第3犯 ゴブリン乱獲事件及び、街の片隅で
続きです
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依頼の内容も、パッとしないものばかりだ。底辺冒険者の辛い所だが、それでも中々にキツい。薬草採集に、薬草採集だろ? そして、薬草採集って! 草ぁ!
薬草の知識ゼロだと無理ゲーだな。
他には? えーっと?
ゴブリン討伐。
「行こう」
「ぬ? ゴブリン? 簡単な仕事よ。一体銀貨一枚か、モンスター討伐にしては安過ぎる」
「さて、道具を調達しようか。まずは」
俺は適当な店でこのスーツを売った。動き易い異世界風の着物、いいね! 悪くない。この世界でスーツはいい素材の布だろうな金貨9枚も貰ったぜ、ぼったくられたかはわからないが。まずはナイフだな。
理由は無い、ナイフを調達だ。
てか、色々必要だな・・・・・・マントに、そうか・・・・・・水筒も無いとな。火はこのバカにつけてもらうとして、それに非常食とかも、あっテントも必要か!? くそっ! 大荷物だ!
「中々に物を買うのだな? そんなに持ってどうするのだ? アイテムボックスを使え」
「はぁ? なんじゃそりゃ?」
「空間に物を仕舞う魔法だ。お前は使わんのか?」
「使えると思うのかよ」
「ふぅむ、使えんな。魔法を使う方法すら知らんのだろう」
「お前使えるのか?」
「魔法は殆どを納めている。それに、我の真骨頂は超常的魔術。つまりは属性に縛られぬ魔法にこそあってだな」
「よし、開け。この荷物ぶち込むぞ」
「そう来るだろうと思ったが、遠慮のない男め」
そう言うとアンドラスは空間に穴を開ける。中は真っ暗だが、俺は関係無しと言わんばかりにテントやマントなどのかさばるものを放り込む。
腰には短剣の様なナイフ、水筒、そしてマッチ箱。
「さて、出発するか」
「ほう? 女は行けん依頼だな」
「あー・・・・・・よし! 焼こう! この辺のゴブリン全員を血祭りにあげてやる!」
*
街を出て近くの森の中まで五分もかからずに飛んで来た。コイツ便利だ。
さて、森を散策するが俺は鑑定能力を発動する。多分視界の中に居ればステータス表示されるから、それを索敵に利用してやろう。
ん? 草木の名前も見えるな。あー、これで薬草採集簡単に出来そうだったな。
「傷んだ肉の匂いに、品の無い笑い。近いな」
「マジか、聞こえるのか?」
「我を侮り過ぎではないか?」
「よし、お前は魔法の限界はどうだ?」
「あんな雑魚に魔法を使えと言うのか!」
「要らねぇの?」
「触ろうとした瞬間に連中は焼け死ぬ事になる」
「パッシブスキル、ソロモンの松明。敵意有るモノはその身に炎をまとう。へぇ、このスキル切っていたのか。お前も気を使っていたんだな」
俺はコイツをけしかければいいとは思ったが。
・・・・・・つまんね。俺の存在意義よ。よし、こうしようか。
「俺を掴んで飛べ。連中は頭良いか?」
「バカとゴブリンは同じ意味だ」
「よし! ぶっ壊すぞ」
俺はアンドラスに掴まれて空に舞い上がる。少し行くと下に小さな集落が見えて来た。そこには絵に描いたようなゴブリンが俺達を焦った様に見上げている。おぉ、弓とかは作れるのか。
だが、そんな弓は届かんよ。
「goodruck!」
俺は空中に大量の大岩を召喚する。当然岩は落下してゴブリンたちを押しつぶしていく。連中からすれば恐怖だろう。
「ふははは! 見ろぉ! まるでゴブリンがゴミの様だ! 最高のショーだとは思わんかね!?」
「ゴブリンに同情するとは、我も甘い。こんな趣向はどうだ?」
そう言うとアンドラスは俺の大岩を炎で焼く。まるで隕石の様になり、集落が燃え始めた。これでは真面目に俺達が悪役だ。
と言うか、そうなんだが。
まぁ、コイツラも人間の娘に色々する・・・・・・色々。俺の推しだったキャラがゴブリンに良い事されて精神崩壊するハードな同人誌があったよな。慈悲も是非も無い! ぶち転がしてやる!
