空から降ってきたものは、美少女ではなく槍でもなくアレでした~概念崩壊エクスタシー、母さん、俺汚されちゃったよ、ぴちょん(涙)~
俺の名前は佐藤那音。
年齢は17歳で、高校2年生。
身長は175cmで、顔はイケメンだ。
趣味はサッカーが好きな奴をディスる事と、野球が好きな奴をアゲアゲしてから最後にディスる事だ。
つまりディスる事が好きで、性格が悪い。
誤解のないように一つ断っておくが、俺はべつにサッカーや野球が嫌いなわけではない。
まぁこれまでの人生で学校の部活に所属した事は1度もないし、TVで試合中継もほとんど見たことがないので、特別好きというわけでもないのだが。
まぁそんなどーでもいい事は置いておいて、それよりもだ、そんな普通の感性と、超カッコイイフェイスの俺には最近一つ悩みがあるんだ。
また誤解のないように先に一つ断っておくが、俺はべつに頭がハゲてるわけでもないし、頭が悪いわけでもないので、だから悩みとは頭部以外の事だ。
頭以外、つまり……
「ねぇ那音、さっきから上の空だけど鈴の話聞いてる~?」
つまり悩みはコレの事だ。
この女の事で俺は夜も眠れない程に毎晩悩んでいるのだ。
この女、俺の事をスーパーのような名前で呼ぶコイツは、北東院鈴夢というキラキラネームで、同級生クラスメイトだ。
そして更に言うと、物心がついた頃からの付き合いがある、つまり幼馴染で、そして美少女だ。
身長は164cm、痩せていて足の長さは92cmもある。
イケメンの俺よりも足が長くて腹が立つが、あまりジロジロと見ていると違うところも立ってくるので、まぁ一応足だけは許してやっている。
胸は92のGカップだけど、高2の今でも成長を続けていて最近はデータを取得してないので正確な情報はわからない。
そんな鈴夢を一言で表すとすれば、巨乳ロリJK、もしくは、見てるとスゴクムラムラする、といったところだろうか。
「うん、全然聞いてなかった。朝の空が清清しくてとても綺麗だったから暫し惚けていたんだ」
頭の良い俺がそう詩的に返事を返すと、鈴夢はクスッと一つ笑って、右手で持っている通学鞄を左手に持ち替えた。
馬鹿にされたのか「仕方ないやつだなぁ~」と言った感じに呆れられたのか、俺には鈴夢の気持ちがわからなかったが、話を無視した事は許してもらえたようでホッとした。
「本当にニャオンは仕方ないな~じゃあ優しい鈴がもう1回だけ聞かせてあげるよ」
コイツの話には興味がないし聞きたくもなかったが、俺は顔だけではなく性格もイケメンで優しいので、仕方なく鈴の仕方ない話に付き合ってやった。
「昨日の「アレ」の事なんだけどね、鈴は1ミクロンも悪くないし、悪いのは全部ニャオンなんだから、その事だけは肝に銘じておいてほしいんだ。鈴と付き合いの長いニャオンの事だから、誰かに漏らしたらどうなるかは言わなくてもわかるだろうケド。でもね、鈴は少しだけ不安だから念を押したいの。だから今日放課後にちょっとだけ付き合ってほしいんだ」
コイツの名前は北東院鈴夢。
俺の幼馴染で、日本人離れしたスタイルの美少女だ。
そんなコイツのステータスにもう一つ情報を付け加えると、性格が最悪、だ。
俺の事をスーパーだか小動物だかわからん名前で呼んで「家畜扱い」する、そんなドSな性格なのだ。
「あ、そうだ、昨日ニャオンに付けてあげた貞操帯ってまだちゃんと装着してるかな?」
「あぁ着けてるよ。というかどうやっても外せなかったしな」
晴れ渡った空を見上げながらそう言った後、心の中で一つ願った事がある。
(美少女か、もしくは槍でも降ってこないかな。全部壊してくれる何かが……)
今は3月、今日は終業式だ。
何かが起こる事を期待しながら登校していった。
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先月不祥事を起こして挿げ替えられた、毛根が少ない校長の長い話が終わり教室に戻り、ホームルームが始まる前の休憩時間に友人の神明誠一郎が話しかけてきた。
「よう那音、相変わらず楽しそうだな? 何か良い事でもあったのか?」
机の上置いたTVのガイド本から、友人の方へと顔を向け、俺は真顔のままで返事を返す。
「なんだ誠一郎か。べつに楽しくはないし良い事もないぞ? ていうか昨日は悪い事があったし、どちらかといえば今日の気分は良くない方だな」
そう言うと俺は巻頭のグラビア写真に目を戻し、水着姿の女子高生がレモンを手で握り潰している写真を凝視した。
そうして短い休憩時間を楽しもうとしたのだが、誠一郎が少し語気を荒げて話しかけてきて、せっかくの楽しみを邪魔をしてきた。
「何かいつもより冷めてーな? もしかして那音、昨日の事でまだ怒ってるのか?」
誠一郎はTVガイドに手を置いて、写真を隠しながら言ったので、俺はほとんどキレる寸前になった。
よく見ると手で押し付けられた箇所は皺が寄っていて、股間部分に折れ目がついてしまっている。
