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人は皆誰かを騙して生きていく  作者: 筧麟太郎
1/5

騙し騙され。

書きたい小説を書きました。

稚拙な小説かもしれませんが、読んでやってください。

【誤字脱字を修正しました】

 「ううッ」 

 目が覚めた。

 その瞬間途轍もない虚無感と後悔に襲われる。


「俺のせいであいつは……」


 ふと昔を思い出す。

 いつも俺が騙す側だった。

 魔族を狩りに行くといって歓楽街に遊びに行って飲んだくれたり。

 脱税を行っている地方最大の商店に税務相と言って多額の賄賂を受け取ったり。

 強くなるための努力なんて一切してこなかった。

 人を騙すことばかり考えていた。

 そういうスキルだからだ。

 人の目を気にして空気になるのが得意な俺にお似合いのスキル。

 人を騙すなら俺以上に上手いやつは絶対にいないと思っていた。どんな悪代官や名役者もこの俺には敵わないと。

 しかし今それはただの思い過ごしだと知らされた。

 最後の最後に裏切られたのだ。最も信頼を置いていた仲間に。










「谷津ッ……」


 俺は口から溢れ出る血を抑えながら生き埋めになっているはずの親友の名前を叫んだ。


 数世紀も前の建造物であろう古びた城の中、がれきの山をかき分け谷津を探す。最初は自分を含め五人もいたパーティーメンバーも今では全員がれきの下敷きになってしまい、当初の目的である魔王も自滅で城の倒壊とともに身を滅ぼした。

 最後まで残った谷津と俺はどうにかして城の崩壊を食い止めようとしたがそれは叶わず、俺と谷津はがれきに生き埋めにされた。

 普段であればこの程度のがれきなんて一瞬で吹き飛ばせるが、魔王と戦い体力を限りなく消耗した俺たちにはかなり厳しいものがあった。

 しかし俺はスキルの特性上まだかろうじて動けることは知っていたので、とある町で出会った筋肉バカのことを思い出しながらやっとの思いでがれきをどける。


「谷津!いるかー!?」


 城壁の破片に足を取られながらゆっくり一歩ずつ歩を進めていく。


「お、遅いぞこっちだこっち」


 ある程度進んだところで微かに谷津の声が聞こえてきた。


「そこか、待ってろ!」


 谷津の声が聞こえたところまで走って行き、疲れを忘れたようにがれきの山を次々にどける。

 しかし現れた谷津の体は悲惨だった。


下半身は潰れ原型を留めず、幾千、幾万もの人々を魔族の悪の手から遠ざけた谷津の右手は、同じようにがれきで潰れてちぎれていた。


「おい!大丈夫か!待ってろ、俺がすぐに治してやるからな!!」


 額に脂汗と瞳に涙を浮かべつつ、俺はまず今まで出会った中で最高の治癒術師を脳裏に浮かべる。

 すると徐々に頭の中に治癒術の使い方が浮かび上がって来た。


モノマネ(フェイク)


 そう呟くと知っている限りの治癒術を谷津にかけていく。

 しかししばらく続けていても谷津の欠損部分は一向に良くならない。


「なんでだよっ!この治癒術なら欠損部分も治るはずだろ!」


 くそ、どうすればいい。どうすれば谷津を助けることができる?

 脳みそをフル回転させて頭の中に考えを巡らせる。

 そうか、わかった。

 ユニークスキルを使えばいいのだ。

 しかし、俺の能力には限界がある。

 俺のモノマネ師(ザ・フェイカー)と呼ばれる職業は、相手を複製(コピー)してその能力を使用することができる。

 色々条件は必要だが殆どの人間なら容姿まで複製することが可能だ。

 しかし穴があるのも事実。

 この能力ではユニークスキルやユニークジョブは複製が不可能なのだ。

 それもそうだろう、世界を滅ぼすほどに強力なユニークスキルもあると言われている。

 そんなものを二人も持っていたら危険すぎる。

 しかし目の前の谷津を助けることができるのはユニークスキルのみ。

 どうやってユニークスキルを複製すればいい……。

 考えながらも谷津には治癒術を使用し続けている。

 するとようやくまともに口が利けるようになったのか、谷津が話しかけてきた。


「なあ、もういいよ」


「は?何言ってんだお前、いいわけ無いだろ。もうちょい待っとけお前はもうすぐ治るから」


 こちらの焦りを感じ取らせないようにぎこちない笑みを浮かべて返答する。


「無理だ、この傷だといくら治癒をかけたところでもって五分、ましてやユニークスキルでも使わない限りは――」


「……」


「おい、まさか!グフッ」


 いきなり大きな声を出したからだろう、谷津が赤黒い血を吐いた。


「大丈夫か谷津!大声出すんじゃねぇ、傷に響く。おちつけよ」


「落ち着いていられるか、君ユニークスキルを複製しようとしてるだろ!どうやってやろうとしてるのかは知らないがやめろ!君まで死ぬぞ!」


「ああ、ユニークスキルを複製すれば言い伝えによると俺は死ぬだろう」


 そうなのだ、谷津が言った通り、昔からの言い伝えではユニークスキルを複製した人間は塵になり消えた。

 ユニークスキルとは神が選ばれし人間に授けた力。

 それを複製するということは神に逆らうのとほとんど同義だ。

 たとえ塵にされても文句は言えない。


「ならッ――」


「いや俺はやる。お前を死なせるくらいならな」


「やめろ!君は生きるんだ!だって……」


 谷津が言葉を詰まらせる。内容が気になるが今はそんなことを気にしている場合では無い。

 とにかく谷津を安心させなければ。


「……分かった、とりあえず治癒は続ける」


「やけにあっさり引いちゃって、もうちょっと私に命かけてくれよ」


 複製をやめると言った俺に谷津は安心したのだろう、冗談を言って苦し紛れに笑っている。

 すまんな、谷津。俺はまたお前を騙した。

 そして俺はまたユニークスキルをどうやって複製するかをまた考え始める。

 何故俺はユニークスキルを複製できない?

