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第78話 陰謀の裏側1

 食事を終え領主を迎える準備を始めようと思っていたらフィーネから待ったが掛かった。


「……段取りを一任して欲しい」

「…………。なんで? というか段取りとかいるの?」


 勝手に押し掛けて来るだけだし普通に迎えて普通に対応するだけで良くない? 領主が相手だしそれなりの対応はするけどさ。


「……。……領主がやって来た。ヤマヤマはどこで待つ?」

「玄関前?」

「……それじゃダメ。侮られたくない。ヤマヤマは特別。たかが一領主に舐められたら我慢出来ない」


 …………。いや、別にいいよ? よほどの事じゃないなら気にしないし、やられたらやり返すし。というか領主をたかがとか言って良いの? 


「……竜人族が真に仕えるのは生涯でただ一人。……ツバキやシオンの主が侮られ、いい様にコキ使われて構わないと?」


 …………。こき使われたいとは思っていないけど。……二人とも無言ですか。――フィーネの言葉に言い返さず俺の意見を尊重している? …………。いや逆にフィーネの肩を持っているから何も言えないのか…………。え、マジで?


「領主はこの街で一番偉い人だろ? 流石にヒロネ嬢みたいな態度は取らないんじゃないか? 商業ギルドとの兼ね合いもあるし」

「……それならそれでいい。でも初めからヤマヤマが下手に出るのは止めて欲しい。……ヤマヤマの態度を見て上手な態度を取りかねない」

「現状は領主とやりあうつもりはないよ? まぁ相手次第ではあるけど」


 流石に悪徳貴族ですって感じで来られたら無抵抗でいるつもりはないけど。メルビンさんの対応を見るにヒロネ嬢が特殊だったと思いたいんだけど。


「……相手の思惑を探る意味でも任せて欲しい。下手に出ると際限がなくなる。……先ずは対等な関係で行こう」

「領主と対等、ね。高慢な態度だって要らん反感を買わない?」

「……そう思われたなら相手が愚か。対等だと思っている時点で間違い。ヤマヤマの方が上。そんな領主ならこの街で生活をするのを諦めた方が良い。……ヤマヤマは穏やかに暮らしたいと言っていた。それならいっそ別の街でやり直した方が早い。……次は目立たない様に私達が取り計らう」


 …………。やけにフィーネが譲らない。というか既にこの街で穏やかに暮らすのは諦めた方が良いって言ってるの? まだそこまで目立ってないでしょ? ギルドと領主にちょこっと教えただけだし。それに今日屋敷で住みだしたばかりだからね? スンスン達も雇っているのに。


「……目立っていないと思っているのはヤマヤマぐらい。出て行くなら早い方がいい。皆には領主と揉める場合は幾ばくかの資金を払いお役御免となる場合があると伝えた。皆納得している。……猫以外」


 まだ何も言っていないんだけど。……最近メイプルが我が家のペット枠に片足突っ込んでいる気がするんだけど気のせいだよね? スンスンもフィーネも猫って呼んでない? …………俺もか。


「うーん、ま、上から押さえ付けられるぐらいなら対等な関係がいいか。その方が俺の事秘密にしてくれる気がするし。敵対するならギルド頼っても良いし、いっそ東洋国に行っても良いかも知れないな」


 俺の常識で考えたら良い様にされる気もするしフィーネに任せてみるか。


「……出て行くのはあくまで最終手段の一つ。ヤマヤマが出て行くとなったら戦闘になる可能性もある。そうなったらお尋ね者。ヤマヤマの名前が広まる。それは避けたい。でも領主の言いなりは許容できない。……だからこの会談で真意を見極める。承諾」


 すんなり出て行かせてはくれないと思ってはいたけど、戦闘になる? 他国に行かせるぐらいなら殺すってこと? …マジ?


