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第4犯 料理談義事件

独断と偏見の料理談義。


1


 しばらくしてアンドラスが帰ってきた。

 返り血はなし、どうやら殺してはいないらしいな。


「恐ろしい幻覚を見せてやった。これで部屋から出てこれんだろうな。ふん、我の食事を邪魔するとは舐められたものだ」

「へー、お前殺さなかったのか? 意外と常識的だな」

「いちいち虫に目線を合わせてやるのだ。少し位は慈悲をやらねば我の沽券に関わる。おい、店主。食前酒を」

「ビールでいいですよ」

「ん? お前の世界の食前酒はそんな名前なのか」


 一人で納得したアンドラスだが。


「はーい、ビールですね。居酒屋っぽいけどなんでもありますよ」

「ん? 聴いたことないな。お前たちの世界の食前酒か?」


 目の前に出されたジョッキに入ったビールを見て、アンドラスは小さくため息を吐く。


「エールか、人間らしい」

「バカにするなよ? この世界のエールってのが旨いかはわからないが」

「ふん、少し飲んで不味かったらもう口にしないからな・・・・・・あー、旨いわこれ」

「堕ちるの速いな」


 文句を言いながらビールを飲んだアンドラスは流れるようにすんなりと旨いと認めた。この悪魔、変な奴だな。

 次に出てきたのは、唐揚げ。星野さんは少し微妙な顔をしているが、俺は迷い無く勧める。


「唐揚げって料理だ。俺の国じゃ、ガキでも知ってる超定番料理だった。これが旨く作れるか、作れないかで嫁を決める男もいた程だぜ?」

「これは、鳥か?」

「あぁ、すまん。共食いになっちまうな。こんなに旨いのに」

「これは・・・・・・旨い! 我も長く生きているが、こんなにも不思議な食感の肉は始めてだ!」


 食いやがった! 鳥が、鳥を!


「おい、大丈夫なのか?」

「ふん、我にとって弱者は全て食い物よ。人間でも鳥でも食ってやろうぞ?」


 俺はその脅しを鼻で笑うと唐揚げについて話始める。


「唐揚げは俺の国では子供が好きなものランキングで常に名前を聞く程の料理だ。夜中に起きている奴にこいつの画像と、揚げる音を聴かせようものなら殺されても文句は言えんな。調理にも様々な工夫があってな、味を変える事が出来る。例えば、この唐揚げは生姜が入っていてな」

「ほう? 味を変える? 店主、味を出来るだけ多数用意してくれ」

「はーい! 嬉しいです、お口に合って」

「ふむ、そうだな。パンはないか? 主食がないと云うのへ寂しい」

「そう思いましたので、唐揚げでしたらご飯で」


 アンドラスは米に怪訝な顔をしている。俺は構わず箸を渡すとアンドラスはまた首を傾げた。


「穀物か? ふむ? この棒は何だ?」

「箸は難しいか? こう使う」


 俺は実際に使って俺の分の唐揚げと飯を食う。それを見てたアンドラスはふっ、と笑うとあっさりと箸を使いこなして米を口に運んだ。天才肌の悪魔は器用だな。


「んん? 味が薄い? 調理はしてないのか?」

「パンは何かと一緒に食うだろ? それと同じだ」

「成る程、唐揚げと合うのだな?」

「ビールもな。かなり贅沢な飯だ、俺は運が良い」

「店主、待ちきれん! 罪なものよ、これ程の飯は!」


 唐揚げを堪能しているアンドラスを尻目に俺は星野さんに何気なく話を振った。


「星野さん、唐揚げって子供が好きってイメージだけど、大人になっても変わらないですよね?」

「そうですね、私は子供のころから好き嫌いが全く変わってません。子供舌なんですね、今でもコーヒーとかも甘いのが好きです。でも、ブラックの味わい深さも理解できるので、そこは大人になって良かったところですね」


 アンドラスはその言葉に興味を持ったようだ。話に割り込んできた。


「そ、そのコーヒーとやらは旨いのか? どう喰うのだ? どうやら味が二種あるのだな?」

「これは飲み物だ。紅茶に並ぶティータイムの二台巨頭で、子供と大人で味わい方が変わるんだ。大人になっても子供と同じ飲み方をしても良いし、子供にとっては大人のコーヒーは幼き日の小さな挑戦となる」

