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Need of Your Heart's Blood 1  作者: 彩世 幻夜
第九章 Essential existence
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婚約宣言

 「それで……朔海がここに居る、ってことは、葉月さんの力を無事に得ることができたんだよね……?」

 お互い、畳の上で足をくつろげ、のんびりと穏やかな空気の中で向き合う。 

 血を飲んだ朔海の顔色は一気に良くなり、瞳がさらに輝きを増した。その綺麗な顔で朔海は頷いた。

 「ああ。……でも、正直僕ひとりの力では、絶対に手に入れることはできなかった。……こうして生きて戻って来れたのも、全部咲月のおかげだよ」

 そう言って、朔海は眩しいものでも見るような目つきで咲月を眺める。

 咲月はといえば、そんな表情を浮かべる朔海こそが眩しくて、またしても心臓が無駄に鼓動を早める。

 「咲月がくれた、このムーンストーン……。これがなかったら、僕は確実に死んでいた」

 仮定ではなく、事実なのだと、朔海は言う。

 「――出てきなよ。今なら他に誰もいないし、多分咲月になら今の君の姿も視えるだろう」

 そして、朔海はその腕輪の石に呼びかけた。

 不思議そうに首をかしげる咲月の目の前で、するするとムーンストーンから薄もやのような霧がふわふわと吹き出し、あっという間にピンポン玉2つ分程の人型を形作る。


 銀の髪。その綺麗な髪の間から覗く、獣の耳。くりっとまんまるい目に、ムーンストーンと同じ色の瞳。お尻から生えた、ふさふさの尻尾。

 「……か、可愛い――」

 思わずつつきたくなるのを我慢しながら、しかし堪えきれなかった感想がポロリと自然と口からこぼれた。


 朔海はムーンストーンの上に鎮座するそれを落とさぬよう、手の甲を上にして拳を握り、ぐいっと咲月の前へ突き出した。

 

 体の基本的な作りは人型だが、頭の上に生えた耳や尻尾は犬のそれに似ている。

 その耳をペタンと伏せ、モジモジしながら、顔を赤らめ、上目遣いにこちらを覗き込んでくるその仕草は、とてつもなく可愛らしい。


 思わず頭を撫でたくなるが、――残念ながらどう見ても実体がない。向こう側が透けて見えるのだ。

 「ひ、姫様……」

 

 朔海の予想通りに、目をきらきら輝かせた咲月にまじまじと見つめられた潮は、それまでのやたら尊大な態度はどこへやら、もじもじしながら恐る恐るといった様子で咲月を呼んだ。

 「ひ、姫!? ……って、私のこと?」

 その呼びかけに驚いた咲月はすぐさま朔海に問うような視線を投げかけた。

 「え、えっと、彼の名前は潮。――この、咲月がくれたムーンストーンに宿った精霊の仔で……君は、彼のご主人なんだそうだよ」

 「精霊……?」

 朔海が、ひとつ頷き、真剣な様子で説明を続けた。

 「どうも潮は、君の親御さんの一族に、深く関わりのある精霊らしいんだ」

 朔海は、一瞬迷ったものの、稲穂の言葉を思い出し、正直に告げた。

 「以前、君の片親はファティマーの一族にゆかりのある――彼女の一族からさらわれたっていう娘さんの血を引く人物がそうなんだろうって事までは話したよね? けど、あの時はそれ以上のこと――その娘さんをさらった一族については全く分からなかったんだけど」

 「その一族に、この仔が関係あるってことなの?」

 咲月の問いに、朔海は頷きを返した。

 「彼が言うには、魔を狩る事を生業とする一族なんだって」


 「そして姫様は、我が一族の首長の家にお生まれになった御子様であり、姫様であらせらたはずでした」

 潮が、頭を深く下げた。

 「一族の女は、子を身ごもると、一族を守護する大精霊様から、精霊の種を授かり、一族の子どもは皆その種を持って生まれてくるのです。いずれ、自身の成長とともに精霊を育て、一人前になった暁にはパートナーとなる守護精霊と共に、仕事へ――魔物狩りへ行くのです」


