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第45話 まさか、ね?


「それで主様? これからどちらに?」


魔王城、もとい商業ギルドを出て街中を完全防御態勢「改」で歩く。

うん。ツバキはいつも通りだけど、シオンが右腕に抱き着いています。屋台でやってからツバキに対抗しているのかシオンは俺の腕に抱き着いて歩くようになった。ツバキと違って人がいる時とか邪魔になりそうな時はスッと離れるんだけどね。


ただやり慣れていないから少し歩き辛い。ツバキは歩幅も完璧なんだけどね。ま、美少女に抱き着かれているんだからこれくらい気にしないけど。


「スラムに行こうかと思ってる。獣人とかで仕事探している人がいるんだろ? ダダンガさんが雇っても良いって思える人もいるみたいだし良い人がいたら雇おうかなって」


竜人族はこの街にはツバキ達以外いないみたいだから獣人辺りを狙っているんだけど良い人いるかな。出来れば尻尾とケモ耳をモフモフさせてくれる人が良いな。…………勿論女の子だよ?


「…………人間族でなくて宜しいのですか?」

「うん。ま、いい人がいるなら人間でも良いけどね。二人も一緒に探してね。一緒に働いても良さそうな人」

「強い者は気配で分かりますわ」

「…………うん。任せる」


出来れば女性で強い人がいいな。亜人はツバキ達の魅力が分かるみたいだから一緒に生活させたくない。


「旦那様ご安心ください。私達竜人を変な目で見る種族は人間族ぐらいなものです」

「そうですわね。他の種族はどちらかと言うと畏怖の視線の方が強いですわね」


…………流石は最強種族か。


「旦那様、具体的にはどのような方をお求めですか?」

「うーん。とりあえず家政婦が出来る女性ひとと料理が出来る女性ひとと門番が出来る女性ひと、かな? 直ぐに集める必要はないから良い女性ひと見つかったらね」


「ふふふ。シオン? 貴女もうかうかはしてられませんわね」

「う、うるさいですよ! 旦那様、ここは私のポジションですからね」

「あら? でしたら私は左腕をキープさせて頂きたいですわね。主様が大きくなると背中からの護衛は難しいですわ」


右腕はシオンのポジションらしい。ツバキは背中といずれ左腕か。…………シオンがツバキぐらい大きくなって俺が余り成長しなかったらどうなるんだろう?


なんて不安になりそうなことを考えていたらスラム街に着いた。レベッカさんに軽く聞いた所スラムは奥に行くほど危ないそうだ。

犯罪を犯して逃げているヤツ何かが街からも出れなくてスラムの奥に潜んでいる事があるらしい。たまに警備隊がスラムの巡回をするそうだけど余り効果はないみたいだ。


まともな人物ならスラムに落ちても浅い方にいるだろう。少し散策しますかね。


スラムを歩いて分かったけどスラム街は旧住宅街みたいだ。三階建てぐらいの老朽化した建物がズラッと並んでいる。

建物の間に小道が多くあって迷路みたいになってそうだ。老朽化して住む人が居なくなった所に居場所が無くなった人が押し寄せているのか。


一応道端に寝転がっている人とかもいるけど敵意とかはない。ただ物珍しそうに俺達を見て来る。

…………。まぁ美女二人に抱き着かれて歩いているからね。


「――――お兄さん」

「うん? なんだ?」


俺より小さい子が両手を広げて近づいて来た。――が、ツバキの殺気によって止まった。


「ヒッ!」

「不用意に近づくのは止めなさいな。これは貴女の為でもありますわよ?」


ツバキさん、子供にも容赦ないっスね。いや物乞いに恵む物はないけどさ。


「お嬢さん、俺に何かようかい?」

「ぅ、お、お恵みを、下さぃ」


おぉ、ツバキの殺気が途切れていないのに一歩前に出て声を出したよ。

でも俺はただ施しを求める物乞いには何かを恵む気はない。 


「親はいないの?」

「いなぃ、孤児、だから」


孤児でスラムにいるのか。こんな小さい子がここで生きている? どうやって?


「主様、周囲に人が集まっています」

「…………敵?」

「いえ、子供かと。ただ普通の人間ならこの数には勝てないかも知れませんね」


ツバキの声に呼応するように十歳前後ぐらいの俺より小さい子供達が建物の脇からぞろぞろと出て来た。

おぉ一杯いるなぁ。…………。多いな!? 三十人ぐらいいるぞ!


