第1犯 国境不法侵入及び悪魔投下事件
これはひでぇや、ギルドってどう登録するんだ?
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俺が召喚されたのは魔界のど真ん中、では無く何の変哲もない山の中腹にある遺跡とのことだった。
変哲のない遺跡ってなんだ? と思うだろうがこの世界では割りと簡単に人間の町や文明が滅びるらしい。
「物騒だな」
「そうでもない。モンスター、戦争で人間は多く生まれて、多く死ぬからな。我も色々滅ぼしたものだ」
思った以上にヤベー悪魔だ。
こいつの話では召喚された連中。正確には転移者なのだが、語呂が良い転生者と呼ぶか。そいつらには敵のステータスを見る能力が備わっている。
レベル、HP、魔力量、攻撃力、防御力、スキル等々。レベルとスキルは鑑定能力持ちなら解る様だが、この悪魔は持っている様だ。
「で? 街は何処だ?」
「街? 国ならある。この山を降りれば村があるのだが、まずはそこを仮の拠点として」
「悪魔はそんなに欲がねーのか? 一気に行けないのか? ほら、転移魔法とかでワープとかよ」
「貴様のせいで魔力を無駄遣い出来なくなったのだ。そんな贅沢は許されん」
俺は今立っている場所から遠くに城壁の様なものを見つけるが、多分あれだろう。
今の俺ではゴブリンに殺されるな。
俺のスキル、一対一だと強いが群がられると死ぬ。ここからこのボディーガードを着けたとしても無事には済まないだろう。
この山、結構高いのか? 中腹でかなりの高さがある。
「この山、あの国から見えるか?」
「当たり前だ。この辺りでは一番高い」
「よし、山頂に行こう。そこで鳥に化けられるか?」
「むしろそっちが本当の姿だ。乗せろと言うのか?」
「それも良いが、お前の体力はキープだ。最高戦力はここぞという時に一気にとってのは定石。そのさじ加減はプレイヤーの腕次第だ」
「ふん、山頂なんぞすぐだ。捕まれ、体力も魔力も使わん」
俺は悪魔の手を取る。
こいつの名前よく解らんから適当でいいか。
なんて考えていると俺の身体は上空へ舞い上がった。急上昇しやがった。下を見ると山頂をとっくに追い越している。
「うお!? 予想外! でも期待以上、そのまま翼だけ広げて風を受けろ」
「よし」
鷹? 鷲? 良く解らんが巨大な猛禽類の姿となった悪魔は俺の腕を掴んで翼を広げて風を受ける。すると、まるでグライダーの様に落下をゆっくりにし、中々の速度で全身し始めた。
「成る程、これなら上空から横断出来るな。我には当たり前の事過ぎてな」
「これなら楽に行けるだろ! お前が鳥で助かったぜ」
*
さて、国境の城壁があったがこの国はどんな所だ?
正直かなり不安だ。この世界にはとことん無知、傍らにはデッケぇ鳥、服装はスーツ。怪しさ大爆発。
門があり、そこまで架かる橋の上に着地すると門番や回りの人々は悲鳴を挙げた。門番は震えながら槍を構えて、商人か? 荷馬車を引く人々は急いで馬を走らせて門に飛び込んで行く。
「な、なんだ!? おい、どうしたんだよ!」
「知らんな、この場に降りただけだ。お前のその妙な格好に恐れたのではないか?」
「スーツで戦争起きるわボケ! これ、もしかして」
俺が勘繰っていると門から鎧を着たいかにも騎士ですって男が出てきた。
「私はこのエウルフィーム王国第3騎士団騎士団長のゾルタン・ノール・フィーンドである! 悪魔よ、ここへと何をしに来た!」
「え? ちょっと待って下さいよ。俺は人間です!」
「貴様をよりしろにしているそこの鳥の事を言っておるのだ!」
「鳥ぃ? ただのデカイ鳥です!」
「とぼけるな! その鳥は近年に目撃されたアンドラスと言う上級悪魔だ! ソロモンに名を連ねる滅びと困惑の悪魔だ!」
こいつ、そんなに凄い悪魔なのか!
それを俺はワンパンで戦闘不能手前まで追い詰めたのか。スキル様々だぜ。
「愚かな人間よ! 貴様らの命や政など我の知るところではないわ! 我が契約を結びし者に道を開けよ!」
「ひ、ひぃ!」
アンドラスの声にビビった若い兵士が突然引いていた矢を放った。
おー、俺狙いね? 死ぬ!
だが、その矢は弾かれてしまう。
「ほう? 我らへの宣戦布告か? 人間よ、いつも貴様らは要らぬ見栄で命を棄てるのだな」
「そ、総員構え! 軍の到着まで何とか堪えるのだ!」
屈強な男達が槍と弓を構える。だが、こいつにこの人達が勝てる未来が見えない。連中のレベルは騎士団長で25、兵は15が平均でちらほら20や18がいる程度だ。
アンドラスはレベル75で体力は5割程度、自然回復しているな。魔力は満タン、えっと9600だって? 魔力は騎士団長で50。桁違い過ぎる!
通り過ぎただけでみんな死ぬな。
「待て! やめろ、兵の皆さんも落ち着いて! この場で殺し合いなんてバカげてます! 俺はただ街で物資を揃えたいだけで、滅ぼしに来たのではないのです! それにこの鳥は俺の従魔です、攻撃しなければ押さえ込む事を約束します!」
俺はそう叫ぶがアンドラスが牽制のつもりか火の弾を打ち出して城壁の一部を破壊する。
「う、撃て!」
「バカ野郎! この鳥! 焼き鳥にするぞ!」
「安心しろ、結界でお前は守ってある。ほら、矢も弾いているだろ?」
俺は矢の雨の中にいる、このバカはそもそも矢なんか効いてない。
とにかく不味い! 逃げるしか・・・・・・
「うおおおお! 覚悟! 悪魔使い!」
「団長!? なにやってんだよ! 団長!?」
騎士団長が剣を抜いて俺に斬りかかって来ていた。アンドラスは結界を壊せない事を知って放置しているが、俺にはスッゴい恐怖だ。
俺はその場にへたり込むが、その内に結界を団長が必死に斬りまくる姿に慣れてしまった。
「止めません? 無駄ですって」
「この穢れた悪魔使いが! 邪法で強くなり何が望みだぁ!」
「いや、そんなつもりは」
「王には触れさせん! この国を守れるなら命なんぞ!」
「もういいですから話を」
「死ねぇ! 悪魔!」
「話を聞けってんだよ! 石頭野郎め!」
ズドォン!
俺は騎士団長にパンチを叩き込んだ。
なんだかうぜぇ、どうせ死なないしこれで頭を冷やせ。この鳥に即殺されるよりマシだ。
騎士団長は大げさに吹き飛ばされ、城壁にぶつかると橋に叩き付けられて動かなくなった。
え? 死んだ?
「気絶しているな。あれなら二日は起き上がれんだろう」
「なにそれ怖い! 俺のパンチってそんなに威力あるのか!?」
「HP が無くなるまで戦えるのは我々程の存在のみだぞ? 奴は気絶しているだけだが、きっちりと9割型死んでる」
「いやー、キツいっす」
今は誰も動かない。何が起きたか理解して無いんだな。
「よし、逃げルォ!」
俺はジャンプするとアンドラスの脚を掴んだそして、城壁を一気に飛び越える。
視界が開け、大きな街が見えた。そして差し込む朝日。
俺の冒険、これから始まる。そんな気がした。
「さて、捕まれば死刑だぞ?」
「くっそ! ヤッパリナー!」
逃げルォ!
祝、初犯罪!