世界最強だったらしい
更新遅れて申し訳ありません。
引き続き、誤字脱字あれば報告よろしくお願いいたします。
しかしこれは一体どういうことなのだろう。
腕の中にしっかりとエリを感じながら思った。
エリは俺を助けて死に、そして俺もエリの遺体を守るために、いや守りきれずに死んでしまったのだ。
女神様の時間の話は嘘という可能性もない。すぐ輪廻転生して記憶をなくす俺に嘘などついても意味がないからだ。
嘘ではないとすればエリは輪廻転生を免れてずっとこの神界にいたのか、もしそうだとしたらどれほどの時間ここに――
そうしてエリと再び出会えた安心から気を抜いていろいろ考えていると腕の中から、
「も、もういいだろう……。なんだか恥ずかしくなってきたぞ」
と赤面しながら少女が訴えてきた。
そうだな、と腕の力を抜くとエリはゆっくり立ち上がる。
「本当に女らしくなったもんだな、勇者谷津の面影はどこにもない」
「なっ、何をいきなり! まあそれはそうだろうな、私は死んでから女神様の下で働いて性別を偽ったりする必要もなかったのだから。というか急に女らしいとか言うんじゃない!」
「女神様の下で働く?それは一体どういうことだ?」
再び顔を赤くして何やら喚いているがそれは二の次だ。
俺はエリの言葉の中で重要なことを聞いた、まずはそれを問う。
「それに関しては私から説明させていただきましょう」
女神ミリアが口を開く。
「ですがその前に、エリ。輪廻転生の動物の部を終えたそうですね、お疲れさまでした」
女神ミリアは俺の横で突っ立っているエリに微笑み、ねぎらいの言葉をかけた。
「い、いえ!未だに他の担当者より倍以上時間が掛かってしまっているので逆に申し訳ないです。それに私のわがまままで叶えて頂けるなんて」
「そんなに自分を卑下していてはいけませんよ、あなたは新人ながらこの仕事を充分にこなせています。それにあなたのわがままに掛かる手間などあなたのここでの働きに比べれは微々たるものです、どうか気にしないで」
「ありがたいお言葉、光栄です!」
「あのー、盛り上がっているところ申し訳ないのですが……」
「あ、すみません。そうでした、エリが何故ここにいるのかという話ですよね、ではまずあなたたちを転生させるときの話からしていきましょうか」
先程の柔らかい雰囲気とは打って変わって急に顔に真剣みが帯びていく。
ここで座っているだけなのに背筋が伸びる、流石女神様だ。
隣にいるエリもいつになく真剣な顔をしている。
「そもそも私はあなたたちを勇者とその強力な相棒としてこの世界に転生させました。そしてあなたたちは私の期待通り、類稀なる魂の強靭さで魔王を自滅にまで追い込み、この世界を救ってくれた。しかしそれには多大な代償を支払う必要があった。あなたたちの仲間や、元勇者谷津絵里の命、そしてアキ、あなた自身の命さえも」
「ええ、ですが俺たちはそれを承知で転生したのです、確かにかなり精神的に参りましたがミリア様が気にするところでは――」
「いいえ、あなた方が失意の中死んでいったのは私の浅知恵のせいでもあるのです」
「そこまで言い切る必要はどこに?」
「第一、あなたたちを転生させるにあたって、元の記憶、身体を保持したままというのはこれまで前例がなく、実はほかの神々から反対されていたんですよ。一度でも特例を与えれば他もそうせざるを得なくなる、と。ですから私は特例には特例にとあなたたちを魔王を討伐する勇者として召喚するという建前でほかの神々に特例を認めさせたのです」
そういうことか。てっきりよくある異世界転生だと思っていたが実はそうではなかったらしい。
むしろこの女神様は普通の人間に転生させるつもりだったようだ、俺たちになるべく危険が伴わないように。
本当に一体どこまで優しいのだろうか。
「なるほど、それで私を勇者に、アキをモノマネ師にして送り込んだのですね」
「あれ、お前もこの話初耳なのか? てっきりもう聞いているもんだと思ってたけど」
「いや私が死んだときも説明しようとしてくださったんだがな、どうせなら君と一緒に聞きたいと思って」
「それは俺が死ぬのを待っていたってことでいい?」
「まあそうなるね」
「おい!」
「でも勘違いしないで、私は君が魔物に蹂躙されるのを待っていたわけじゃなく寿命で静かに息を引き取るのを待っていたんだ。それなのに全く、私の、しかも生きているならまだしも死体の為に死んでしまうなんて。私の亡骸など放っておいてよかったんだぞ?」
「そんなことできるわけ無いだろ! お前の死体があいつらに貪られるくらいならこの俺の身体を差し出した方がましだ!」
「全く君は――」
「オッホン、よろしいですか?」
久々にエリと舌戦を繰り広げていて全く気付かなかったが、女神様がジト目をしていらっしゃった。
「「すみませんでした」」
即座に謝りどうぞどうぞと、続きを促す。
「もう次は待ってあげませんからね? あなたたちを転生させるにあたって一番の問題点はアキ、あなたの職業についてでした」
「俺の職業? モノマネ師のことですか」
「はい。不思議に感じませんでしたか? 隣の少女は勇者なのに自分はモノマネ師なんてよくわからない職業で」
「少しは。ですがミリア様がお決めになったことですから、そういうものかと納得してしまいました」
確かに転生するときモノマネ師って何ぞや? となったのは覚えているがそこで文句をつけたら転生を取り消されてしまう気がして疑問を丸々飲み込んだのだ。
職業が気に食わないという理由でエリと離れ離れになるなんて絶対に嫌だった。
「なるほど、では未だに気になりますよね、アキ、あなたに何故モノマネ師という職業が選ばれたのか」
「聞いてよろしいんですか」
「ええ、別に言わない理由もありませんから。あの時は転生させるのが少しでも遅れれば反対派が押し切りそうだったので理由も説明せずに転生させてしまいましたが……。今思えばそれが一番の失策だったように思えます……」
女神様は眉を八の字にして悲しそうにうつむくてしまった。
俺は急いでフォローをする。
「気にしないでください! そもそも無理を押して転生させていただいたのですから文句など全くありませんよ!」
「そうですか、そういってくれるのであれば転生のさせ甲斐があったというものです」
「それでなぜ俺はモノマネ師に?」
「それは、モノマネ師という職業がこの世界で最も強力だからです」
なんとも言えない顔でそう言い切る女神様を見る。
どうやら俺は生前の世界では最強の男だったらしい……。