 朔海や、他の者に対する態度とは打って変わって殊勝な態度で、彼は咲月に頭を下げたまま、先だって朔海にしたのと同意の説明を口にする。

 

 「俺は、姫様が母御の腹に宿った頃からずっと、姫様と共に在りました。俺を――俺の宿るこの石を、この男に与え、その血に宿る御力までもを譲り渡してしまわれた、あの日まで」

 じろりと、やはり少し不満気な目で一瞬朔海をちらりと振り返る。

 「でも、姫様はこの石に――俺に、こいつを守れと願われた。故に、俺は今、姫様とこいつの守護精霊でございます。主の力は、精霊の力。精霊の力は守護精霊の力。こいつの得た力は、こいつの守護精霊である俺の力でもあり、俺の主である姫様の御力でもある。姫様がこの御力を手になさった際には、俺がそのコントロールをお手伝い致しますから……。だから、お願いです」

 潮は言いながら、深々と頭を下げた。

 「今すぐでなくて構いません。こやつの家とやらに落ち着いてからで構いませんから、どうか、俺と正式な主従の契の儀式を行ってはいただけませんか?」

 

 そんな風にふるふる小動物のように震えながら上目遣いに願われて、咲月が頷いてしまわないはずはなかった。


 「その、主従の儀式っていうののやり方を、私は知らないんだけど。そんなんでもいいなら……」

 「はい、もちろん。姫様が心配なさることはなにもございません。俺が、全て存じておりますから、俺に全てお任せ下さい」


 潮は、嬉しそうに目を輝かせ、しっぽをぱたぱた振る。


 「……なんだかなあ。潮、僕に対するのとあまりに態度が違いすぎない? ……いいけどさ」

 少しばかり恨めしげな半眼を潮に向けてしまうのを抑えられずに、朔海は小さく呟いてから、時計を見た。


 「やあ、ちょっとのつもりが随分時間が経っていたみたいだ。そろそろ7時だよ。確か夕飯は7時からだったはず。……行こう。咲月にとっては辛いだけの場所だと思うけど。――今度こそ必ず、僕が守るから」

