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第10話 格差

「すまなかったな。しかし、セルガに手を出したらお前さんもただではすまんかったぞ?」


キチガイ野郎がギルドを出て行き、受付嬢は「私は世間知らずのお子様の相手をするつもりはないでーす、休憩~」とか言って窓口を閉めてどこかに行った。ポーションの買取は一番窓口でしろと言っていたけど、どういうつもりだ? マジで頭湧いてるのか? 何て思っていたら警備員のおっさんが少し事情を話してくれた。


あのキチガイ、セルガは男爵家の次男で男爵付きの薬師に弟子入りした薬師界の期待のホープなんだとさ。この街ではかなりの腕前でそろそろ弟子を卒業して貴族家の専属になるとか噂されているみたいだ。


そして頭の湧いた受付嬢ことリンダはセルガの恋人で最近はセルガの活躍もありセルガ専属の受付嬢を名乗っているらしい。セルガはまだDランクであり、専属受付嬢が付くことはないのにあの二人は既に自分達が専属だと思っているそうだ。


ギルドとしても貴族家であり薬師の期待の星を蔑ろにするわけにはいかず、周りに被害が及ばないように調整しながら静観しているみたいだ。…………俺に被害が出たけどなッ!!

   

「…………ごめんなさい。――まさかアレが窓口に居たとは思いませんでした。申し訳ありません。今回の買取り査定は私が担当致します」


俺が商業ギルドに対しても怒りを募らせていると先ほどギルド証の手続きをしてくれた専属受付嬢のミリスさんがやって来て一番窓口に座った。


…………さっきまでの俺ならアバズレ女が受付を続けていたならCランクポーションを叩きつけるぐらいしたかも知れないが、狂った似た者同士が居なくなり多少は冷静になった。ミリスさんが受付をするなら文句をいう訳にもいかないからな。


そして冷静になった頭で考える。さっきまではDランクポーションを生み出せるだけ出して買い取らせようと思っていたが、今の状態でそれは危険を伴う恐れがある。

自分が馬鹿にした子供が自分より優れていることを知った蛆湧きセルガが何を考え何を引き起こすか分からないからな。


先ずは自衛手段を確保してギルドでの功績を徐々に集める。理想は商業ギルドや男爵以上の貴族が俺の後ろ盾にならざるを得ない状態に持って行き、満を持して高ランクポイントを叩きつけ、頭の湧いた狂った男女と同じ街に居たくないと別の街に行く。必死に引き留めるギルドと貴族があの二人に如何な処遇を与えるのか高笑いしながら見てみたい。


…………ま、それやったら俺の身柄が貴族やそれ以上に拘束されかねないからしないけどね。…………やるなら貴族でも手が出せない情勢にしてからだ。ふふ、ふふふふふ。


「…………買取りしますか?」


おっと、思わず自分の世界に入ってしまった。しかし、今後を考えるとDランクポーションは出さない方が良さそうだな。服の下でFランクポーションとEランクポーションを作成するか。


「します。えっと、これをお願いします」


服の下から取り出すはポーション瓶三十本。両手で持てる数出てこいって思ったらFランクポーション18本とEランクポーション12本が出てきたようだ。それをそのままカウンターに置くとミリスさんと警備員のおっさんが唖然として見ていた。


…………そうだよね。どうやったら服の下からそんな数のポーションが出て来るって言うんだよ!? やべぇ、やっちまった! 今すぐ逃げ出したい。でもここは何知らぬ顔で対応するしかない。


「――ご確認します。…………品質いいですね。これなら、先ほどの失態のお詫びも込めてこの金額でお買い上げ致します」


ミリスさんはポーションの数には何も言及せず粛々と確認作業をしてくれた。うん、プロだね。さっきの女とは大違いだ。

査定が終わったミリスさんがカウンターに革袋をそっと置いた。ズシッとした感じからそれなりの硬貨が入ってそうだ。

商品の確認や金額を口頭で言わないのは周りに人の目があるからみたいだ。目立ちたくないから丁度いいな。


「他の商品も査定致しますが如何でしょうか?」

「え? 他?」


革袋を開けて銀色の硬貨を見て異世界の銀貨キターって思っていると笑顔のミリスさんが問い掛けて来た。

確かに最初出す予定だったFランク、Eランク、Dランクポーションが三本づつ懐にまだあるけど、今からこれを出すのも気が引ける。Dランクポーションはしばらくはお蔵入り決定したしな。


「いえ、今の手持ちはこれだけでして。ところでこの街の宿はこれ一枚で何泊ぐらいできますか?」

とりあえず話を逸らそう。市場相場も知りたいし一石二鳥だね。ミリスさんなら俺がこの街の外から来たって知っているし変には思わないだろう。


「そうですね、平均的な宿で二泊。高級宿でしたら銀貨二枚と言った所です」


革袋には銀貨が三十枚入っているみたいだから六十日は宿の心配はいらないみたいだ。いや、食事や生活用品とか必要な物があるだろうからそれ以下だろうけど。でも一日の売り上げが最低でも銀貨三十枚以上は決定だな。……ポーションが一日毎のリセット方式ならだけど。 


