チートな徘徊
初書きです。宜しくお願いします。
『早く家に帰らんと』
今日もいつものように、村上幸子さん通称さちばぁさんは家を探して歩きまわる。
毎日、朝起きると、嫁さんに朝ごはんを2回催促して、食べ終わると、『あー、腹一杯になった。そろそろ家に帰るとするかのう。お世話になりました。』と、我が家から、家を探しに出かけていく。
いつも、じいさんがついて歩くので、嫁さんもそのつもりで洗い物をしながら振り返らないで、行ってらっしゃいと見送った。
じいさんは2回目の朝食中から縁側で気持ちよさそうにお昼寝真っ只中。
一人家を出たさちばぁさん、何時ものように、畑が続く段々畑の緩い斜面を山に向かって杖をついて歩いて行く。
何人か、顔見知りの近所の人が、さちばぁさん、いつも元気ねぇと、あいさつをしてくる。『まだ若いもんには負けんわい、ほっほっー』と言葉をかわす。
段々畑を抜けると、ライトが点滅している薄暗いトンネルにさしかかる。そこはいつもじいさんが足場が悪いからと、違う道を通るように誘導してくれるのだが、今日は、止める人もいないためそのまま歩く。
しばらくトンネル内を歩いていると、途中から、ジャリジャリとコンクリートじゃない、湿った土の道に変わっようだ。さちばぁさんは、違和感に思うことなく、そのまま突き進む。『家に帰らんとなぁ』
トンネルを抜けると辺りは広い草原だった。
草原を歩いていると、ジェル状のモンスターのスライムが一匹飛び出してきた。
『こりゃあ、でっかいナメクジじゃ、ここに清めの塩をポケットに入れとったな。』と、スライムに多量の塩を振りかけ乗せた。スライムは、ナメクジのように、じわじわと小さくなり溶けていく。『タラァラッララー』さちばぁさんはレベルアップしました。と小さな音で知らせが来る。スライムは小さくなり、溶けてなくなった。
『ありゃ、家はどこだったかなぁ?』
さちばぁさんはレベルアップしたおかげで少し歩く速度が速くなった。
しばらく歩いていると、新人冒険者がパーティーを組んで漸く一匹倒せる強さの、キラーパンサーが『キュルルー』と飛び出して来た。
『こりゃあ、でっかい猫だのう。どーれ、後で飲もうと持ってきとったジュースがあったの。これでも飲まんか?』
と、さちばぁさんは野菜ジュースをコップに注ぎ分けあたえた。キラーパンサーは『グルルー』と鳴き野菜ジュースを舐る。気に入ったようで、ゴクゴクと、飲みきると急に、『ゴロゴロ』と声を出し、草むらに背中を擦り付けている。猫科のキラーパンサーは野菜ジュースで酔っぱらったらしい。(うちの猫も前科あり)
『そんなに旨いか?じゃあ、もう一杯。』と2杯目もゴクゴク。
酔っぱらって足元がフラツキ、近くの川にスッテッと転げてしまった。『タラァラッララー』さちばぁさんはレベルアップしました。と小さな音で知らせが来た。
キラーパンサーが見えなくなると、直ぐにさっきのことを忘れてしまったさちばぁさん、
『ありゃ、家はどこだったかなぁ?』と、また、家探しの旅に出る。
レベルアップアップしたおかげで、更に足が速くなり、歩いているのに、ランナーが走っているかなような早さだ。
さちばぁさんは、突き進む。
今度は、ドラゴンが出てきた。さすがのさちばぁさん、もはやこれまで。
と、思いきや、視野狭窄があるさちばぁさん、巨大なドラゴンの全体像が、ぼやけてて見えない。
『ありゃ、何かのう?』
すると、『おばあさん、危ないー!!』
と、勇者ヨシツグが助けに入る。
『義則!来とったんかー!』さちばぁさんは、喜びのあまり、勇者に抱きつこうとし、躓いてしまうが、杖のおかげで、何とか踏みとどまった。レベルアップのおかげで、瞬発力も上がっているようだ。躓いた拍子に、総入れ歯の歯が、カパッと飛んで行ってしまった。
『よしのょり、あいちゃかっちゃ』と勇者に抱きつく。
『おばあさん、怖かったでしょう。ただ、僕は義次ですよ。』
と、勇者ヨシツグはおばあさんの背中を人なでする。
『ギャアーーーー』と、ドラコンが苦しみの声を出している。勇者ヨシツグが、ドラコンを見ると、ドラコンの左目に、人間の歯が、刺さっている!ドラゴンの弱点は、左目にある、魔石だ。ちょうど、さちばぁさんの義歯がその魔石にあたって、魔石もろとも、くだけてしまったのだ。
『タラァラッララー』さちばぁさんはレベルアップアップしました。すると、さちばぁさんの進化が始まった。何と、歯がひとつもない歯茎から、新しい歯が、入れ歯のように生えてきた。また、シワが少しだけなくなり、丸かった背中が成人のようにまっすくになった。
また、ドラゴンがキラキラ消えていき、残った欠けた魔石と義歯が絡まりだし、さちばぁさん愛用の杖に吸収された。『あー、わしの入れ歯がー!! あるのか』と口をさわる。
『義則よ、わしゃぁ、家に帰りたいんじゃ。』
勇者ヨシツグとさちばぁさんは、さちばぁさんの家を探して突き進む。
その間、色んなモンスターが、出てきては、さちばぁさんの知恵袋で乗り切る。また、仲間になった、モンスター達も沢山引き連れる。
そして、ついに魔王城の、魔王の前にたった。
『魔王よ、この勇者ヨシツグが、世界の平和のために、お前を倒そう!』
『ガハハハ、勇者よ、お前みたいな、虫螻、屁でもないわ!
