第13話 奴隷商1
メルビンさんに連れて来られたのは西区にある二階建ての建物だった。周りの建物に比べて倍近く大きな建物だ。
ここが奴隷商なのか。ここに来るまでにメルビンさんに簡単に奴隷について教わった。
まず奴隷に虐待や残酷な仕打ちなどは許されない。これを破ると最悪犯罪者になることもあるそうだ。
ただし奴隷には過酷な労働条件での働きを強要されるそうだ。
衣食住は平民下層程度には用意する必要があり、怪我をした場合は治療をする必要があるとのこと。
その代わり奴隷には自由はない。働く、食べる、寝る。それだけだ。
奴隷を雇うには二種類の方法があり、一つは奴隷商から派遣されるレンタル型。所有権は奴隷商にあるので非道な行いや怪我などをさせた場合は罰則がある。
もう一つは奴隷商から買い付ける購入型。所有権を購入者が持ち、奴隷の衣食住を管理する必要がある。死なせた場合は原因を調べられ所有者に罪が合った場合は処罰を受けることもある。
奴隷は魔導具によって拘束されているため主人に危害を加えることはできない。奴隷には給金を支払う必要がある。奴隷は働いて得た給金で自身を買い戻す権利がある。
簡単にだけどそんな感じらしい。俺の護衛に勧めた理由としては奴隷は待遇を良くするだけで主人に良く尽くすことになるからだそうだ。主人はいつでも奴隷を売り払うことが出来るから自分に良くしてくれる主人には出来るだけ良く仕え捨てられないようにするそうだ。
「ヤマト君なら奴隷に酷い扱いはしないでしょう。それどころか自身と同じ生活ぐらいさせそうですね。ははは」
メルビンさんは笑っていたけど、自分だけ良い生活して同居している奴隷には劣る生活を強いるって難しいだろ。護衛として日夜警護してもらう身としては最大限のおもてなしが必要なのでは?
――なんて、思っておりました。
「げっへっへ、坊主! 俺を雇えばラクにしてやるぜぇ、げへへへ!」
「ガキ! 俺を出せや! コロスゾ!!」
「アラ? 可愛い坊やだコト。オネエさんと良いことする?」
…………。こんなのと一緒の生活とか不可能だろう。最後の男だからね、おっさんだからね。おえぇぇぇ。
一応鉄格子越しで安全なんだけど目と耳への備えが不十分みたいだ。
「…………いつ来ても酷い所だ。ヤマト君気をしっかりと持つんだ。ヤマト君向けの比較的まともでありそうな期待が持てるかも知れないナニかを探そう!」
「無理でしょ! てか男、おっさんしかいないんですか!」
「若い男は戦力にもなるから傭兵とか軍隊とかが持って行くんだよね。女性は女性ならではの仕事があるからこことは別の商会だね。ここは戦闘向きを扱う奴隷商だから。この建物は余り物が残っている倉庫みたいなもんだよ」
夢も希望もないご説明ありがとうございます。…………マジでこんなところで探すのかよ。
「メルビン様、ヒドイ言われようですな」
「やっと来たのかい? 連れの子供が怯えてしまったよ?」
「おや? 君はさっき門の所にいた子だね」
「え? あ、オジサン。え? ここオリビン商会なの?」
街に入る前に初めてこの世界で会話したオジサンが立っていた。仕事が見つからないならオリビン商会を頼って来なさいって言われたけどまさか幼気な少年をこんな施設で働かせるつもりだったのか?
…………。それとも奴隷に落とすつもりだった、とか?
「ヤマト君。こんな顔しているけど、この人も一応役人だよ。奴隷商は領主が管轄しているからこの人も領主臣下なんだよ?」
「ヤマト、様とおっしゃるのですね。良く他の国から来られた方は勘違いされますが、この国、特にこの街の奴隷商は健全ですよ。犯罪奴隷か借金奴隷しか扱っておりませんし、奴隷に関しては刑罰の意味合いが強いので非人道的な行いは行っておりません。他国では解放は滅多に行われないと聞きますが、この国では買い戻し制度が導入されているので大半の奴隷は数年で解放されてそのまま就職することになりますよ」
刑罰の一環として奴隷にするのか。まぁ無駄に牢屋に繋いで無駄飯食わせるよりは働かせて刑を全うさせた方がいいか。それに数年も働いたベテランなら解放後もそのまま雇った方が良いだろうしな。
「でもこんなむさいおっさん連中を使いたがるモノ好きがいるんですか?」
「ははは。彼らでも鉱山や治水、開拓には引っ張りだこさ。言っただろ、管轄は領主だ。領地の開発に労働力は必要不可欠だからね」
あぁ、だから余り物が残っているのか。ここにいるのは領地開発要員でまともな奴隷は別の商館なのね。ただ戦力になり得る者はこの商館に集められているから頑張ってまともそうなのを探そうと。おっさん連中からしても重労働の領地開発より子供の御守りの方が万倍マシってことね。
「それでメルビン様、本日はどのようなご用件でしょうか? 兵士の訓練には時期が早いですよね?」
兵士の訓練に奴隷をレンタルしているのか? …………悪人顔だし、対盗賊戦を想定して訓練したら捗りそうだな。
「今日はこの子ヤマト君の護衛を探しに来たんだよ。彼はポーション職人だ。案内してくれるかな?」
「――なるほど。では、彼女達ですな?」
彼女達、彼女、つまり女! ここに女性がいるのか! まさかの女神降臨! こんなむさ苦しいおっさん連中を見た後なら余程の肥満体でも満足できそうだ!
オジサンについて二階への階段を昇って行く。おっさん連中がいたのは一階だけで二階は女性用らしい。それを早く言えと思っていたらここは力仕事や戦闘用の奴隷を収容する施設だから女性が滞在するのは稀らしい。
現在滞在している女性も二人のみ。それも姉妹らしい。力仕事が出来て戦闘も可能な女性…………。女プロレスラーみたいな感じか。…………夢を見るのは止めるんだ。きっと想像を超える凄まじいモノが待っているんだ。そう思わないと落差のあまり女性の前で泣き崩れるかもしれない。
「ここです。彼女達に敵意はありませんので牢には入れておりません。ヤマト様であれば問題ないと思いますが…………奴隷に対して願うことではありませんが、彼女達へは誠意のある対応をお願いします」
誠意のある対応? …………巨漢の女? 超絶肥満体? 人なのか見分けが付かない女? …………おばさん? 年増? くそ、分からない、オジサンは俺を混乱させて何がしたいんだ?
そんなことを考えているとオジサンが部屋の扉を開いた。四畳ぐらいの手狭な部屋。ベッドが一つあるだけの窓も何もない空間。
そこに二人の美女がいた。
連続投稿終了。明日からは一話ずつ投稿予定です。
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