「あと、お渡ししたお金をギルドカードに入金することも出来ますが、如何でしょうか? ギルドカードが使えないお店もありますので数枚は持っていた方が宜しいかと思います」


折角なのでお願いした。今後は売却金を入金したい時は商品を出すときに言うか常時入金を希望するように言われた。普通は全額入金して必要に応じてお金を引き出すらしい。とりあえず銀貨十枚をポケットに入れて残りは入金、今後は常時入金されるように手続きをして貰った。


一番窓口は人が少ないけど他の窓口は人がひっきりなしにやってきている。硬貨を受け取っている人は全然いないみたいだしこれがこの世界の常識なんだろう。一々お金を用意するのも面倒だろうしね。


「…………ヤマト様、あちらの十番窓口が薬草など薬師向けの商品を扱っている窓口になります。通常はEランクから購入可能ですが、先ほどのお詫びと申し上げるには不躾ですが、私の方で手続きをしておきますので是非ご活用下さい」


薬草か。そういやポーションの作り方ってどうやるんだろう? …………流石に聞くわけにはいかないよな。でも薬草を仕入れとかないとどうやって作ってるんだって話になるよな? 

…………機材が必要とか言わないよね? メルビンさん辺りに話を聞かれたら俺が手ぶらでこの街に来たってバレるからな。

うーん、とりあえず薬草を適当に仕入れよう。無駄にはなるけど必要経費と思って割り切ろう。


ミリスさんに案内してもらって十番窓口にやってきた俺。ミリスさんは窓口の受付嬢にEランクとして購入されて欲しいとお願いしてから退席した。俺に長々と構っていられるほど暇じゃないだろうからね。…………専属受付嬢って言うぐらいだから専属者が居ないと暇か?


「いらっしゃいませ。本日はどの商品をお求めでしょうか?」


おっと、馬鹿なこと考えている場合じゃなかったな。さて、カウンターにはメニュー表やカタログなどは一切ない。どの商品と言われても何の商品があるのかも扱っているのかも不明だ。うん、初心者に優しくない経営だね!


「えっと、薬草を欲しいですけど」

「はい、どの薬草をお求めですか?」

「……とりあえずEランクポーションに必要な薬草をお願いします」

「は? ……コホン。私共は薬師の知識はありません。必要とされる薬草名を仰って頂ければご用意出来るか調べます」


何かすげぇ胡散臭そうな顔されたんですけど。すぐに笑顔に変わったけど作った笑顔感が半端ない。相手にするのが嫌だと言わんばかりだ。ちくしょう、こうなったら必殺、メニューの上から下まで全部頂戴、作戦だ!


「えっと、薬草の名前を教わっていないので現物を見ないと判断出来ないんですよ。とりあえず全種類をこのカードの残高分で売ってくれませんか?」

「お断りいたします」

「え?」

即答? お金が足りないってわけじゃないんだよね? なんか受付のお姉さんの目つきが酷くなってきてますよ。呆れを通り越して汚物でも見るみたいな。俺って今は幼気な少年だよね?


「貴重な薬草を知識も定かではない者に売るわけにはいきません。貴方が無駄にする薬草で幾人の人達が助かると思っているのですか? そもそも貴方は本来Fランクでしょう? ミリスさんがどういうつもりで購入を許可したのか知りませんけど、貴方本当に薬師の弟子ですか? 普通は薬草の知識を覚えてから正式に弟子入りになるはずですよ? 薬草の知識もないのであれば正にFランク、購入する資格はありません。そもそもEランク相当だとしても薬草全てを購入なんて資格はありません。……その程度で良くセルガ様に反抗しようと思いましたね? 威勢だけの貴方に薬草を売ってくれる商人がこの街に居たらいいですね」


何だか凄い言われようだ。実際正論だし怒るつもりはないけどさ。薬草の知識は全くないし、薬草も無駄に捨てることになったかも知れない。弟子入りもしてないしする必要もないからな。ただ仕入れをしないとどうやってポーションを作っているんだって話になりそうなだけだしな。


それにしてもここでもランクによる格差か。確かに知識の無い低ランク者に貴重な薬草を売るのは勿体ないんだろうけど、それじゃ技術の向上には繋がらなくないか? ま、俺には関係ないけどさ。


ただ良い情報も聞けたな。街にも薬草を扱っている商人はいるみたいだな。なら「実は街の商人さんに都合を付けて貰ったんですよー、誰だかはどこぞの貴族から報復があったら困るから教えませんー」って言い訳が通じるな。よし、ならここですることは終わりだ。


「分かりました。それでは街で探してみます。ありがとうございました」

「え? ちょ、ちょっと…………」


何か言ってるけど無視しよう。売らないって言ったくせに引き留めようとするなよ。…………あぁ、商談のテクニックの一つだったのか? 売らないって言って俺からそれでも売って欲しいと言わせて吹っ掛けた金額を付けるとか。うん、ギルドは余り信用しない様にしよう。ポーションを売るのはギルドだけみたいだから仕方がないけど必要以上に関わらないようにしよっと。


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