あれ、幸子さん?幸子さんでしょ!』
『あれ、田中の一二三さんじゃなかろうか?』
実はさちばぁさん、たくさん強いモンスターを倒し、レベルアップしたおかげで、16歳の姿に戻っていた。
腰まである艶やかな黒髪を、おさげの三つ編みにし、白くきめ細やかな肌に、頬は驚きで桃色に染まり、グレー色のクリクリした目は自分の意識をしっかり持った、勝ち気そうな可愛い、女の子になっていた。
『そう、ひふみだよ!幸子さんも異世界に来てたんだね、ずっとあなたのこと思ってこの苦しみを耐えてたんだ、会えて嬉しいよ。』
『・・・そうじゃ、わしも、ひふみさんのことを思うとった』
とさちばぁさん。
魔王『戦争が終わり、外国にいた僕は何とか幸子さんの所に帰ろうと船に乗り、その船が難破してしまい、気がつくと、この世界に来てしまったんだよ。そして、何とか帰ろうと、魔法を研究して、なんやらしてたら、今の魔王の地位についてしまってね。
帰る方法は分かったんだけど、人間達が訳もなく、魔神やモンスターを攻撃してくるから、なかなか帰れなくてね。』
勇者ヨシツグ『訳もなく?何を言ってる、モンスター達が攻撃してくるから、こっちも応対してるんだ!』
魔王『そりゃ、威嚇されたら、殺られると思うだろ。そこにいる、モンスターは、何もなく、攻撃してくるのか?』と、さちばぁさんの後ろにいる仲間のモンスター達を指さす。
勇者ヨシツグが『いや、そんなことはない。もしかして、俺が間違っていたのか!!』と項垂れる。
『ホッホッ! 話し合いで解決できるかもしれんのぉ?』とさちばぁさんが高笑いしている。
魔王『幸子さん、やっとあなたに言える。僕と結婚してくれないでしょうか?』
さちばぁさんは涙を流し、『あの時、戦争が終わってもひふみさんは、帰って来んかった。そして、わしは、義則にあってしまったんだよ。 すまなんだ、わしは、もう、結婚もして、子供、いや、孫までいる身なんじゃ。』
魔王、いや、一二三さんは、涙を流し、『幸子さんは今幸せですか?』とさちばぁさんに聞く。
『わしゃ、幸せだよ。優しい夫にしっかりした息子の嫁さん、可愛い孫達に囲まれて』
魔王『あなたの幸せが僕の幸せだよ。幸子さんは何でここに?日本に家族がいるのだろう?』
『そうじゃ、わしゃ、家に帰らんと!ひふみさん、帰れなくて、困ってるんじゃ』
魔王『それなら僕が送ってあげる。幸子さんは、もう、おばあさんなんだね。それ!』魔法の杖をひとふりすると、元のおばあさんに戻る。そして、魔方陣がさちばぁさんの下に浮かび上がってくる。
魔王『幸子さん、おばあさんになっても綺麗です。さようなら』
勇者ヨシツグ『さちばぁさん、ありがとう。さようなら』
『おい、義則一緒に帰らんのんか?』さちばぁさんが勇者ヨシツグに手を伸ばした瞬間消えて行った。
『さちー、さちー!』
トンネル付近で、背の高い少し背中が曲がった、おじいさんがさちばぁさんを探している。
『義則!』
『良かった、見つかった。探したよ』
『いや、家を探してたんじゃよ。義則こそ、さっきまで一緒にいたじゃないか。』
義則『さぁ、みんないる家に帰りましょう』
さちばぁさん『そうじゃな、家族がいて、わしゃ、幸せじゃ。ところで、義則、いつの間にそんなに禿げ散らかしてしもうたんじゃ? 』