「メルをイジメるな」


子供達の正面に立っていた年長の少年がそう言って木材片をこちらに突き出した。他の子も一様に石や木片を持っているみたいだ。確かにこれだけの数に武器在りで来られたら大人でもやられるかも知れないな。本気度にもよるだろうけど。


「イジメているつもりはないよ? まぁ、君らの言うイジメが施しをしないこと、を言うならイジメているかも知れないけどね?」


ツバキの殺気はイジメの部類に入るのかな? 恐怖? 脅し? 


「騙されないぞ! そうやって施しを渡すフリをして俺達を蹴るつもりだろう! もうあの女みたいなヤツは許さないんだ! みんな、やるぞ!!」


「「「おおぉぉぉ!!!」」」


…………。なに? 女? イヤ、やるぞじゃないだろ。勘違いで襲い掛かるつもりか?


「主様、敵と見なしますわ」

「……怪我をさせずに止められる?」

「では、真の恐怖を教えます。シオン、主様の頭を抱きかかえなさい」

「はい!」


おふ、ツバキが離れてシオンが体全体で包み込むように俺を抱き締めた。なになに? ここ天国?


「――――」


ッ!?!? な、なん、だ? こ、怖い? なにが? 体が震える。心臓が飛び出る。ここは地獄か?


「旦那様、気をしっかり持ってください。大丈夫です。旦那様に向けられたものではありません」


シオンの声が天使の囁きみたいに聞こえてくる。――意識が飛ぶ所だった。流石にこれで気絶したらカッコ悪いにもほどがあるだろ、しっかりしろ俺!! 

両手でシオンを掴み両足に力を籠める。どうにかシオンのお陰で持ち直したな。そしてそれと同時に恐怖が薄れた。


…………。そうか、これがツバキの本気の殺気か。

シオンに抱き抱えられて尚、これほどの恐怖を感じるのか? …………。子供死んだ?


気概きがいのある子が二人いますわね。戦士の素質がありますわ」


殺気による圧迫感が消えるとシオンが離してくれた。心臓がまだバクバク言ってる。やべぇ、シオンに支えてもらわないとまともに立てないぞ。


そして周りを見ると阿鼻叫喚、いや叫んでいるヤツはいないから地獄絵図の方か。

二人を残してみんな倒れて泡を吹いたり地面を濡らしたりしている。意識があるヤツも口を振るわせて動けないのに後退ろうともがいている。


立っているのは最初に声を掛けて来た少女Aとその後の少年Aだ。涙目で足を振るわせているけど、目は死んでいない。

…………。ヤバい、マジで子供を尊敬してしまった。すげぇよ、お前ら。あの殺気をまともに喰らってまだ立っているとか。マジで尊敬するぞ。


「旦那様、どうしますか?」

「どう、って?」

「敵対者に対する措置です。旦那様が怪我をさせずにと言っていたのでお姉さまが止めましたがこの後の処遇をどうしますか?」


いや、これ以上ないほど叩きのめしているよね? これ以上は流石に良心的に無理ですよ?


「…………お前ら、これ以上向かって来るなよ。俺達は別に何もしないから」


もうやった後だけど。


「ふー、ふー、ふー、お、俺は、みんな、守るッ!!」

「待って! リク! この人達は違うよ!! こんな凄い人があんなことするわけないわ!!」


血走った目をした少年Aがツバキに飛び掛かろうとして悲劇のヒロインぽい少女Aがそれを止めている。うーん。映画のワンシーンみたい。


「まだ来るなら容赦はしませんわよ?」

「待ってください! ごめんなさい! 私が勘違いしたんです、皆は悪くないんです!」


……ウーン。少女Aが役者に見えてきた俺は心が腐っているのかな。私が皆の分の責任を取ります! ってか?


「私が皆の責任を取りますから皆に手を出さないで!」


「…………」


俺は何もしないって言ってるよね? 別に俺達は立ち位置を動いていないし殺気も止まってるからね。それなのに「やめてぇ!」って感じで煽ってくるんだが。なにこの子?


「どうしますか?」

「…………付き合ってられない。少女A、ナイス演技。おひねりは直接で良いかい?」


主演女優(悲劇のヒロイン)に報酬を渡そうと思い、返事を待たずに少女Aへ銀貨を一枚親指で弾いて投げた。

――そして少女Aのだいぶ手前で落ちた。


…………。しょうがないだろ!? 練習してないし!!

少女Aも銀貨に気付いて直ぐに拾ったから問題ない。


「喧嘩を売る相手は選びなさいな」


…………。ツバキの言葉を聞いて何かが引っ掛かった。


もしかして選んだ結果が俺達だった? 殺されず、最後に謝礼をくれるような甘そうな人間、とか?


…………。まさか、ね?

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