 そう言って、朔海は立ち上がり、咲月に手を差し出した。

 差し出された手に咲月が自分の手を重ねると、朔海は自然に咲月が立ち上がる手助けをしてくれる。


 「おっと、その前に。フロントに預けた荷物を受け取らなくちゃだ」

 遊戯室を出て階段を降り、突き当たった先の廊下を当たり前に大広間のある右へ進もうとした咲月を引き止め、朔海は玄関とフロントがある左へ歩き出した。

 「すみません、預けた荷物を引き取りたいんですけど」

 「かしこまりました。お名前、よろしいですか?」

 「はい、双葉です」

 朔海は、その名乗りに一瞬不思議そうな顔をした咲月に、目配せをした。咲月も、すぐに事情を察し、慌てて表情を取り繕った。

 仲居さんが出してきたのは、銀色のケースだ。――いわゆるジェラルミンケースと呼ばれる類のそれを朔海は笑顔で受け取る。

 「ありがとうございます」

 そして咲月を促し、今度こそ大広間へ向かうべく踵を返し、来た道を引き返す。

 廊下のこちら側の端から大広間のある向こうの端まで、約30mほど。

 しんと静まりかえった廊下に、開け放たれた大広間からクスクスと忍び笑いを含む、ざわざわとした人の気配が漏れ聞こえてくる。


 あそこに渦巻いているのは、人の醜い心の寄せ集め。思わず立ちすくみそうになる気配の真っ只中へむけ一歩一歩近づいていく。

 きっと自分一人なら今頃足がすくんで動けなくなっていただろう。

 けれど、今は繋いだ手から伝わる温もりが、咲月の心をも温めてくれる。

 あの場で、どんな悪意にさらされても、さっきのように心が冷え込むことはもうないだろうと、彼の隣を歩きながら信じることができる。


 広間には、ずらりと膳が二列、それぞれ対面するように並べられ、既にその半数以上が人で埋まっている。

 ここに居るのは全て、咲月を一番最初に引き取った養父母の親戚たちだ。

 実際、見覚えのある顔も少なくない。


 咲月と朔海が広間の敷居をまたいだ瞬間、彼らの視線が一斉にこちらへ向いた。

 それまでのざわめきが、一瞬ぴたりと止まった。皆が向けるのは、一様に困惑の表情。

 一切見覚えのない朔海の存在に、彼らは戸惑いを隠せない様子で、たちまちヒソヒソと小声の会話がそこここで飛び交い、静かなさざめきが場を支配する。

 彼らが向ける視線に、好意的なものは一つもない。


 「……ああ、なんというか……どこも似たようなもの、ってことなのかな、こういうのって」

 少しの呆れと、諦観をこめて、朔海が呟いた。

 

 その中で、あの階段での一件に関わった面々の反応は別れた。

 朔海の存在を面白くなさそうに見るのは、男二人。

 亜梨沙はそれに加えて殺気すらこもっていそうな強烈な憤りの視線をぶつけてくる。

 だが、彼女以外の女の子たちは、揃ってこちらを見ようとしない。


 そんな中で、今回の招集者である亜梨沙の母親が代表として場に満ちる意見をぶつける。


 「……本日の集まりは、私の姉夫妻に縁ある者のみの集まり。あなたが何者かは知りませんが、この旅館は本日私たちの貸切のはずです。今日は、これから大事な話し合いをしなければなりませんので、関係のない者は直ちにここから出て行って下さい」

 言葉こそ、まあそこそこ丁寧ながら、声音には明らかな侮蔑がうかがえる。

 「それでしたら、ご心配なく。僕は、立派に関係者ですよ、ねぇ? 弁護士の北原さん?」

 ずらりと居並ぶ親戚方の、末席に座っていたスーツ姿にメガネをかけたスラリとした体型の30代後半くらいの男性が、朔海に会釈を返した。

 「彼から、今日の集まりの議題を伺いました。彼女――咲月を引き取り手に関する話し合い、だそうですね。今日、僕がお邪魔したのは、まさにその事で、ここにお集まりの皆様方にお伝えするべき事項があったからこそなんですから」

 ぐるりと、居並ぶ面々の顔を見渡しながら、彼は力強く述べた。――それは、明らかに人の前で話す術というのを良く理解し、身につけた者の話し方。

 その堂々とした立ち居振る舞いからは、明らかな気品と育ちの良さが見て取れる。

 

 朔海は、咲月の手を引いたまま、二列に並べられた膳と膳の間を真っ直ぐ上座へ歩き、部屋の端でくるりと一同を振り返り、改めて彼らを見渡した。

 「僕は、彼女と一年以内に婚姻を交わすことを約束した者。――つまり、彼女の婚約者です」 

 少なくとも外見は、咲月と同じか、少しばかり上程度にしか見えない彼のその発言に、一同のざわめきは一気に高まった。

 「……彼女の誕生日は、彼女が施設に引き取られた日、つまり11月で咲月は晴れて16歳になり、この国の法律上、結婚が可能な歳となる。それを待って、僕は彼女と正式に婚姻を結び、僕は彼女の家族になる」

 彼は、居並ぶ面々の前で堂々とそう宣言した後で、その場に腰を下ろし、正座すると、もう一度彼らを見渡した。

 「だから、あなたがたの本日の議題が、彼女の身上に関わる話であるならば、僕は立派に関係者という訳なんですよ」

 朔海は最後に少しだけ、わざとらしい笑みを浮かべてみせた。


 咲月は、彼のその堂々たる言い様に、ただただ無茶苦茶に暴れたがる心臓を必死になだめながら、彼の背を眺める。

 その心に、周りのヒソヒソ声を気にする余裕などなく――

 

