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第68話 天罰

シオンが拾い上げた木板を再度割ろうと手を伸ばすがシオンが渡してくれない。


「旦那様、これで良いと思います。旦那様が私達を大切にしてくれていると分かる素晴らしい絵です」

「そうですわね。通行証に描かれていると言われると気恥ずかしいですけど、(…………普通は分かりませんし)」


……ツバキさん? お胸越しに聞こえましたからね? …………はぁ、シオンが大切だと胸に抱き締めている物を奪えるわけがないだろう。


「……独特な絵だから複製は難しいはず?」

「個性的だと思うの! シアは良いと思うの!」

「おにーさんにしか描けない絵なら通行証としては問題ないでしょ」


皆のフォローが胸に響く。……なんで通行証を用意するだけでこんな目に。

…………。俺にしか描けない、か。


「シオン、それ貸して?」

「壊しませんか?」

「大丈夫。ちょっと付け加えたいだけだから」


流石にここで受け取って割るほど鬼畜ではない。…………俺にしか書けないのは何も絵だけじゃないからね。

この世界の文字は日本語じゃない。でも俺は普通に読み書きが出来る。この身体の元の持ち主の知識なのか、メリリが与えてくれた特典なのかは知らないけどね。そして俺には日本語の記憶もちゃんと残っている。


竜と月と太陽。簡単な絵だし正直これだけじゃ簡単に複製されそうなんだよね。だからその上にアーチ状に日本語の文字を書こうと思っている。未知の文字の癖まで複製できる贋作師がいたら負けを認めよう。…………俺は何と戦っているんだろうか。……まぁいいか。

…………そうだな。「メリリの胸はアルテミリナ様より大きい」っと。


【コラァァァァ!】


「ッ! 主様!」

「え?」


ガン! ガランガラン


…………。なんか金タライが降って来たんだけど。ツバキが弾き飛ばしてくれたから当たらなかったけど…………え? これ天罰? 雷とかじゃなくて? タライ?


「…………突如発生した様に感じましたが、主様に心当たりは?」

「ごめん。ちょっと女神様の秘密を暴露したらタライが降ってきたみたいだ」

「……ヤマヤマ、言ってる意味が分からない」


俺もだよ。何でタライが降って来るんだよ。いや、雷より良いけどさ。

…………。もしかして真実はメリリの方が小さいのか? 


【そういう事じゃないでしょー!?】


そういう事ではないらしい。…………あ、木板が割れている。しかも焦げた跡が付いて文字が読めなくなっている。…………メリリ様? この手の込みようは些かやり過ぎでは。


割れた木板をシオンが拾い悲しそうな表情を浮かべている。

…………ダリオ君、なにしているのかね? さっさと予備を渡しなさい。

はぁ、まさか女神監修の元書く羽目になるとは。…………シオンさん、これ子供達用だからね?


再度、竜と太陽と三日月を描き、その上に日本語で文字を書く。


『メリリサート様は偉大なる女神である』


チラッと空を見るが何も振って来ない。…………現金な女神だ。


「……神話文字?」


フィーネが俺の手元を覗き見て目を輝かせている。

神話文字って神代文字の親戚か何かですか? …………。過去に来た日本人が何か書き残していたのかな?

…………。あまり多用はしないでおこう。


「フィーネ、これ読めるの?」

「……無理。でもエルフの森で長年研究されている。……これは、売れる」


いや、売るなよ。通行証だからね。というか売れそうだから目が輝いていたのか!


フィーネが伸ばす手を避けシオンに見せてからメルメルに手渡そうとするけど受け取りを拒否されてしまった。


「いや、女神様の天罰が下るかも知れない物を受け取れないわよ」

「いやいや大丈夫だから。むしろこれを持っていたら女神様に見守って頂けるよ」


メリリを女神だと書いた通行証だ。きっとメリリの加護があるでしょ。


「子供達に渡すのよ? 本当にそう言えるの? 安全なの?」


子供達に渡すからこそ大丈夫だろう。まだ成人の儀式を受けていない子供達はメリリの信者候補だからね。メリリが危害を加える事は絶対にないだろう。

…………。そもそも女神が直接手を下せるのか? メリリ? アルテミリナ様にバレるとか言ってなかったか? タライが転がっているけど問題ないのか?