「うおおおお! くたばれぇええええい! 最早、語るまい! 落ちろぉおおおおお!」
「やれぇ! ふははははは! 滅ぼせぇい! なかなか良いな! ふははははは!」
「大人しく金になれぇ! おっと、もう動いてないかな? よし、報告ののろしはこの札を燃やせばいいのか?」
「投げろ、燃やしてやる」
俺が札を放ると、燃えた札は紅い光を空へと飛ばした。これが依頼の完了を告げるのだろう。だが、下から耳をつんざくような叫び声が聞こえて来た。
「ふむ、少し残りがあったようだな。一番の大物だ。グレートゴブリンだ、奴がいるという事はまだこの辺に本陣があるのだろう」
「はいどーも」
そのグレートゴブリン様とやらは焼けた大岩の下敷きになって、バーベキューへと転生なされた。アレがリーダーか? ならもう少し先に・・・・・・あった、もう一つの大きな集落。
「滅ぼすぞ!」
「望むところよ!」
*
金貨20枚。
「勝ったな」
ゴブリン討伐の報酬はそれぐらいの金額になった。ゴブリンが逃げられないように結界で逃げ道を塞いでその範囲だけを焼いた。森の一部は焼け落ちたが、これでしばらくはゴブリンの被害もおさまるだろう。
焼け跡から見つかった死体の数でこれだけの報酬となった。金貨が銀貨10枚分の価値だから、200体もいたんだな。まぁ、焼き尽くされて判別できない奴もいたかもだけどな。
「嘘だろ? あのゴブリンの集落が焼け野原にされたのか?」
「回収には俺も立ち会った嘘じゃねぇ。嘘ならギルドが金を渡さねぇだろ」
結界をドーム状にして酸素を無くして鎮火しておいたが、念のため雨とか降って欲しいな。
だが、コイツが仲間なのはデカい! コイツ無くして俺は生きて居る事も出来ないかったかもな。だが、確実に俺が巻き込まれた騒動はコイツの所為でもあるんだが。
俺は金貨をアイテムボックスに放り込む。ここなら無敵だが、この鳥に財布を握られるから少し不安だ。
「おい、我への報酬は?」
「あぁ、それが一番の悩みの種だ。現状ではこの世界で俺の世界の料理の再現は難しい。ステーキとかなら楽勝だが、それだとバリエーションがなぁ」
「くそ、もっと楽なものにして置けば良かったか」
「なんだ? 契約破棄しないのか?」
「無理だな。お前が死ぬか、他の転生者が私に持ちかけるか、お前自身が破棄するかしかないな」
「まぁ、そのつもりは無いが・・・・・・よし、ビールに近い酒でも探すか。食事形式を似た様にして話せばいいだろう」
ん? 所で、ここは何処だ?
