第6犯 バイコーン登場事件
クソガキ、参戦!
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「バイコーン!? ヤベェのか!? こいつは!」
「こいつが出るだけで街や国に災厄が訪れるとされているな。因みに人間の戦場を散歩ついでに蹴散らす位は強いな」
「おい、お前でも苦戦するのか!?」
「多少手こずるが、勝てる」
「あっ、そっかぁ。じゃあ殺せ」
「待って!? 僕の事を勝手に雑魚扱いしてます!?」
ん? こいつさっきまでの余裕に満ちた声じゃ無くなってるな。
アンドラスにビビったのか?
「流石に、悪魔は僕でも殺されちゃうから手出ししませんよ。やだなぁ、そこの貴方の懐にある良い臭いの物が欲しいだけですよ」
こいつ、もしかして。
「おい、人間の姿じゃないとこれは食えないぞ?」
「丁度良いや、僕は人間の姿にもなれるんですよ。角はそのままですけどね~」
人間になったそいつは見た目13歳程の男の子の様な見た目へと変貌した。かなり美少年だな。人懐っこい笑顔を振り撒いているが、どうもあざとい。やっぱり子供のバイコーンだったのか、それでも獣形態はでかいな。
「これだから、バイコーンは子供と大人の区別がつかんのだ。ある程度育てば体格は変わらん」
「へー、そうなのか。どれどれ? レベルは?」
バイコーン
レベル50
スキル
処女探知。状態異常無効。電撃。獣人化。高速移動。
「む? 若造の割には骨のある奴だ」
「そんなの関係無いですよ。僕は僕なんだし、群れから放り出されても、一人だって平気だよ」
拗ねてる。
こいつ、バイコーンの中でも天才なんだろうな。若いのに強くなって将来的にヤバいと切って捨てられたか。
「それよりも! 早く下さいよ! 美味しそうな匂いの食べ物!」
参ったな。星野さんから選別で渡されたピザパンの事を言ってるのか?
「小僧、今なら許してやる。失せるのだ」
「そ、それは嫌だ! 僕はもう何日も食べて無いんだ! そんな美味しそうな匂いをちらつかせて! 僕を殺す気ですか!」
鳥になったアンドラスがバイコーンを睨み付けるが、膝を震わせながらもバイコーンは気丈にアンドラスを睨み返す。タフな野郎だ、将来は良い男に育つだろう。
ここで捨て置くには惜しいとみた!
「お前が欲しいのはこれだろ?」
俺はピザパンを取り出すとバイコーンにちらつかせる。
彼はヨダレを垂らして飛び付いてきた。
「下さい!」
「条件がある。俺の旅に同行しろ」
「おい! バイコーンを連れて歩くと言うのか!? 厄災の前兆とされる魔獣だぞ!」
「お前は国を滅ぼす怪物だろうが。それにこいつは将来は良い男に成長する。捨て置くのは惜しい」
俺はバイコーンをかわしながらアンドラスに答えると、バイコーンに再び問いかける。
「どうする!? さぁ!」
「え? 着いていっていいんですか? ついて行きますよ! ん? あれ? なんか、変だな」
「む? あぁ、小僧。お前はこの男の従魔になったぞ」
「何でぇ!? 長が従魔になると不幸しか無いって!」
「いや? 案外面白い事になるぞ? つい最近も上手い飯にありつけたしな」
「犬と呼んで下さい」
子供の姿のバイコーンが土下座していやがる。これは非常によろしくない光景だ。
俺はバイコーンを持ち上げて立たせると、ピザパンをやった。彼は嬉々として袋ごとパンにかじりついた。
「むえ? なんだ? 味がしないです」
「袋を開けるんだ」
俺は袋を開けてバイコーンに渡すと今度こそ美味しそうにむしゃむしゃと食べ始めた。
こいつは何を対価にするんだろうな。
「おい、対価を言え」
「お姉さん」
「あ?」
「優しいお姉さんが欲しい。僕を可愛がってくれる人が欲しい」
「ピザじゃねぇのか?」
「優しい人なら僕に食べ物をくれるでしょ?」
こいつ、やっぱり子供だ。
いや、俺の世界の13歳はここまで子供じゃねぇ。お母さん離れする時期だ。
もしかするともっと子供なのかも知れないな。
「はぁ、奇しくもお前と対価は似ているな」
「ふざけるな。この小僧、役に立つのか?」
俺は名残惜しそうにピザパンの袋を覗き込む姿にかつての弟の姿を重ねていた。やべ、泣きそう。
俺はアンドラスのアイテムボックスから星野さんから渡されていたパンを何個か引っ張り出すとバイコーンへと投げ渡した。
「食えよ。それと、この兵隊どもを倒してくれてありがとうな。行こう、先は、まぁ歩きながら決めるか」
俺はそう言うと没収された装備を回収すると取り敢えず歩き出した。その後ろをアンドラスとバイコーンが着いてくる。
「ご主人の名前は何です?」
「俺はククルス・ゼァーク。本名は田中乙哉って言う、まぁ好きに呼べ」
「じゃあ、ご主人」
「お前は?」
「名前? 無いよ。バイコーンは名前をつける習慣は無いんだ」
「ならばお前はツインだ。角が二本あるから、ツイン。アンドラスとは仲良く出来そうか?」
「我はこのような小僧を苛める程小さくないわ」
「よろしくお願いします、アンドラス様」
「む? え、えらく素直な小僧だな」
こいつは自分より強い奴には素直なんだろうな。それ以外は蹴散らすタイプだ。
「さて、どうしたものかな」
「ご主人、この先の森を抜けると国境です。その先には名前は忘れましたが、国がありました」
「よし! そこへ行こう! ツイン! 道案内よろしく!」
「チーズとお姉さんのために頑張ります!」
「この、ガキ。おい、如何わしいことしないよな? そのお姉さんに」
「? 撫でてもらったり、構ってもらえれば嬉しいだけです」
こいつはそう言う意味では安心かもな。
俺はそう思いながら森への道を歩き始めた。
結構大人のイケメンを仲間にしようかなって思ったんだけど、なーんか華がないなーって
今作の癒し枠です