「いやべつに怒ってないけど。てかそんなアレの事よりも手を離してくれないか? これ昨日買ったばかりだから、まだ1回も「ガイド」してないしさ」
睨みながらそう言うと、誠一郎は慌てて本から手を離して謝罪した。
書物を荒らされかなりムカついたが、昨日の事もあるので俺はそれ以上怒る事はしなかった。
そう、誠一郎は俺に貸しがあるのだ。
弱みを握られた、というわけではないが、あまり強く出れる立場ではないのだ。
だから俺は……
「そんな事よりもさ、鈴を放っておいてもいいのか? さっきからアイツ男子に囲まれてるぞ? 終業式だからナンパでもされてるんじゃないか?」
だから俺は逃げる事にした。
幼馴染の鈴をダシに使って、同じく幼馴染の誠一郎から逃げた。
俺は人の上に立つのは好きだが、下に這い蹲るのは嫌いなんだ。
俺は普通の感性の持ち主なんだ。
マゾではないし、もちろん貞操帯も嫌いだ。
それにもちろん人に貸しを作るのも嫌いだ。
だから鈴と誠一郎のニャンニャンシーンを目撃して、バツが悪い2人とは一緒にいたくなかった。
ドSの鈴は嫌いだし、ドMの誠一郎も嫌いなんだ。
俺は普通の感性の持ち主なんだ。
幼馴染だろうが美少女だろうが親友だろうが、そんなヤバい変人達となんて関わりたくないのだ。
男子に囲まれ、下種な笑みを浮かべて誠一郎を見ている鈴と、高潮した顔で鈴を見つめる誠一郎の2人を見て、俺はそんな風に考え、深く溜息を吐いた。
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「トイレもいけないし、仕方ないから外してあげるね。優しい鈴に感謝してね?」
「いや自分で外すから鍵を貸してくれ。それと……いや、何でもない」
当たり前の事を言われて、鈴はハッとした顔で驚いていた。
たしかコイツの成績は学年でトップだったはずだが、と、とても頭が悪そうな鈴の様子に、俺は少し心配になった。
(やっぱりコイツは学校の勉強ができるだけだな。頭の回転が遅いし、自己中だし、それに俺に酷い事をするし、本当に愚か者で許しがたい)
そんな事を考えながら鈴に背を向けて鍵を外していると、突然誰かの叫び声が聞えてきた。
声に驚いた俺は、土の上に鍵を落としてしまって、慌てて地面に手を伸ばして、とその時だった。
膝の少し上でがに股になってズボンを押さえていた脚から、ズボンとパンツがスルッとずり落ちてしまったのだ。
手を伸ばした時、少し腰を引いてしまったのが原因なのだが、そんな理由はこの際どうでもいい事だった。
それよりも問題は……
「きゃああああああ!!」
お尻を見られた事が問題だ。
べつにお尻を見られた事が恥ずかしいわけではない。
俺の尻は顔と同様に、とてもピチピチしていて、シミ一つなく綺麗なイケメン尻なので見られてもべつに恥ずかしくはない。
つまり今憂慮すべき問題は……
「ほ、北東院さん!? い、一体2人で何をしているの!?」
「あ、ち、違うの! こ、これはその……」
つまり誰だか知らん女生徒に見られて叫ばれた事が問題なのだ。
「生徒会長なのにこんな所で不潔ですね……私ずっと憧れてたのに……」
「ち、違うの! これには深い事情があって……」
「言い訳なんて聞きたくないです! 男の人に、そ、そんな、お、お尻を出させて……」
「違うのぉ! 話を聞いてぇ!」
「嫌です! もう会長なんて信じられないです! そうだわ! 早く拡散して皆にも知ってもらわないと!」
「やめて!」
俺の心の中は「充足感」と「企み」でいっぱいになっていた。
最初はピンチだと思った。
見知らぬ下級生の女子にケツを見られ、学生生活が終わる事さえ覚悟していた。
が、しかし、今はそんな事態にはならないと確信している。
下級生の目には鈴の事しか映っておらず、俺の事など眼中に無く、完全にモブ扱いなのだ。
このまま話が進むとたぶん鈴は下級生に脅されて百合百合な関係を強要される、なんて事になるだろう。
「ふーん、会長やめてほしいですか?」
そうなれば俺は鈴の「呪縛」から逃れる事ができる、はずだ、たぶん。
そして、そうなれば俺は「まとも」な学生生活を送る事ができるはずなんだ。
幼い頃から北東院の家の執事としてこき使われてきた俺が、やっと人並みの幸せを得る事ができる。
だから俺は本気を出した。
この絶好の機会を逃さぬように、自ら1歩を踏み出した。
俺の本気、俺が持ち得るものを全て吐き出す。
誰にも頼る事無く、神になど祈らず、空から何かが降ってくると、そんな人任せを止めて、自分の力を全力で振り絞った。
そして今、俺は勝利者となった。
鈴と誠一郎、下級生の3人は退学処分になって、そして俺は3年生に進級した。
今俺の前に広がるのは、新しい世界だ。
新しい教室、新しいクラスメイト、新しい出会い、そんな俺がずっと望んでいた世界がこの先にあるんだ。
教室の扉に手を掛けて踏み出した。
鈴の家来になって15年、やっと俺は進む事ができたんだ。
幸せに向かって、小さな一歩を。