁーだからね。それにフィーネが俺の隣でわざとらしく髪をかき上げてふわぁってしてるし、それを見たシオンが恥ずかしそうに髪を上げて俺をチラッと見る。

 ……シオンの白い首筋にドキッとして見つめてるとシオンが髪を降ろして顔を背けた。耳が真っ赤だ。恥ずかしいならしなくていいのに。


「……シオンばかりズルい」

「なんのことだろう。……えっと、昨日屋敷でお風呂に入ったので皆綺麗になりましたね」

「……ヤマヤマに頭を洗って貰った」


 ちょっと待て。そんな赤裸々なことを他所で言うなよ、普通に恥ずかしいぞ!

 シオンが顔を両手で押さえて俯いているじゃないか! くそ、行動が一々可愛いな、フィーネもっとやれ!


「――ヤマト様は何か特殊な技能をお持ちなので?」


 ……レベッカさんは俺達の赤裸々な生活より髪が優先されたようだ。まぁ普通そんな惚気聞きたくないよね。

 でも特殊技能って。俺の手はゴッドハンドですか。メリリの手……。なんかメリリの手駒みたいでイヤだな。

 うーん、この街でも香油? を使ったお手入れはあるみたいだし、俺のぽーしょんシャンプーも香油の一種ってことで良いか。まだ試作段階だけど。


「いえ、普通に香油を使って洗っただけですよ」

「普通の香油では、いえ――王族が使う最高級のものでもその様にはなりません。もしや、それもヤマト様がお作りに?」

「えーと、まぁそうですね。……ポーションを作る際の副産物みたいなものです。まだ試作段階ですけどね」

「ヤマト様。その香油を譲って――いえ購入させて頂く事は可能でしょうか?」

「え、いや売り物ではないので……」


 まだ試作段階だし思い付きで作っただけだからね。香り付けまで出来たら香油と言っても良いかも知れないけど。

 でも大量生産はできないだろうな。貴族向けの趣向品として売り出すのは面白いかも知れない。……ちょうど材料にも目途が出て来たし。


「これは私の個人的な事、商業ギルドは関係ありません! 秘密は厳守しますし言い値で買わせて頂きます、お願いします!」


 レベッカさんの熱意がすごいのだけど。レベッカさんも女性だものね。……ここで変に断ったら後々が恐ろしい気がしてきた。むしろレベッカさんを懐柔した方が今後の為にもいいか。


「えぇっと少し待ってください。まだ試作段階ですし、生産が安定したら渡しますから」

「私も試作に協力させてください。必要な材料や機材があればご協力できます。検体としても協力します」


 いや検体って……、使ったら禿る可能性もあるって言ったらどうするんだろう? ……。冗談はさておき、まぁ効果を調べたり値段を決めるのにレベッカさんは打って付けか。

 とはいえ、ある程度形になった物を見せないとダメだからね。流石に安心安全のメリリ印ポーションを使っているとはいえ、ただ薄めただけの物をばら撒くのは違うと思う。それじゃただの劣化ポーションでしょ。昨日のぽーしょんシャンプーはあくまで試作品。改良の余地は残っているからね。


「とりあえずニ、三日――そうですね、Cランクポーションが手に入るまでには一先ずの試作品を用意しますよ。それをレベッカさんが試して効果や改良点、値段などを判断してもらえますか?」

「……分かりました。急ぎ手配をします。――今後はその香油を定期的に販売する予定、という認識で宜しいのでしょうか?」

「まだ開発段階ですけどね。ただ完成しても数は少ないと思いますよ」

「……。分かりました。ではその様に行動させて頂きます。貴重なお話をありがとうございます。では革職人の紹介状を用意します。少々お待ちください」


 レベッカさんが颯爽と部屋を出て行った。ずいぶんとお急ぎですね……。

 ――まぁ時は金なり、だからね。


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