友達との別れ
「・・・出ない」
何時もなら、少し時間は掛かっても、電話に出てくれたり、すぐに掛け直してくれたりするのに。
もしかして、今は高校生に上がってすぐだから、忙しかったりするのかな。
「・・・彼方に頼ってばかりは、ダメだよね」
昔から、私は泣き虫で、よく彼方に助けて貰っていた。
泣くな、もっと強くなれと、事あるごとに言われていた私は、今では泣き虫な影は何処へやら、友達も多く作れる様な人間になれた。
そんな私を、彼方にも見せてあげたい。
だから、最後には私が決めないといけないんだ。
「・・・よし!」
編入しよう、志刻学園に。
そして必ず、彼方に直接会って言うんだ。
私は、彼方に敵わないかもしれないけど、こんなに強くなったよって。
数週間後。
私は粗方手続きも終え、明日には志刻学園に編入する事になっていた。
彼方とはあの後、ちゃんと連絡も付いたけれど、サプライズにしようかと思って詳細は言わなかった。
唯、少し彼方のいる学園の近くに編入する、とだけ伝えたのだ。
『へぇー・・・お父さんの仕事の都合か何か?』
「へっ!?いや、うん・・・そんな所、かな・・・?」
『そうか・・・こっち着いたら連絡しろよ。みんなに紹介するから』
彼方からの返答を聞く限り、私が引っ越すとでも思っているのだろう。
まぁ一応、志刻学園は私の家から遠いので、そこの寮に住むつもりだから、引っ越す事と似ているといえば似ているのだけれど・・・
「うん・・・不慣れな事ばかりだと思うし、そっちに慣れてる彼方がいると心強いな。お願いね」
『?・・・あぁ、分かった。じゃあ、ちょっと最近忙しくて・・・今日はもう切るな』
「うん、ごめんね。それじゃあまた」
そんな話をし終えて、電話を切る。
その時の私は、彼とまた会えると、嬉しく思いながら眠ったのだった。
・・・今更ながらにドキドキしてる。
私が学園に入る事になって、彼は喜んでくれるだろうか。
あの学園に入れるという事は、何かしらの才能を認めてもらえたという事。
・・・まぁその才能については、未だに何も伝えられていないのだけれど。
今まで、平々凡々に育ってきただけの私が、その学園で上手くやっていけるのだろうか。
出来れば、その学園での友達が、沢山出来ればいいな。
しかし、編入前のこの前日。
彼方は私の電話に出てくれる事は無かった。
明日は朝早くから学園に向かわなければならないので、早々に寝るつもりだ。
だから、もし彼から折り返しの電話が掛かってきても、出ることが出来ないかもしれない。
「・・・よし、ギリギリまで起きておこう」
そう決意を固めてから数十分後。
結局、彼が電話を掛けてくる事は無かった。
前の電話で言っていた通り、彼は最近忙しいのかもしれない。
それで、私からの電話に出られないし、掛け直せないのだ。
それから、やはり彼から電話が掛かってくる事はなく、私はそのまま眠りに就いたのだった。
そして次の日、私は志刻学園の車に迎えられて、学園に向かう事となる。
どう見ても家の目の前に止められた車は、黒塗りの高級車。
普通に暮らしていれば、お目に掛ける様な代物では無い。
「はぁ~・・・!名門校ともなると、最早扱いが違うんだな・・・」
隣で車を見つめる父さんの呟きに、私は苦笑を浮かべる。
そうして私は、運転手らしき人に荷物を預けると、車に乗り込もうとする。
「菫っ!!」
突然名前を呼ばれて、声のした方向を振り返る。
するとそこには、酷く息を切らした様子でいる友人達がいた。
みんながみんな学生服でいる事から、通学前に、私の見送りに来てくれたのだろう。
「み、みんな・・・」
「よ、良かった・・・!間に合わないかと思ったよ!」
「遅刻しちゃうよ・・・?」
「こんな時に変な心配するんじゃないの・・・」
私の言葉に、呆れた様な視線を向けてくる彼女。
すると、周りから次々と声が挙がる。
「菫ちゃんっ!志刻学園でも頑張ってね!」
「たまには連絡寄越せよ」
「絶対負けないでね、応援してる!」
「みんな・・・ありがとう!」
そう応援の言葉を貰って、最後の挨拶を交わしてから、私は車に乗り込んだ。
本当に、私の通っていた高校では、良いクラスメイトに恵まれたと思う。
おかげで、少しばかり編入の不安も減った。
みんなには感謝しかない。
高校に上がるまでの、みんなとの思い出を頭に思い浮かべながら私は、もう寸前にまで迫った学園を見上げて、一言呟いた。
「よし・・・頑張るぞ」
そう決意を口にしたのと同時に、私の乗った車は、志刻学園の校門を潜ったのだった。