 「だっ、だが! ……未成年の婚姻には親の――保護者の許可が必要だったはずだ!」 

 そんな中、親戚の一人が声を上げた。

 「じゅ、16で結婚だなんてみっともない事、法律は許しておろうと我らは許可せんぞ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴るの男に、咲月は見覚えがあった。

 あれは養父の父、咲月の義祖父だ。普段は入居式の老人ホームで暮らしているはずだが、どうやら外泊許可をとれたらしい。

 咲月が居た頃はひたすら無視を決め込んでくれたものだが、養父が義母と結婚することに最後まで猛反対していた彼は、特に世間体を気にする人だった。

 だが、朔海はほのかな営業スマイルを崩さぬまま、余裕の受け答えを返す。

 「許可なら、すでにいただいておりますよ。――弁護士さんにきちんと確認を取りました。咲月の親権が今、誰の下にあるのか。咲月の養父母ごりょうしんの遺書によれば、咲月の親権をとって彼女を養うと決めた家に、遺産の一部を渡す。そうあったそうですね?」

 「――はい、確かに」

 弁護士が首肯を返した。

 「つまり、彼女の親権は、双葉葉月が彼女を引き取った時点で彼に移り、現在一時的に親としての責任を果たせないと判断した彼はそれを豊生神宮という神社の方に預けた。……よって、彼らが現在彼女の親権の所有者であり、つまり彼らの許可があれば、この婚姻に問題は一切ない」

 朔海の述べた現状に、弁護士は再び首肯した。

 「確かに、神崎竜姫様と、晃希様よりの許可を明記した届けを、私がお預かりしております」

 「と、言う訳ですから。……これで、今夜のあなた方の話し合いとやらの議題は無事解決、ですよね? ――では、僕らはこれで失礼させて貰いますよ」

 言うことだけ言って、今にも部屋を出て行ってしまいそうな雰囲気の朔海を、亜梨沙の母はガシャンと音を立てて膳に手を付き、身を乗り出す。

 「――冗談じゃないわ!!」

 ヒステリックに叫び、唾を散らした。

 「私たちが、その娘にどれだけ迷惑被ったと思っているのよ!?」

 「彼女がいったい何をしたと? 根拠のない言いがかりで彼女を侮辱しないでいただきたい」

 彼女の台詞に乗っかるように、ざわざわとより集まってくる悪意に、朔海は面と向かって抗議すると、先程フロントから持ち出してきたあのジェラルミンケースをドンと皆の前に置いた。

 音からしてそれは相当に重いようだ。

 必然的に集まる皆の視線。

 「ですが、」

 その中で、朔海はそう切り出した。

 「その件はともかく、成る程、彼女を養い、ここまで育てていただいたのは確かです。……その扱いがどうあれ、僕はあなた方に感謝しなければならない立場にある」

 だから、と。続けながら、朔海はケースを皆の前で開けて見せた。


 その中身を見せられた一同は、息を飲み目の色を変えた。

 「僕はその心付けとしてこれと、遺書に記された養育費分の遺産をおつけして、進呈しようかと思ってるんですよ。――配分について僕は一切関知しませんから、皆さま方でお好きに分けて下さい」

 朔海はそれを冷ややかに眺めながら笑った。


 ジェラルミンケースいっぱいに詰め込まれた大量の現金。確かにそれは、現在日本国で使用されている福沢諭吉の描かれた一万円紙幣の札束で。

 咄嗟にはいったいいくらくらい詰め込まれているのか、咲月には全く想像もつかなかった。

 「……何で――」

 だって確かにこちらのお金をあまり持っていないのだと、彼は言っていたはずなのに。

 「うん、だってこれでも僕は一応王族なんだよ向こうでは。例え名ばかりとはいえ、あちらの通貨での財産は相応に持ってる。それに、次元の狭間にはそれぞれの世界の通貨を両替できる場所もある。ただいつもは手続きが面倒な上に結構な手数料やなんかがかかるし、そうそうこちらのお金が必要になる事なんかないから、持ち合わせが多くなくてね」