「紅茶? 貴族共が飲むあれか、あれもなかなか良いが。そうだな、気になる。紅茶とは違うのか?」

「紅茶は、葉から作るだろ? コーヒーは豆だ。俺の国では紅茶もコーヒーも市民が口に出来ていた。希少な物でもなかったからな。俺はコーヒーの方が好きだ、学生時代に大いに世話になり、働き始めてからはもはや相棒だ」

「ほう? 働く時にも使うのだな? 食後に合うか?」

「唐揚げの食後に飲むのかはわからねーが、食後に飲む奴はいるな」

「店主、コーヒーとやらは置いているか?」

「本格的なのは、無理ですけど。機械で淹れるのなら」

「それで大丈夫ですよ。わがままは言えません」


 食後にコーヒーを飲むアンドラスはその見た目からか、服装からかはわからないが、妙に気品があった。

 

「ふん、香りが素晴らしい。それに、不思議なものよ。苦いが、その奥に何やら確かな魅力を感じる。それは甘くしても感じるが、このブラック? で飲んだ方が強くなる。気に入った! 店主! 我が食事を終えたならこれを用意しろ!」


 偉そうに叫ぶアンドラスだが、そんなヤツを星野さんは優しい笑顔で見つめてお礼を言っている。

 貴族っぽいけど、こいつってそんな感じしないんだよなぁ。例えるなら真面目そうだけど一目見てあっ、元ヤンだ。って解るようなタイプ?


「ふふっ、良い店だ。ここを我の縄張りにしよう、店主よ何かあれば我の名を出すが良い。アンドラス、この地では知らぬ者はおるまい。かつてドラゴンとの戦いを制し、愚かにな人間どもにこの世の地獄を見せたこの上級悪魔が縄張りで大きな顔をする者など居るまい!」

「おい、潰れっちまうよ。スミマセン、ビールで酔った見たいです」

「アンドラスさんは有名な方なのですね? サインお願いします!」


 あっ、この人少し間抜けだ。

 て、色紙を召喚してるよ。便利なスキルだなぁ。


「ん? サイン? そんなのは知らんが、我の証しは残そう。この店を失うのは惜しい」


 ドジュ! と言う音が色紙に響いた。と思えばそこには悪魔の紋章が浮かんでいた。


「おい! 呪いか!?」

「ふざけるな。我をなんだと思ってる」

「腐れ悪魔!」

「舐めるな! この紋章は護りだ。純粋な力のみを込めたものだから、厄は無い!」


 その色紙を星野さんは満足そうに壁に飾る。良いのかな? あれ。


「さて、そろそろ行くか。星野さん、ありがとう。また何処かで会うことがあれば」

「あっ、待って下さい」


 星野さんは代金を置いて帰ろうとする俺達の手を掴むと何かの力を使った。


「私のスキルです。これで、何処にいても、二時間だけこの店に戻ってこれます! だから、気が向いたらで構いません! また来てはくれませんか!?」


 必死に頭を下げる彼女は手が振るえていた。そうだよな。こんな意味のわからない世界で、店を開けてはいても同じ世界で行きたい人間は誰もいない。

 俺は星野さんに一言、話しかけようとしたとき。


「嫌だと言ってもまた来る。我の縄張りだからな! しかし、良いスキルだ。おい、我の対価への問題は解決だな?」


 こいつ、まぁ俺の言いたい事も同じような物だしな。


「また来ます。何かあれば何時でも力になりめすよ。同じ転生者として」 


 星野さんは嬉しそうに笑うと、店先まで見送って見えなくにるまで手を振ってくれた。


「さて、我が魔力は満タン・・・・・・ん? ほぅ、やはりあの店は手放せん」

「なんだ? ん? 鑑定。うわぁ、パワーアップ」


 こいつのステータスが引き上げられている。レベルも1上がっているな。毎回上がるようなことは無いだろうが、そうか、彼女の力の一つなのかもな。


「クソ悪魔」

「なんだ? 脆弱なる者よ」

「辺境伯って俺達に会いたがっていたよな?」


 アンドラスは鳥に姿を戻す。


「乗るが良い。辺境伯の屋敷に行くか」

「わかってるね!」


 アンドラスは俺が飛び乗ると、月明かりの下を切り裂くように駆け抜けた。

アンドラスは貴族気取りの元ヤン

乙哉は色々こじらせた放火魔


この世界、勇者が魔王と戦うべく呼び出されますが大概は人間が領地欲しさに亜人や魔族にケンカ売っているだけです。チート持ちは結構希少で、大体の転生者はスッゴい便利能力があるだけです

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