…………。

返事が無い。屍のようだ。


「子供達が悪さをしない限りは問題ないよ。…………どうせだし割札にして互いに持って確認した方が間違いないか」

「絶対ダメ! そんなことしたらまた女神様の天罰が降るでしょ!? 分かった! このまま受け取るわ! だから変な真似しないで!」


パシっとメルメルに通行証を取られてしまった。メルメルは子供達に「これは絶対に無くしては駄目よ、肌身離さず持ち歩く事!」と熱心に伝えていた。子供達も真剣な瞳で頷いている。


無くしたらまた用意するからそこまで重く考えないで良いけど。次は「女神様は二柱存在する」とか書いたら良いかな。神話文字を誰かが解読した時にメリリの存在が一躍有名に。…………無理だな。


「――おう! 坊主! こっちは終わったぞ!」


メリリの反応を待っていると屋敷の方からダダンガさんと獣人の男性が四人、道具や木材などを抱えてやって来た。

…………半日で終わったのか。仕事が早い。


「ありがとうございます。それにしても随分と早かったですね」

「一から作るわけじゃないからな。儂らがやったのは棚や机を作ったり排水口を下に通したりしたぐらいだ。後は坊主が使ってみて欲しい物が出たら呼んでくれ。最優先で作ってやるからな! がっはっは!」


よほど上手くいったのか上機嫌だな。他の獣人達はザルクさんとダリオさんの元で何やら話ているみたいだ。


『俺達も雇ってくれるように頼んでくれ。あの子供が雇い主なのか。なんで竜人や女性たちに囲まれているんだ。なぜ頭に胸を乗せられていて怒らないんだ』など小声で話しているみたいだ。俺には聞こえないけどツバキが教えてくれた。ツバキも耳が良いのね。

そして最後のキミ。その答えを理解出来た時キミを雇おうではないか。なんてね。


「……野蛮なドワーフがここでなにをしている」


…………。うん? 何やらフィーネの声で何時になく怒気が含まれた言葉が聞こえてきた。

え? 知り合い? …………。そうかフィーネは実際には160歳だったな。普段の様子からそんな風には見えないけど人間の街でも四十年は生活してきたって言ってたな。知り合う機会も嫌う機会もあって当然か。


「うん? なんじゃ、よく見たら森人ではないか。お主も坊主に雇われて来たのか。森人の名が泣くぞ」

「……粗暴なドワーフにはヤマヤマを理解することは出来ない。……土臭くなるからさっさと帰る」


「相変わらずの世間知らずの娘じゃの。街で生活しておる以上、郷に入っては郷に従え。儂らがいがみ合って何の意味がある?」

「……森を焼くドワーフと分かり合いたくもない。……出て行かないなら実力行使に出る」


おいおい、何やら剣呑けんのんな雰囲気になってきたんだけど。ダダンガさんは余裕そうに幼子を諭すかの様に言っているみたいだけど、フィーネは聞く耳を持っていないな。

…………。これは種族的ないがみ合いなのか?

あまり他人が口出しするのは良くないのかも知れないけどここは俺の屋敷だからな。…………。困った時は、助けてツバえもん!


「お止めなさい二人とも。これ以上主様にご迷惑をお掛けするのであれば私がお相手しますわよ?」


頭を立てに二回、横に三回振ってみるとツバキが止めに入ってくれた。…………。意思疎通ならぬ乳疎通か。以心伝心とはこの事だね。


「……竜人の戦士と戦う賢人はいない」

「儂は元から争っておらん。坊主も自分が雇った者ぐらいしっかり管理せんか」

「面目ないです。フィーネ、ハウス」

「……家は目の前。……先に家に帰れってこと? ベッドを温めておけばいい?」


「…………ツバキの殺気に怯まなくなってきたね。いいからこっちで大人しくしてくれ」

「……分かった。だから殺意を上げるのは止めて欲しい。……流石に無意識に体が震える」


「がっはっは! 森の子ウサギが随分と大人しくなったものじゃ! 坊主は良い飼い主になれそうじゃな、がっはっは!!」


ダダンガさんはシュンとなったフィーネを見て、太ももをバシバシ叩き盛大に笑いながら帰って行った。そしてダダンガさんを追いかける様に獣人の四人も走って行く。

…………。ダダンガさんにも殺気は飛んでいたはずだけど、普通に帰って行ったね。――流石は大工の棟梁、胆力が違うみたいだね。


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