「流石にそれだけの強行手段に出る事はないと思いますわよ。まだ知られているのはCランクまでですし。…ギルド側の情報が漏れていれば分かりませんけど」


 商業ギルドには最高品質の事が伝わっているし、もしCランクポーションの最高品質が作れるとなったら話が変わって来るのか。今後のことも考えるとフィーネの言う通り下手に出るのは悪手か。

 あくまで最悪の可能性って事だろうけど、それを見越して動くのは当たり前か。まだ会った事もない領主を相手に都合の良い結果を求めるのは間違っているよな。


 …………。ふむ。いっそ強気に出てこちらは何時でも見限る用意があると思い知らせた方が煩わしくないかも知れないな。本当はもう少し時間を掛けて準備をするつもりだったけど向こうの動きが早い。――今ある手札を大きく見せるしかないか。


「了解。フィーネに任せる。皆にはもし領主と揉める事態になった場合はこの街を出てしばらく生活できるだけの資金を用意するって伝えて。……でも余り変な事はしないでね?」


 あくまでも保険だ。相手が歩み寄るつもりがあるなら手を取り合って良いんだから。…………。でも、俺達を良い様に利用するつもりなら容赦はしない。


「……。……相手次第」


 …………。いきなり任せたのが不安になる事言わないで欲しいんだけど。


 それからフィーネがあちこち指示を出し始めた。夜型なのか? 昼間はやる気ない感じだったのに夕方過ぎてからやけに動きが良くなったな。良く喋るし。


 ザルクさん達の所にまで指示を出しに行くフィーネの姿をツバキ達と一緒に物珍しそうに見物する。

 メイプルとスンスンは応接室からソファーや調度品を運び出している。…………。何故に? 外で会談するの?


「……ツバキ達も着替えて。ツバキは執事服、シオンは巫女服。ヤマヤマも昼間買った服に着替えて」

「了解」


 忙しなく動くフィーネが次はミーシアにまで声を掛け始めた。……お茶を運ぶタイミングまで言い出したぞ。可愛さ全開で篭絡しろって聞こえたけど勘違いだよね?


 そして着替えた俺は応接室に一脚しかない椅子に座らせられた。そしてツバキとシオンが両脇に立つ。…………うん、シオンの巫女服可愛いね。ツバキも破壊力があって良いけど普段は見られない巫女さんが隣に立っているからチラチラ見てしまいますね。


「……ツバキにお願いがある。…………。ヤマヤマはそっちでシオンを視姦してて」

「おいこら? 言い方ってもんがあるだろ?」

「……シオンを覗き見てて?」


 …………。これは俺に勝機はないね。大人しくシオンを愛でて居よう。


「…………結局見るのですね。良いですけど」


「(……ツバキ、時間になったら常に抑えた殺気を室内中に放ち続けて)」

「(簡単に言いますわね。そんな真似をしたら主様にも被害が及びますわよ)」

「(……大丈夫。今日一日でヤマヤマにはかなりの耐性が付いているはず。夕方頃には感覚がマヒして殺気に気付いてもいなかったから問題ない)」

「(それは逆に問題があるのでは? ……良いですわ。私も主様が侮られるのは許せませんので)」

「(……後は私の合図でピンポイントで殺気を当てて動きを止めて欲しい。その都度小声で指示するから聞き逃さないで)」

「(…………貴女は私を何だと思っていますの? 無茶にもほどがあると思いますわよ?)」

「(……出来ないの?)」

「(出来ますわ)」


「……ツバキは人類とは別の生物だと思っている」

「それ、わざわざ声を戻して言う事ですの?」


 …………。何か仲がいいな。小声の部分は良く聞こえなかったけど。…………まぁ、いいや。このままシオンを眺めておこう。


「…………良いですけどね」


 □


 そしてついに領主がやって来た。今はスンスンが出迎えに向かっている。どうやらメルビンさんも一緒みたいだ。ふぅー、流石に少し緊張するな。

 ツバキは目を閉じて何か集中しているみたいだ。護衛に専念しているのかな? 


「領主、カイザーク・フォン・ベルモンド様のお越しです」


 来た。フィーネからくれぐれも下手に出るなと言われたけど、それなら台本ぐらい用意して欲しいものだ。覚えきれないと思うけど。


「ようこそお越し下さいました。僕が薬師のヤマトです。……あぁ、ポーション職人と名乗った方が良いですかね?」


「ッ、――お会い出来て光栄です。私がこの街の領主を任されていますカイザーク・フォン・ベルモンドです。こちらは私の息子、メルビン・フォン・ベルモンドです」


 …………。いやメルビンさんは知ってるよ。昨日会ってるから。…………あぁ、あれか昨日会ったのは警備隊のメルビンで今日会っているのは貴族のメルビンって事か。……面倒だよ!? …………普通に挨拶しよう。