 そうやって説明されたからか?

 それをやってもないのに真実だと認めてしまったのか?

 複製できないのにどうして言い伝えが残っている?

 俺は騙されていたんじゃないか……?

 ここまで来て閃いた。

 一か八か、ユニークスキルを複製する方法を。


 少しの間沈黙が続いたせいか、安心しきって眠っている谷津にまた騙してすまんと声をかけ、


「騙すのもこれが最後だから許してくれ」


「ユニークスキル自己犠牲セルフ・サクリファイス複製(コピー)


 静かに複製のスキルを唱える。すると途轍もない頭痛とともに自己犠牲の情報が頭に流れ込んでくる。

 これはかなりきついが、いけそうだ。

 やっぱりそうなのだ、俺は騙されていた。

 恐らくユニークスキルを複製できた前例は無いのだろうが、多分昔ばなしの時に複製しようとして失敗し、とんでもない被害を被ったのだろう。

 召喚した王国も止めるわけだ。

 しかしそこまで理解してしまえば原理は簡単だ、王国が俺を騙してユニークスキルを複製できなくしたのならば、自分もまた自分を騙せばいい。

 俺なら複製できると信じ、自分を欺いてやった。 


「頼むからまだ寝ててくれよっ!」


いけるっ!


モノマネ(フェイク)ッ!!」


もうすぐだ!待ってろよ、谷津!


自己犠牲セルフ・サクリファイス!!!!!!」


 叫ぶと全身から一気に力が抜けていき、その場に膝を着く。

 思い切り地面に倒れたい気分だが谷津が回復するのを見届けるまでは死ねない。

 しかし視界が徐々に眩んで行くのでその望みもかなえられそうもないだろう。

 ぼやけた視界の中、ジッと目を凝らすと自分の体から紫色のオーラみたいなものが、すごい勢いで流れ出て、すべて谷津の体の中に入り込んでいく。


「これはもう、完璧っしょ……」


 そして、自分の魔術がかかっていることを確認しこのまま倒れこもうとした時だった。


「やっぱりね、君ならやると思ってたよ」


 そう言って回復した足で立ち上がる谷津がいた。


「私が君の嘘に気づかないとでも?バレバレだったよ、アキもまだまだだね」


 そういってほほ笑む谷津を見た瞬間、しまったと思った。

 俺が使用した自己犠牲は谷津本人、勇者のユニークスキルであり、瀕死の仲間を自分の命と引き換えに助けるというものだ。

 どうせユニークスキルを複製すれば死ぬのだからと、知っている中で最大のユニークスキルを複製してやった。

 それはまだいい。

 使ってしまえば谷津は一瞬で回復し俺は死ぬものだと思っていた。頭に入ってきた情報もそう告げている。

しかしなんなんだ。

 これはあまりに時間がかかりすぎている。

 そして気づく。

 一つ、可能性を見落としていた。

 複製には共感(シンクロ)率というものがあり、それは基本的に100パーセントになることはまずない。

 複製しても完璧にその技を複製することは不可能なのだ。

 

 つまり今回の複製でダウングレードしたのは時間。


「時間がかかりすぎた、か……」


 遠のく意識の中で悔いる。恐らく時が経ちすぎて、谷津が目を覚ましてしまったのだろう。

 何故そこまで考えて使用しなかったのか。

 瀕死の谷津の意識を飛ばす魔術なんていくらでも複製できたはずだ。


 すると近くで妙に誇らしげな谷津の声が聞こえる。


「昔から詰めが甘いんだよ、アキは。魔族倒すって言って歓楽街に遊びに行った時だって――」


「や、めろ……」


 嫌な予感がする。


「ひどいな、最後くらい昔ばなしさせてほしいんだけど」


 最後ってなんだよ!


「そういう、ことじゃ……」


 だめだ、もう上手く舌が回らない。


「でもそろそろアキも限界みたいだし、しょうがないかな」


 谷津がほほ笑んだ気がした。


「うああああああああ!!!!!」


 遠のく意識を無理やりつなぎとめるように、そして何より谷津を止めるために叫んだが、無駄だった。


 谷津は左手で愛剣を天に掲げ叫んだ。

 結局か、いつも最後にはこいつに勝てないんだ……。


「神に告ぐ!この者を私の命と引き換えに救い給えッ!」


 嫌な予感が的中するとともに、その天まで響く声とともに谷津の周りに光が降り注ぐ。

 ずるいぞ、俺にはそんなものなかった。


「エ……リ……」


 やっと言葉が出たがもう遅い。

 エリ、谷津絵里はこちらを振り向いて優しく微笑んだ、気がした。

 もう何も見えない、エリに注がれていた俺のオーラも終わりに近づいているのだろう。

 このまま時間が経ってエリを助けられたらどれほどいいか、そう思いながらエリの最後の声を聞き届けた。


自己犠牲セルフ・サクリファイス


 ああ終わった。

 そして今度こそ意識が遠のいていく……。

 まどろんだ意識の中エリの声で愛してると言われた気がした。


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