 朔海が小声でそっと咲月の無言の疑問に答えてくれた。

 「でもこれは、今必要なものだから。受付係に大量のチップ握らせて、最速で用意させてきたんだ」

 そう言いながらこちらへ朔海が向ける笑顔は暖かい。

 「まあ、普通に暮らすぶんにはそんな大金、必要ないから。これまで無駄に貯まるだけのお金が、こんなに効果があがるとは思わなかったけど」

 少なくない呆れが交じるため息を吐き、朔海は立ち上がる。


 「さて、これでご納得いただけましたか? ご納得いただけたなら、僕と彼女はこれで失礼させていただきますよ。――今後、僕たちがあなた方に関わることは一切ありません。ええ、二度とあなた方の前に顔を出すことはありませんから、どうぞご安心を」

 にっこりと、綺麗な顔に笑顔を張り付けながら、朔海は言った。――その瞳は、決して笑っておらず冷たく凍るような鋭い光を宿し、周囲を圧倒する。

 そのまま、咲月の手を握り、さっさと広間を出ていこうと、足を踏み出した。

 

 親戚たちの興味は、完全に朔海が置き去りにしたジェラルミンケースの中身に向けられ、それを阻む者は居なかった。

 「待って、朔海、待って」

 広間を出たところでそれを止めたのは、咲月の方だった。

 「……ちょっと、待って。荷物、が」

 亜梨沙たちに呼び出され、置き去りにした荷物。一体どこへやったかと咲月が周囲を見回すが、見当たらない。

 ……あの時は仲居さんたちの目があるから大丈夫かと思ったが、やはり何処かへ隠されでもしてしまったのだろうか……?


 「あの、広間にありました荷物でしたら、フロントでお預かりしておりますが……」

 広間の出口で、給仕のために控えていた仲居さんの一人が、咲月の懸念を否定した。

 「お食事のお支度をする際、置き場に少々難儀をいたしまして……。申し訳ございません、一応あちら様がたにお尋ねしたのですが、構わないとのお返事をいただきまして、フロントでお預かりさせていただいておりました」

 申し訳なさそうに頭を下げる仲居さんに、咲月は慌てて首を横へ振った。

 「い、いえ。あんな明らかに邪魔になりそうなところに荷物を置いたままにしたのは私の方ですから。預かって頂いていて、良かったです」

 「じゃあ、荷物だけ受け取ったら帰ろうか」

 朔海は、先ほど歩いた道をもう一度引き返し、フロントへ向かう。

 しかし、あの広間へ向かった時点で既に7時を回っていたのだ。あれから一体どれだけ時間が経ったか分からないが、もういい時間のはず。

 こんな場所では、いつまでもバスがあるはずなどないし、電車だって似たようなものだろう。そもそも、最寄りの駅までだって車でないと遠すぎる。

 一体どうやって、どこへ帰るつもりでいるのだろう?


 「僕が今日、どうやってここまで来たと思ってるの?」

 朔海が、からかうように咲月を振り返って笑う。

 「あちらから戻って、豊生神宮で事情を聞いて、すぐさま件の弁護士さんの事務所へ押しかけた後、もう一度あちらの世界へ行ってお金を用意して、ここへ来て……。当然、人間界での当たり前の手段を使ってちゃ間に合わないからね。文字通り飛んできたんだよ、自前の翼でね」

 フロントで受け取った咲月の荷物を当たり前のように軽々抱え、朔海は旅館の敷居をまたぎ、頼りない街頭の明かりしかない真っ暗な駐車場を、咲月の手を引きながら歩く。

 

 旅館からは死角となる暗がりを選んで立ち止まると、朔海はパサりとその翼を開いた。

 

 その途端、すぐそばで絹を裂くような悲鳴が上がった。

 「ば、化物……!」


 

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