第60話 孤児院1
食材選びはヨウコに任せて俺達は別行動をすることになった。ヨウコが一人の方がじっくり選べるからと言っていたからね。
…………。本音は俺達と距離を取りたかったんだろうな。一緒にいて奇異な目を向けられるのにイチイチ反応していたからね。
「――――でよ!?」
市場を散策しながら見て周りスラム街寄りに近づいて来た頃、子供のヒステリックな声が微かに聞こえた。
「…………。なんか聞き覚えがある気がした」
「ええ。数時間前に聞いたばかりですわね」
ツバキが指差す方向を見ると数人の子供が一軒の店の前に集まって騒いでいるのが見えた。
正面に立っているのは勇者《少年A》と少女A《悲劇のヒロイン》だ。声を張って言い合いしているのは少女Aの方みたいだな。
「うるせぇなー。営業の邪魔だぞ。ポーション欲しいならキチンと金持って来いって言ってるだけだろう」
「だから持って来てるでしょ!? 正真正銘の王国銀貨よ! 何なら削って確かめても良いわよ!! それに大銅貨十五枚と中銅貨五十枚あるわよ!?」
「はぁ、だからそれだけじゃ足りないって言ってんだよ。Eランクポーションは最低でも五万G。銀貨で言うと五枚。大銅貨で言うなら五十枚だ。分かったら大人しくFランクポーションでも買って行けよ」
「昨日は三万Gって言ってたわよ!! この嘘つき!!」
「おいおい、言いがかりは止めろよ? 昨日言ったのはたまたま手に入った安物があったからだ。Eランクの安いポーションが欲しいって言われたからそれを答えたけど、お前らが買っていかなかったんだろうが」
「……昨日はまだお金がなかったから」
「それは俺の知った事じゃないな。昨日のポーションはもう売れたんだ。今あるEランクポーションは最低でも五万Gだ。それに俺はお前らに売らなくてもいいんだ。あんまり騒ぐなら二度と販売しねぇぞ?」
「…………」
…………。ふむ。Eランクの一般販売価格は最低五万Gかぁ。――じゃなくて。
ポーションが欲しくて買いに来たけどお金が足りないって事か。……あの銀貨俺が投げたヤツかな?
「ツバキ? あの子らに間接的にでも怪我させた?」
殺気に驚いて倒れて骨折したとか。錯乱して周りのヤツから殴られたとか。
「主様に誓ってありませんわ。精神的には分かりませんけど」
…………。俺に誓うのって信じていいの? …………。俺に誓うのは女神に誓うのと同義ですか。そうですか。
でも女神って言ってもメルルに誓われても仕方がないと思うけど。アルテミリナ様に誓う感じかな。
【~~! ~~!】
聖なる波動を感じる。…………。最近よく感じるからありがたみも神聖感も薄れてきたな。もはやメルル感って感じだな。「あ、またメルルが覗き見してる!」って思う様になりそうだ。
「あぁ!? おにーさん! 丁度良い所にッィァ!?」
突然振り返り俺に気付いた少女Aが走って向かって来たが、俺との距離十歩分ぐらいの所でツバキの石弾を受けひっくり返った。
そして顔を抑えてのたうち回っている。…………。痛そうだな。不用意に近づいたらダメだよ?
「…………。ツバキも少女相手に石弾は酷くない?」
「彼女は少女という年齢では無いと思いますわよ? スンスンと同じぐらいですわね」
…………。…………は? え? うん? …………もしかしてスンスンと同じ小人族?
「メルになにしてんだ!?」
少年Aまで向かって来たぞ。他の子供は俺達に気付いて逃げて行った。…………まぁ、それが普通の反応か。
ツバキに怯むことなく向かって来たって事はこの少年も実は大人か?
「――――」
「ッ! ウ、ア、ぁ」
ツバキの殺気を受けて足が止まる少年A。少女Aの傍までは来てるしそれ以上近づく必要もないだろう。
「その少年も小人族?」
「いえ、人間の子供だと思います。そちらの女性は小人族ですね」
…………見て分かるんだ。俺にはどっちも同い年ぐらいの子供にしか見えないけど。
「っう、リク、待って。私は大丈夫だから。…………おにーさん、危害を加えるつもりはないから話だけ聞いてくれないかしら?」
「…………。さっき会った時と雰囲気が変わったな。やっぱり演技だったのか?」
「ええ。おにーさんもナイス演技って言ってたじゃない。それに小人族だってバレたみたいだしね」
本当に小人族なのか。こんな見た目で実はスンスンと同じ二十代半ばぐらいなのか。
…………。今後はツバキとシオンに小人族を見かけたら教えて貰う様にしよう。普通に騙されるぞ。
「なるほどね。それで話? あいにく俺には関係ない事だと思うな」
「子供の命が掛かっているのよ! それに人間族の女の子よ、外見は私ぐらいの年齢の子なの、お願い! 助けて!」
…………。演技には見えないけど騙されたばかりなんだよねぇ。……狼少女か。最後は本当の事を言っているわけなんだよね。
助ける義理はないけど聞いてしまった以上無視も寝覚めが悪いか。とは言え現金を払うつもりはない。
「…………。行っても良いかな?」
「主様の望むがままに」
「旦那様のやりたいようにしてください」
「……面倒事の匂いがするから帰ろう」
…………最後のエルフの言葉は聞かなかったことにしよう。ツバキとシオンと一緒なら何だって出来る気がしてくるね!
「よし、ならその女の子の所に案内して。嘘だったり罠だったりしたら俺はツバキを止めないからね?」
「ッ!! だ、だい、だいじょうぶ。誓って嘘や偽りじゃないわ。だからその二人を止めて」
うん? 殺気出てるのか。…………何か慣れて来たな。俺に向けられたものじゃないって知ってるし二人が居れば怖い物なんてないからね。
「二人とも真実が分かるまでストップ。フィーネは先に屋敷に帰る? あ、ご飯まだだったね。銀貨数枚渡すから好きな物食べて帰って良いよ?」
「……ごめんなさい。私も一緒に行く」
「良いの? たぶん面倒事だよ?」
「……ヤマヤマから離れるつもりはない。……ヤマヤマが行く所に私も付いて行く」
…………。あれ? 俺、使用人としてフィーネを雇ったんだよね? 使用人の仕事出来るのかな? …………ブレーンか。
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します(^^ゞ