「宜しくお願いします。……メルビンさんとは昨日ぶりですね。昨日は色々とありがとうございました」

「いえ、ヤマト殿も息災で何よりです。――お二人も昨日までとはおもむきが違いますね。これはヤマト殿のご指示ですか?」

「ええ。たまたま知り合った方と交渉して頂きました」


 メルビンさんは昨日と雰囲気は同じだけど何か笑顔が引きつっているような? 領主に関しては汗が酷い。ハンカチ持ってないのか。


「それは、凄い事ですね。市場に珍しい商人でも居ましたか?」

「ええ。東洋国から来ていた行商人がいてお米やお茶も買えましたよ」

「なるほど。私も東洋国はお米やお茶が有名だと聞いたことがあります。素晴らしき巡り合わせを女神様に感謝ですね」

「え? え、えぇ、そう、ですね、ははは。あ、あぁ、領主様、この度はこんな素晴らしいお屋敷をお貸し頂きありがとうございます。商業ギルドの物件や貴族街の屋敷も見ましたけどこの屋敷が一番気に入りました。聞いた話では領主様もこの屋敷が気に入っているとか、そんな大事なお屋敷をお貸し頂きありがとうございます」


 下手に出ないとしてもお礼ぐらい言ってもいいよね? メルビンさんは普通に接してくれているし、領主の方も高圧的な雰囲気は見えないし。


「…………」


「……父上? 父上、――父上! 聞いていますか」

「っ、な、んだ? どうした?」


 …………。おいおい。人の話聞いてないのか。上の空かよ。


「ですから、ヤマト殿がこの屋敷をお貸し頂き感謝していると」

「あ、あぁ、いえいえ、この程度の屋敷しか用意出来ず、申し訳なく思っている限りです。あ、どうせならもっと良い屋敷をご用意しましょう! それに使用人も腕の良い者を用意しましょう」


「…………」


 …………。おい、俺はこの屋敷が良いと褒めたんだぞ? それを別の屋敷を用意するって? それもヒロネ嬢を使用人にしようとするヤツが腕の良い使用人を用意する? 俺は今の状況に満足しているんだぞ? 煩わしい貴族の相手が無ければ更に満足出来るって分かっているのか。


「あ――」

「っ、あ、あぁ! そ、そうでした! ヤマト殿、本日は私の妹、ヒロネがご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした。ヤマト殿の事を秘密にするため、当家でも限られた者しかヤマト殿の事を知りません。ヒロネにもヤマト殿の事を詳しくは伝えておらず、優れたポーション職人であるとだけ伝えておりました。その為ヒロネは何か思い違いをしていたようです。ヤマト殿、並びに使用人の方々に不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。ヒロネには私の方から十分に言い聞かせ、後日謝罪に参らせます。どうかお許し頂きたくお願い申し上げます」


 …………。今、領主が話そうとしたところに明らかに割り込んで来たよね? 何か怒ってるいるよ? しかも割り込む話題に思い出したかのように謝罪するってどうなんだろう。

 ヒロネ嬢の対応は詳しく知らなかったからだけではないと思うけど、その辺りは把握しているのかな? …………。こちらも貴族令嬢を失神させているし、問題にするつもりはないけどさ。むしろそちらが謝罪するなら無かった事にして事を荒げたくはない。


「メルビンさんが謝る事ではないですよ。…………。少し腹も立て僕もやり過ぎたと思うのでお互い水に流すと言う事で如何でしょう?」


「も、もちろんです。父上も構いませんね」

「う、うむ。ヤマト殿の慈悲に感謝します」


 あら? 思った以上にすんなりですね。娘さん失神してむにゃむにゃしてましたけど本当に大丈夫なの? フィーネが脅して来ていたからもっと揉めると思っていたんだけど。というか二人とも挙動がおかしいし下手過ぎない? そもそも何で俺に対して片膝付いているの? フィーネが後ろから何かブツブツ言ってるけど何かやってるのか?


「ありがとうございます。それではこの件はこれで終了として、――お二人ともどうぞ椅子にお掛けください」


 俺の声に合わせてフィーネから指示が来る。その通り言うと示し合せたようにスンスンとメイプルが椅子を運んで来た。…………。随分と手が込んでいますね。

 それで俺も中央に行けと。はいはい。もう好きにしてください。


 中央に来ると再度フィーネから指示が入る。そして俺が椅子に座ると両脇にツバキとシオンが。背後にはフィーネが控えている。

 机を挟んで反対側に領主、メルビンさんが座っており向かい合っての会談が始まる事になる。


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