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連続殺人

 スマートフォンのアラームが部屋中に響き渡る。それを止めるべく、少女は布団からにゅっと手を伸ばし、アラームをストップする。


「……ふぁぁ。」


 春の陽光に再度眠りを襲われそうなところを何とか堪える。

 肩をぐっと伸ばし、小さく欠伸をする。

 腰まで届く茶髪に黒目がちの瞳が印象的な少女だった。

 少女は眠気を払うべく、最初に洗顔を済まし、制服に着替え、机に置いてある生徒手帳を手に取る。手帳の氏名欄には伊吹真理沙(いぶき・まりさ)と記名されている。彼女の名前だ。

 身支度を整えた後は朝食の準備をする。寮生活のため家事は全て自分でこなさなければならない。彼女が取り出したのは、レトルトカレーだった。

 キッチンには包丁、まな板はない。その代わり食料棚には山ほどのインスタント食品が詰められていた。多くは語らないが、つまりはそういうことである。


 真理沙はレトルトカレーを頬張りながら、テレビをつける。真っ先にニュースキャスターの現場実況がじんじんと響いてくる。


 近頃のニュースはどこの放送局も連続殺人事件の報道で絶えなかった。

 狙われるている者は皆、優秀な異能者達ばかりであり、遺体はいずれも刀傷によるものだった。


 目撃者の情報によれば、犯人は白髪で鮮紅色の瞳を持った男らしい。

 鮮紅色の瞳を持つとなると大抵は人間ではなく、鬼と呼ばれる者達である。人間の数倍以上の身体能力を持ち、格闘戦では負けなしの種族と言われる。

 しかし、異能者界隈でしか語られない事実であり、一般のメディアからすれば、今回の事件は恐怖そのものだろう。SNSを見ても殺人鬼に関する恐怖の声が度々上がっている。


 それもその筈で、連続殺人は一週間で十件も超える。これが同一の犯人に因るものであれば見過ごせない問題である。


「白髪に鮮紅色の瞳……。」


 警察も全力で対処はするのだろうが、鬼相手となると彼らは無力同然となる。

 今回の犯人に匹敵する人物は飛切り優秀な異能者でなければ勝ち目はないだろう。


---


 外に出るとふわふわとした空気が漂う。

 桜が舞い、歩道は桃色で覆われていた。鮮やかな春色に包まれているところを見ると、まるで事件が起きていることが嘘のように感じられた。


 四月も既に中旬。高校二年に進級して少しずつ変わった環境にも慣れたところだ。


「伊吹先輩、おはようございますっ!」


 背後から駆けてくる後輩達が挨拶してくる。彼女達の瞳には幾許かの尊敬の念が込められていた。

 真理沙が「おはよう」と返すと女子達はキャーと騒いでいた。


 歩くこと数分、真理沙が通う学校が見えてくる。立地は東京の巣鴨に位置する。

 天ノ御簾女子高等学校。真理沙が通う学校名である。表向きは女子校だが、中身は異能者の中でも特に巫女の者達が集う組織だった。一見、普通の女子生徒のようでも常人を超えた力を秘めた者達ばかりだ。

 校舎の造りは高校というより大学に近く、複数の建物が敷地内に詰め建てられていた。


一羽の白鳩が真理沙の元に飛んでくる。すると白鳩は形を変えて暗号文となる。これは使いの式神だ。


「校長室に来い……?」


 どうやら校長からの呼び出しのようだった。


---


 呼びかけに応じ、校長室へと向かう。校長室は本来厳粛な空気を纏っているが、この学校の校長室は不思議と威厳さがない。

 何やら香ばしい匂いが漂ってくる。


「失礼します。」


 ノックをするとすぐに「入れ」と返事が来る。

 入室すると、ジューッと香ばしい匂いが全開になる。


「……校長、一体何をされているのですか?」

「見て、分からんか。焼肉だ。今朝はこってりしたものが食いたくてな。」


 校長室の机は何故か鉄板となっており、大量に仕入れた豚肉と牛肉を一斉に焼いている最中だった。

 黙ってみれば、仕事のできる美人ビジネスウーマンといった風なのに、品のない行動が彼女の美麗さを邪魔していた。


「ああ、君を呼び出したのは他でもない。今、世間でお流行りの殺人鬼の討伐を命じる。」

「唐突ですね。」


 焼肉にがっつく校長だが、内容は至って真面目だった。


「唐突も何も周辺地域の異能事件はこの学校の管轄だからね。まぁ君の力ならどうってこともないだろ。いや、まぁ敵もそこそこ力のある鬼だから注意するに越したことはないけどね。」

「犯人をご存知なのですか?」

「外見の特徴からおおよその検討はついているという感じかな。特徴的な白髪と報道もあったことから奥州の白鳳(はくほう)家の末裔だと見てる。」

「は、はぁ。いえ、しかし、彼らは数年前に滅んでいると聞きますが?」


 すると、何やら資料が手渡される。書類には「白鳳家の真実」と記されていた。


「誰もが知るストーリーなら白鳳家は人間達の手により一人残らず滅んだとされている。だが、実は一人だけ生き残りがいたんだ。」

「それが……今回の。」

「ああ。おそらく。」


 歴史とは事実だけではなく、時には誰かの創作が混入する場合もある。白鳳家もその例に該当するのであれば有り得るのかもしれない。


「信じる信じないは君の判断に任せるよ。」


 肉を咀嚼しながら真面目に説明してる姿が何処と無く奇妙だった。


「ともあれ、この件は宜しく頼んだよ。」

「了解いたしました。」




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