受け止めるべき真実の欠片(2)
葉月が、朔海の心臓を流れる血を得たならば、半吸血鬼である己の血肉を純血の吸血鬼のそれへと昇華する事が出来る。
……そして、それは――逆も、しかり。朔海が、葉月の心臓を流れる血を得たならば。葉月の持つ、「龍王の血」の力を手に入れる事が出来る。
「おおよそ吸血鬼らしくない性格を持って生まれてきてしまった朔海様は、その為に今までずっと肩身の狭い思いをなさっていたのだけど……」
一つ、小さくため息をついて、紅姫は続けた。
「王族たる地位を狙う者たちへの牽制の意味も含めて、先日呼び出された際に朔海様に下された命令は……1年以内に結婚を済ませる事」
「……け、結婚!? ……あ、でも……そうか……一応三百歳……なんだっけ、彼?」
実際の年齢はともかく、見た目はどうみても自分と大差ない様に見える彼と、その言葉との違和感に、咲月は再び怪訝な顔をする。
「……でも、……誰と? ……王族――ってことは、生まれる前から親に決められた婚約者がいるとか?」
尋ねる咲月に、紅姫は無言のまま首を左右に振った。
「弱肉強食はこの世の理であり、自然の摂理であるけれど。魔界は特にそれが顕著な世界。“力が全て”が魔界の掟。……全てにおいて、ね。勿論、男女の馴れ初めもそう。親同士の決めた許嫁、なんて……魔界ではありえない。自分より弱い相手なんて、所詮食料でしかないわ。伴侶を得たいなら、自らの力で勝ち取るしかない」
魔界に棲む吸血鬼の女が好むのは、力ある男。
死闘の末、自らを死の淵へ追い込むだけの力を持った男と出会った時、彼女らは初めて頭を垂れ、その男に従属を誓う。
その、行為自体はそう難しい事ではない。吸血鬼だってピンからキリまでいる。
――けれど。
「僕は……」
そんな方法で手に入れた妻を、愛す自信は無かったし、好きになりたいとも思えない。その行為に朔海は、ひどく嫌悪を感じていた。
死ぬのは、そんなに怖くなかった。自分が殺される事は、朔海にとってそう悩ましい問題ではなかった。
けれど、母や実弟が殺される事は、あまり好ましい事ではなかった。
彼らは自分を嫌っているし、自分も彼らを好きではない。しかし、だからといって自分の所為で殺されるというのは何とも後味が悪い。
それでも、ただそれだけのために好きでもない女性と結婚するなど、……例えプロポーズの方法には無理矢理にでも目を瞑り、考えない事にしたとしても――……やはり受け入れがたかった。
「僕が大切にしたいのは……今まで、葉月と……お前達だけだったのに……」
ギリギリと、握り拳を力いっぱい握りしめる。
「今、僕が大切にしたいのは……」