第24話 ブルジョア
「ゴホゴホ、旦那様、申し訳ありません」
ミリスさんと別れてから宿屋に戻り高級宿ならではの豪華な夕食を済ませて部屋に戻る途中にシオンが倒れてしまった。ポーションの効果が切れたみたいだ。
次のポーションを飲む様に言ったのだが、連続して飲むとポーションに慣れて効果が減ってしまうので数時間は間を空けるとのこと。
普通の病人であれば連続して飲んでも悪影響はないのだが、邪神の呪いによって完治しない病に掛かっているシオンは常に連続で飲むわけにはいかないそうだ。
怪我の場合は傷を癒す効果が薄れることはないのだが、シオンの場合は身体を蝕んでいる呪いを押さえる為にポーションを服用しているので効果が減ってしまうそうだ。
ツバキは慌てた様子もなく慣れた手付きでシオンを抱きかかえたので急いで部屋に戻りベッドに寝かせる事にした。
「気にしなくていいよ。それより連続で飲めないのならもっと効果が強いポーションの方が持続時間が長いのかな?」
「先ほど頂いたポーションでも十分過ぎるほどの効果でした。普段飲んでいたポーションは三十分も持ちませんでしたから」
それは酷いな。連続で飲めない上に三十分も持たないって……。俺が渡してから四時間ぐらいは経っていると思うけど、さっきのがDランクポーションだから普段はCランクかBランクポーションを渡すかな。
明日の朝にAランクポーションを飲ませて見て完治するか試してみよう。どうせ高ランクポーションは売り先もないからな。毎日の制限もあるし作って保管するか、シオンに飲ませるかしかないから問題ない。
「主様、奴隷館で頂いていたポーションはGランクかFランクポーションの低品質だったと思いますわ。先ほど主様がシオンに下さったポーションはもしかしてDランクポーションだったのではありませんか? それも高品質の…………」
「品質は知らないけどDランクポーションだよ。明日からはCランクポーションを渡すよ。効果時間が延びるといいけど」
ポーションのランクにGランク何てあるんだな。メリリから聞いたのはFからSまでだったけど。そういや使徒になったらSランクも作れるようにしてくれるって言ってたなぁ。出来れば遠慮したい所だけど。
ギルドでも品質が良いとか言ってたけど、どうなってんのかね。女神様の作った魔法で生み出されているんだから高品質なのは間違いないよね? 明日ギルドで聞いてみるかな。
「…………主様、実は奴隷館で貴族の方と話している内容が聞こえていたのですが、Cランクポーションは月に二つが限界だったのでは?」
え?
……会話が、聞かれて、いた?
――俺、確か二人を買う理由に「強いて言うならツバキさんのお胸でしょうか」って言ったような。
――――だからツバキが俺に密着したり頭に胸を置いたりしているのかぁぁぁぁぁぁ!!
そうとも知らずにたまに頭を揺すって胸の感触を楽しんでいた俺って…………ヤバい恥ずかしい! ツバキ達の顔をまともに見れない!?
そう言えば奴隷商でツバキ達の部屋に戻った時にツバキが俺を見てニヤニヤしていた気ががが。
いや、される事は事態は嬉しいんだよ? ただ男同士だからと思って言った事を女性に聞かれていて温かい目で見られるのは耐え難い羞恥心ががが。
「旦那様、お姉さまは別に旦那様が言った事を聞いたから胸を乗せていたわけではありませんよ。あれはただ楽がしたいが為の行為です」
「そんなことはありませんわ。主様が私と同じ事を望んでいると聞いたからやったのですから。自分の姉を変態のように言わないで下さいな。それで主様、妹の為とは言え主様が貴族の方との契約を違えるのは見過ごせませんわ。今までも低ランクポーションでやり繰りしてきましたの。ですからFランク、良ければ低品質のEランクポーションを頂ければ私達との約定も違えませんわ」
「……うん? あぁCランクポーションについては問題ないよ。日に四本は作れるから。メルビンさんに月二本って言ったのは作るのが難しいと思わせる為だよ。あと百本納品するのに時間が掛かると思わせれば契約に頷いてくれると思ったからね」
誰も毎月二本納品の五十ヶ月掛けての納品とは言ってないよ? 貴族側の動きが怪しくなりそうならさっさと百本分納めて契約を終わらせるよ? ひと月で百本以上作れる計算だから順調に溜めればひと月後にはノルマ達成だね。
借金に関しても毎日今日と同じ量のポーションを持って行けば月に九百万Gになるし、たまに高ランクポーションを混ぜればそれ以上の売上だからね。それに自分で実際にポーションを作ってみようとも思っているからその分も上手くいけば追加収入だ。
「…………日に四本も、可能ですの? 私は薬師には余り詳しくはありませんけど」
「うん。そこは問題ないよ。ただ納品の分を確保したいからCランクポーションは一日一本、Dランクポーションを数本渡すよ。それでやり繰りしてね。使うタイミングは二人に任せるけど、勿体ないとか、我慢できるとかは無しで。Cランクポーションは一日一本必ず使う事。いいね?」
病気なんだから薬を毎日飲むのは当たり前だろう。…………俺は医者じゃないけど、今は薬師だしこの世界では医者みたいなもんだろう。副作用もないなら飲んだ方がいいはずだ。
「ありがとうございます」
「感謝いたしますわ」
「良し、それじゃこの話は終わりだね! えーと、あ、そうだ! ツバキとシオンも外を歩いて汗かいただろ? 水とタライを貰ってくるから身体を拭きなよ。俺は下の共同スペースで済ませるから」
今二人と一緒にいるのは少し気まずいと思っていると夕食前にフロントマンに教えて貰った事を思い出した。
この宿にはお風呂がない。いやこの国で風呂を備え付けているのは王族や貴族の屋敷ぐらいなものらしい。一般的には濡らしたタオルで体を拭くだけで済ませるそうだ。
…………日本人としては受け入れがたい文化だな。湯舟とは言わないからシャワーをくれ。
「そんな旦那様にその様なお手を煩わせるわけには――」
「いいからいいから。あー、悪いけどツバキは水とタライを受け取りにフロントまで付いて来て。シオンの世話は任せるよ」
普通は宿の共同スペースの軽く仕切られた浴室で体を拭くのだが、若い女性やお偉いさんは自室で行う為にタライをレンタルするそうだ。
本当は俺もむさ苦しそうな共同スペースなど使いたくもないし、ツバキとシオンに優しく拭いて貰いたい所だけど俺のチキンハートはまだそこまでのプレイをするにはレベルが足らないようだ。
咳込みながら食い下がろうとするシオンを寝かせてツバキとフロントに向かいタライとタオルを借りる。熱の魔石なる水を温める魔石もあったので二人のタライに放り込んでおく。
支払いはギルドカードで済ませるが残金が幾ら残っているのか不明だ。さっき街中でも買い物をしたのだが、銀貨やギルドカードで支払いをしているとお金を使っているって気がしないから欲しいだけ買っているんだよな。どうせ明日にはまた補充されるしな。
……言葉にするとすげぇブルジョアになった気分だ。そんな感じはしないのに。




