世界最強決定戦
「モノマネ師という職業がこの世界で最も強力だからです」
「はい?」
俺はその女神様の言葉を容易に信じることができなかった。
モノマネ師という職業は確かに強力な職業の部類に入るとは思っていたが、さすがにそこまでとは……。
色々な職業やスキル、ましてや容姿まで変更可能という万能ぶりではあるがそのレベルで複製するには少々時間が掛かりすぎるきらいがあるのだ。
事実、容姿まで真似るというのは生前二年強旅をしていたが一度しか使用していない上に、労力に比べるとそこまで価値があるものに思えなかったからだ。
それにこの職業では複製できない職業やスキルがある。それがユニークジョブやユニークスキルというものだ。
最も有名なユニークジョブを挙げるとするならば、やはり勇者だろう。
そしてユニークスキルはエリの死因にもなった強力スキルである。
「やはり気づいていませんでしたか」
鳩が豆鉄砲を打たれた顔とはこんな感じなのだろう、目を見開いて口を半開きにしている俺を見て女神様はそう言った。
「いやいや、気づいて無いもなにも無いですよ! 最強の職業は勇者でしょう!?」
隣にいたエリが未だ放心状態から抜け出せない俺の代わりに話を進める。
「ええ、確かに勇者は最強です」
女神様はそう言い切る。
「それならば一体なぜ?」
「エリ、考えたことはありませんか? もしモノマネで勇者のことを複製できたのなら、と」
脳みそに稲妻が走った。
やはりできたのか、ユニークジョブの複製、ましてや勇者の複製などやろうと思ったこともなかったが俺は直感的にそう感じる。
「確かに勇者は世界最強職であり、単純に戦う技能に関して言えば世界広しといえど並ぶものはありません。ですが勇者がもし二人だったら? もう一人の勇者も世界最強であり、肩を並べることができるのです」
「そしてその勇者になり得る可能性を秘めているのがモノマネ師、だということですか」
状況を理解してようやく口を利けるようになった俺は女神様に問いかけた。
「そういうことです。さらに言えばモノマネ師は勇者以外にもこの世の中にある職業ならばどの職業でも複製が可能、原理的にはロストジョブでさえも複製することができる、オールラウンダーの職業なのです」
「そんな、ロストジョブまで……」
ロストジョブまで複製可能?
ロストジョブとはこの長い魔王との戦いで失われていったもう発現することが無いと言われている職業だ。
「『神の使者』と呼ばれる職業はご存知ですか?」
もちろんだ、ロストジョブでもっとも有名なのは『神の使者』と呼ばれており、ある噂では勇者すらも凌駕すると謳われる職業である。
「その神の使者と呼ばれている職業、その正体はモノマネ師なのです」
だめだ、脳みそが追いつかない。
隣にいるエリさえもう何も考えられませんって顔をしてる。
しかし俺もエリを責められる立場にはいない。世界最強職が実は俺の職業であるモノマネ師でユニークスキルを複製できて、しかもロストジョブである神の使者は実はモノマネ師だったなんて情報処理が追いつくわけがない。
「すみません、情報を一気に流しすぎたようですね。少し休憩がてら実践してみましょうか、複製」
そうして俺たちは謁見室を女神様を先頭に退出しどこまでも続いていそうな真っ白な廊下を進んでとある部屋にやってきた。
広さは東京ドームほどといえばわかりやすいだろうか。
床は廊下と同様真っ白なタイルで覆われていて天井はかなり高い。
壁はすべすべとした材質でこれまた白だ。
「ここは一体?」
エリがキョロキョロしながら周りを見渡しながら質問している。
長いことここに女神様のところで働いていたがこの部屋は初めてなのだろう。
「ここはその昔、神々の闘技場として使われていた場所です。今では神自ら戦場に赴くことが無くなったので誰も使用していませんが」
「神様たちの闘技場ですか!? そのような場所で一体何を?」
なんとなく想像はできるが一応聞いてみる。
「もちろん闘技場に来たのですから戦ってもらいますよ」
やっぱり。
「た、戦う!? 戦うっていったい何と!?」
エリは全く予想がついてなかったみたいだ、あからさまに動揺している。
「対戦していただくのはアキとエリ、あなたたちです」
「なるほど、エリの勇者を複製して戦えと」
「理解が早くて何よりです。ですが別に勇者以外にも複製してかまいませんよ?」
どうやら女神様は本当にユニークスキルを複製できるか身をもって体験させるつもりのようだ。
しかしエリは生前の時の俺との差をよく理解しているため、
「お言葉ですがミリア様、私とアキとではあまりに差が開きすぎています。たとえ勇者をコピーできたとしてもオリジナルの私には到底かなわないのでは?」
全くエリのおっしゃる通りだ。
たとえ俺が勇者を複製できたとしても地の力比べや技術力ではエリに一日の長がある。
しかしそれは勇者のみを複製した場合だ。
ユニークジョブやユニークスキルが複製し放題の今の俺にとってみれば、技術や力を他の面で補えるどころか勝ち星さえ見える位置にいる。
「せっかくだしやろうぜ、エリ。俺の本気見せてやるよ」
あの圧倒的強者のエリにあまつさえ勝利が期待できるというこの状況に俺は思わず微笑んでしまった。
「ほう、君が本気を見せると言ったときは大体私が勝っている気がするが……。しかしその気概を無駄には出来んな、私にも勇者のプライドがある、いくらアキといえど手加減は出来んぞ?」
エリも俺の挑発でやる気満々のようだ。
「いい感じに熱くなってきましたね、それでは二人とも本気でやってくださいね? もう死んでるんですから怪我なんて気にしないで!」
俺たちは目配せをしながら闘技場の中心まで歩き、そのまま向かい合う。
シン――と空気が張り詰める。
エリの勇者ならではのプレッシャーだ。
「本気だな」
「もちろん」
「行きますよ! レディ! ファイ!」
遠いところで女神様が開始の合図を叫ぶ。
そしてついに神界で世界最強決定戦が始まってしまったのだった。