街灯はあるが、中央から離れると暗いな。アンドラスが光っているから明かりには困らないが、それにしても少し不気味だ。
適当な店は無いか? 少し危険な気がする。
すると、一見の小さな店が目に入った。
「よし、アレで良いか。人型になれるか?」
「あぁ、もうなってる」
アンドラスは初めに会った時の様に人間型を取っていた。頭は鳥だがな。
獣人と言ってごまかそう。
そう言って暖簾をくぐると中は明るく、何と言うか。
「え? 日本の、なんていうか店だな」
「いらっしゃいませ~って・・・・・・え?」
「に、日本人!?」
「そ、そうです! もしかして貴方も!?」
出迎えてくれたのは若い女性だった。俺よりも2~3年上か? 艶やかな黒髪に、線の細い体、柔らかく優し気な顔は何処か落ち着かせてくれる。
「ははは! 嬉しいです、同じ日本人に出会えて! あ、私は田中 乙哉と言います。向こうではしがない会社員をしていました」
「私は星野 美冬と言います。向こうでは洋食屋を営んでおりました」
「どうやってこの世界に!?」
「私は一度死んだようなのですが、どういう訳かこの街にいました。それで、こんな能力を」
そう言うと彼女は俺と同じくステータス表示を空間に出現させる。
俺も答えるようにそれを提示した。彼女のスキルは。
取り寄せ
:異世界の食物、物資を召喚可能。
特等席
:指定した場所にその人物限定のゲートを開く。時間は指定しなければならない上に、滞在時間は2時間。時間を過ぎると召喚された対象は元の場所に返される。
アイテムボックス
:無制限にアイテムを収納可能。品質は変わらずに永久保存可能。
アイテム順応
:アイテムの効果のみを引き出す事が可能。機序や経過、理屈を問わない。
女神の加護
:状態異常完全無効化。高速自然回復。魔法攻撃の高耐性
凄いな。食い物や住む場所には全く困らない能力だ。
「い、石、岩、パンチ?」
「あぁ、お恥ずかしい。変な力でしょ? でも、この鳥頭のお陰で何とかやれてます」
「えぇ、凄く強い方ですよね。その鳥の人は、レベル75なんてこの世界では伝説です。でも、田中さんの能力も良いと思います。凄く強い敵も倒せそうです」
そう言ってニッコリと笑う彼女はとても安心できる存在だ。
こんな姉が欲しかったな。安らぎを雰囲気と佇まいで与えてくれると言うか? 女性の持つ最大の魅力である安心感と優しさと言うか? 素晴らしい。
「そうです! せっかく同じ日本の方に出会えたんですから、私のお店では食事のお代は結構です!」
「いやいや! それはダメです! 自分の食い扶持ぐらいは稼げます。どうか気を使わないで下さい、この世界ではお金と身を守る手段が必要です。お互いに生きていくために、貢献させてください」
俺はそう言うとカウンター席に座る。アンドラスも続いて座るが、やけに無口だ。
「どうした? 気分でも悪いのか?」
「いや、我でも震えがくる」
「もしかして、女神の加護に」
「ごちそうの匂いがするっ! 久しい、未知の体験となるだろう! おい、この街を離れるのは嫌だぞ。ここを拠点としよう」
「アホをぬかせ、俺は指名手配確定の身でゴブリン討伐の為に森の一部を焼き払ったんだぞ? ここに居られるか」
「だが、我の魔力はここでしか補充できない気がする!」
こいつ、実は人間にあまり攻撃しないのは飯が上手いからじゃないか?
まぁいいか、今はこのひと時を
「おう! 邪魔するぜ! 女、辺境伯様への返事は決まったか!?」
突然、店に絵にかいたようなガラの悪い男達が押しかけて来た。
うわぁ! テンプレートチンピラーズだ! しかも辺境伯? なになに、もしかして美味しい料理作るから料理人になれって感じか?
「返事は変わりません! 私はひっそりとお店を続けていきたいだけです。税金も払ってますし、このお店も許可を貰ってます」
「そうじゃねえよ。妾になれって申し込みだ! その艶やかな黒髪を大層気に入ってな、お前が欲しいそうだ」
「奇遇だな豚よ、我もこの女が欲しいと思った所だ。だが、身体ではなくコイツの作る飯をな。我の餌場を荒らすと言うならば! 死をもって愚かさを贖え!」
チンピラの言葉にアンドラスが真っ先に反応した。これは止めても聞かないな。
明日には街を出る。好きにさせてやるか。
「アンドラス、先に食ってていいか? それまでにネタを考えておくからよ」
「良いだろう、さぁ・・・・・・豚どもよ、夜はこれからだ」
風の様にチンピラーズはアンドラスに一人残らずにさらわれて行った。
星野さんはポカンとしていたが、俺は何もなかったように笑うとメニューを開くと満面の笑みで
「唐揚げお願いします!」
とだけ言った。
もう一人の転生者!